校舎の夜
学園の夜。校内の中は真っ暗で、先があまり見えなくて……つまり!!
「リク、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……です……」
とっても怖いです!!
口先では大丈夫なんていくらでも体は正直で、今現在ボクはキリの手に捕まって――詳しくは腕にからませて――完全に腰が抜けている状態だ。
「はぁ……。先が思いやられるっつぅか……」
反面。キリは完全にボクの反応に呆れかえっている。
(心臓止まれ! そんなにうるせぇとリクに聞こえるだろうが! ってか男と男がくっついてる所なんだから普通は気持ち悪がる所なんだよ!)
などと、本当はキリはキリで葛藤していた。
しかも……ガンッ。
「ひゃっ!」
「!?」
大きな音が鳴るたびに……。
「ごめんね~。扉にぶつかっちゃった~」
「脅かさないでくださいよマナちゃん! 心臓が止まるかと思いましたよ!」
ボクは涙目で怒る。マナは「あははは……」とか言いながら頭の後ろをかいていた。
(し、心臓止まるかと思った……)
大きな音と同時にキリにしがみついてしまったボクにより、キリは別の意味で心臓が止まりそうだった。
「むぅ……。今のところ一番の天敵はキリさんだね……」
「ユウちゃんもそう思う? 私もそう思うわ……」
「……BL界の人にはおいしいネタだけどGL界の人間にはリクちゃんが汚されるって血の涙を流すところ」
「「ごめん(なさい)。何を言っているのかわからない(わ)」」
何を言っているのか全く分からない白夜にソウナとユウが同時にツッコム。
「……せめてキリも女にしろと言う」
「白夜さん。正気に戻って……」
ソウナがそう懇願しても白夜が戻ることは無かった。
「…………」
そして後ろから黙ってついてくるレナ。特にどこを見る訳でもなく、ジッとボクとキリを見つめているだけだった。
しばらく進むと、食堂の一歩手前についた。食堂の扉は閉まっているが鍵はかかっていなかった。
「よし。ユウとカレンは人払いの結界を張るね♪」
「あ、うん。お願い」
人を入らせないため、絶対に必要なことなんだろう。だけど……。
「ユウ。さすがに二人でこの赤砂学園を覆うほどの広さは張れない。せめてもう二人必要だ」
カレン曰く、人払いの結界は魔力関係なく一人につき結界を大きくさせるのは限度があるらしい。
その限度が、この赤砂学園よりも四分の一ぐらいの大きさなのだから、もう二人必要とのことだった。
「うぅん。じゃあ誰にしよっか?」
ユウがそう答えると、二人が手を上げる。
「私なら人払いの結界を使えるわ」
「わたくしも使えますわ」
補助魔法に強く、防御術を中心に魔法の鍛錬をしているソウナと、水を扱う精霊使いのレナが答える。
「決定だな。ではそれぞれ所定位置についたらユウにCメールで報告。食堂に入る者にはユウが携帯で連絡する。いいな?」
カレンが指揮をする中、全員がそれに頷いた。
しかし、まだ中に完全にいると決まった訳ではないのにこうやって覆うのはいいのだろうか?
「それなら大丈夫だよお兄ちゃん♪」
「だから読まないでって……」
ボクの考えを読んだユウが答えてくれた。
「中から感じない? 大きな魔力を……」
ユウがそう答えたと同時、全員が食堂の扉から流れてくる壮大な魔力に気が付いた。
「これ……」
「温かいわ……」
温かい魔力。それからわかったのだろう。マナが答えた。
「つまり中にいるのは神様ってこと……?」
「ぴんぽーん♪ 正解♪ 悪魔だったら温かい魔力じゃなくて冷たい魔力なはずだから」
これで一つの謎が解けた。
幽霊でも悪魔でもない。中にいるのは神様だってことだ。
しかし神様がどうして赤砂学園に……?
