契約への試練
「えっと、これだけ作れば良いですよね?」
ボクは一品だけでは足りないだろうと思ってたくさんの料理を出した。
「え!? あたしのために作ってくれたの!? 君、いい人なんだね!」
そう言うと、がつがつと食べ始める金髪……じゃなった。灰色の髪の少女。よほどお腹がすいていたのだろう。数分足らずで全部を食べてしまった。
四人前ぐらいはあったはずなのだけど……。
「ふぅ。おいしい! 君、かなり料理の腕が良いんだね! あたしはこの味気に入ったよ!」
「えっと、ありがとうございます」
照れくさそうに言う。すると、金髪少女はジッとボクを見てくる。
その瞳は赤く、何かを観察するようにしていた。
「しかし、どうしてお前はこんな所にいたんだ?」
キリがそう聞いてやっと目を逸らしたかと思うと、今度は一歩二歩ボク達から離れたところで振り返った瞬間――。
「それはあたしと契約することができたら教えてあげよう。人の子らよ」
――ボク等は全員、宇宙にいた。
「「「!?」」」
正確にはフィールド魔法に似た何かがここで展開されたのだ。
いつもの『無の世界』じゃない。一体これは――。
「な~んて、神様らしく言ってみたけど、どう?」
「「「……は?」」」
ぽか~んとするボク達三人。完全に今までの考えが吹っ飛んだ。
そんなボク達を置いてけぼりにして彼女は答えた。
「ここがどこか知りたい? じゃあ教えてあげる」
何を言わずとも教えてくれるそうだ。神様は一歩二歩と横に歩き出す。
「ここは試練の世界。神にはそれぞれ専用の空間を持っている。そこに契約させる相手を招く。人の子が試練を達成できればあたしはその人と契約し、できなければ、あたしに関する記憶がすべて消されて元の世界に戻る」
死にはしないけどもう二度と会えなくなる可能性があるってことなんだ……。
避けなきゃ。今ここでこの神様を契約しなくてはいけない。
これから、どんな道のりになるか分からないから……。
だが、それを超えるために、ボクよりもキリ、マナ、白夜に神様と契約させたいが……。
「えっと、貴方は誰と契約させるためにウチ達をこの空間に呼んだの?」
マナが緊張した顔で質問すると、神様は無言で指差した。
「へ? ボク?」
間の抜けた声が出て、キョトンとする。
「言ったでしょ? あたしは君の料理が気に入ったんだよ! 見たとこ君は神使い。すでに二体の神様を持っているようだがそれと同時に聖地も持っている事がわかった。聖地を持っているなら神様と何体でも契約できるからね!」
ビシッと指を指してくる神様。
その中でボクは一番思ったことはコレだろう。
――料理で神様って釣れるものなんですか……?
最近、神様がかなり身近な存在に見えてきた……。人と似たような物だと。
『りく。やっぱりあいつは『日本の神様』じゃないです』
(ありがと、シラ)
それだけでも十分情報になる。
「で、試練ってなんだよ」
「簡単だよ」
神様はそう言うと、歩を止めた。
手を高く上げ、そして――掴んだ。
「三日月宗近。と言う名刀を知ってる?」
それと同時、彼女の服は動きやすいバトルドレスとなる。そして神様の手に握られているのは一振りの太刀。
鞘はすでに抜き放たれていて、その刀の形状は実に綺麗で優雅な物であった。
「……天下五剣の一つ。……日本で、一番美しいと言われた太刀」
白夜が知っていたようで、神様に答える。
「あたしはそれを見た時、人間は凄いねって思った。だってあんなにも美しい物を作れるのだから」
そして太刀を構える。
「これはその三日月宗近ではないけれど、あたしがなるべく似せて作った物。試練は簡単。あたしに実力を見せて、名前を当てて」
――やはり名前を当てなければいけないのか……。
ある程度予測はできた。日本の名刀、『三日月宗近』が好きだと言ったけど、彼女はローマ神話の神様や日本の神様じゃない。
そして、他のヒントは……。
(夜の何かを司る神様。昼間には感じなかった神様の魔力が夜には感じたことが一番の理由。もう一つ、分かりやすいのは頭についているヘアピン)
月のヘアピンだ。そのまま受け取るなら月の神様だってこと。なら……。
「えっと……貴方の名前は〝アルテミス〟……ではないですよね?」
確認しながらそう聞いてみると……。
「残念。〝アルテミス〟ではないね」
肩をすくませる神様。ちょっぴり落ち込んでいるような気がする。
そして……。
「ほら、試練は始まった。名前を当てるのも大事だけどあたしを攻撃して実力を見せるのも大事だよ」
それを聞きた瞬間、キリと白夜が前衛に出た。
「リク! お前はこの神がなんの神なのかをまず当てろ! その間、俺と白夜でこいつの相手をする!」
「わかりました! お願いします!」
キリが雷の拳を神様にぶつける。
だけど神様は片手でその手を防ぐ。
簡単に止められてしまったけど、それを見越してなのか、今度は雷を纏ったキリの右足で蹴りあげた。
それをなんとかかわして、今度は神様が太刀で攻撃しようとすると、横から白夜のガンランスが太刀を防いだ――キィン!