「とりあえず私たち四人は所定位置につこう。行くぞ」
そう言った後、カレンがその場から消え、続いてユウ、レナ、ソウナが消えた。
「とりあえず安心ですね……」
ボクが同意を得ようと三人に聞いた。
「ああ、そうだな」
「悪魔だったらちょっと怖かったもんね~……」
「……大丈夫。……悪魔でもきっとなんとかなる」
それぞれから同意を得られた。ただし一人以外。
「相変わらず白夜さんは最悪な事態を想像しているんだね……」
そう答えたボクに、白夜は少しだけ近づいた。
「……つねに最悪を想像した方がいい。……これはお父さんの言葉」
白夜が声に出してそう言うと、キリが「なるほど」ときりだした。
「つねに最悪を想像していればどんな状況にもついていけるってことか?」
「……(コクコク」
キリの答えに白夜は頷く。
どんな事態にもか……。そう言うことが言えるってことは白夜の父親は結構すごい人なのかなって思う。
力の無い人は逆に最悪を想像したくはないだろうから……。
「そう言えば今何時かな?」
「確か、11時30分ぐらいだ」
マナの言葉に、キリが答えた時だった――プルルル。
「ひゃっ!」
「お、落ち着けリク!」
「……キリも落ち着くべき」
すぐに携帯の音だとわかったボクはすぐに手を離す。
条件反射で怖がって抱きつく癖を直さないと……。
それを見てから、キリは電話を耳元まで持っていく。
「ん。分かった。それじゃあ俺達はこのまま食堂に入るからな」
ピッと音を鳴らして携帯をしまうキリ。
「大丈夫ですか?」
「ああ。行くぞ」
そう言ってキリは食堂の扉を少しづつ、キィィ……と弱い音を鳴らして開けた。
中に入る四人。
ボクは周りを見渡して……特に月の光が入りそうな窓側をよく見る。
「誰もいませんね……」
「ああ。魔力はかんじるんだがな……」
とりあえず、どんな事態になっても大丈夫なよう、人払いができている結界の中でキリ、マナ、白夜はそれぞれ魔力を解放しておく。不測の事態に対応できるよう、言葉を紡がなくても発動できる無属性の基本魔法を使えるようにするために。
身体強化魔法はこの無属性の基本魔法に当たるため、言葉を紡がなくても発動できる。
「……とりあえず、何か食べ物を持ってきて同じ状況を作る」
白夜の提案により、ボクとキリ、そしてマナはそれぞれ頷いた。
ボクは食堂にあるキッチンに向かい、勝手だが食材や食器を使ってハンバーグを作った。
それを座っているキリとマナと白夜の座っている席に持っていき、テーブルの上に置いた。
「そう言えば真一は何時って言ってましたっけ?」
「確か、11時46分だって」
「要約すると『良い夜』」
「いや、それはねぇだろ。ただの偶然だろ?」
そして待つこと15分。丁度11時45分になった時だった。
話していたボク達の横、窓の外側から一人の金髪の少女が近寄ってきた。
顔を伏せている事により顔は見えない。頭には月のペアピンに、服は白いドレスに身を包んでいる。そんな、場違いな服装に反応してしまいそうだったけど、今は黙ってキリたちと話す。
こちらが魔力を解放しているとはいえ、向こう側が分かる可能性があるかどうかは分からない。
せめてあの少女が真一の見た金髪の女なら……。
…………? そう言えばソウナは女性って言ってたっけ……。
だったらあの子は違うのかな? いや、でもこんな時間にこんな所に来る子なんて……。
そう思った瞬間だった。
――金髪の少女が窓をすりぬけてきたのだ。
「「「!?」」」
あまりにも突然なことに、ボク、キリ、マナは驚いてしまい、彼女に気づかれてしまった。
「…………? そこの人間達。あたしが見えているの?」
キーが高いその声に、ボクは思わず息をのんだ。
そう、この世のものではない。それが絶対に分かるような声だった。
「聞こえていないのか……もしくは聞いていないのか……いや。こちらを向いたままってことはあたしが見えているんだってことだよね」
そう確信してくる金髪少女。自分のことを『あたし』と呼ぶ彼女の髪の毛は、確かに真一が言っていたように光っていた。
……いや、違う? 光の粒が髪についているようで、正確には……灰色? 灰色の髪をしている。
「……貴方は、誰?」
白夜がボク達が言うよりも早く、そして単刀直入に聞いた。
その質問に、答えるより先に……。
「うん。その答えは言いたいところだけど……」
そう言うと――ぐぅぅ。
「「「へ?」」」
三人して目が点になる。
その音は、明らかに目の前の少女から発せられたものであり……、全く予期していなかった事であった。
いや、ハンバーグを食べると聞いたからなんとなく予想ができたような気もするが……。
ともかく、顔を見せまいと伏せた少女を尻目に、ボクは再度、無言でキッチンに向かった。
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