「……撃て」
ズドンッ! と音を鳴らして銃弾を撃つが、その程度、神様は悠々と避けてしまった。
それを確認すると、今度はガンランスを引いて横のなぎ払いを仕掛ける。神様は太刀で受け止めると、そのガンランスの上に片足で踵落としを放ち、落とそうと試みるが残念ながら白夜はこれを耐えきった。
「〈雷剛拳〉!」
「くっ……!」
注意が白夜にいっていたからか、キリの手が神様の腹部に当たる。
それでも、当たる瞬時に後ろに跳んでいたからか、そこまでのダメージがあるとは見えない。……って言うか……。
「後ろに跳びすぎじゃない……?」
ただの跳躍なハズなのに、優に五十メートル以上跳んだ。
地上にふわりと降り立つ。
やっぱりここは宇宙で……どこ? 宇宙だったら普通は息ができないし……いや。神様の専用フィールドだったらできる可能性もあるか……。
そう考えた時。
「リクちゃん。あれ……」
上を見るように言われ、ボクはその方向に向く――と。
そこには水色の星。正確には地球が見えた。
「え!? どうして地球が見えるの?」
地球が他の星よりも一番近く見える……と言うことは……ここは月面!?
そう言えばクレーターとかもあるし……。
「写真で月面って見たことがあるような気がするけど、こんな感じになってたんだ……」
「ここが月面ってことが分かったからあの神様はきっと月の神様だよね?」
先ほどまでのボクの考えを裏付けるような感じで答えるマナ。
これが本当なら……。
(ええっと。月の神様って〝アルテミス〟の他にいたっけ……)
ローマ神話や日本の神話にならそれぞれ〝ルーナー〟。〝ツクヨミ〟と出てくるのだが……この二つはディスとシラの証言によって違うとされた。他の神話にまだ月の神様がいただろうか……?
ボクがそう頭を悩ませていると……。
『リクよ。妾、少し思い出せたのじゃが……』
頭の中で聞こえたルナの声。思い出せたってことは期待できそうだと思い、聞いてみた。
(あの神様、知り合い? ってことはギリシャ神話?)
『うむ。うろ覚えなのじゃが……確かあやつは妾の唯一無二の親友だったと思うのじゃ』
(え? どういうこと?)
『信仰していた人間は、妾とあやつを同一視していた者がいてのぅ。あやつの名前は確かぁ……せ……せ……むぅ。なんじゃったかのぅ』
そこまでで十分だった。ボクは思いっきり忘れていた名前を思い出した。
(大丈夫。わかったから。ありがと、ルナ)
ボクは刀を握り締める。
「わかったの? リクちゃん」
「うん。でも、聞こえるところまで近づかないと……」
ここからではどうしても声が届くとは思えない。
刀とガンランス、そしてキリの雷を纏った拳でぶつけ合っている状態で、声が聞こえるとは思えない。
「マナちゃんはここで援護をお願いね」
「う、うん。がんばってみる……」
(……? マナちゃん?)
マナの歯切れの悪い言葉に、ボクは少し疑問を感じる。
ファイヤーバードはそんなマナの背後に守るように寄り添う。
「がんばろう。ファイヤーバード」「――――」
マナが小さく、精霊であるファイヤーバードと話す。
「行くよ、ルナ、シラ」
『うむ』『わかりました』
その姿を見ながら、ボクも気合をいれて一歩を踏み出した。
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