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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第一章 進軍する者
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おかしいですよね?



「――と言う訳で、彼女は今日からこの桜花魔法学校に通う事となった。さぁ、自己紹介」

「はい。今日から一緒に学ばせていただく、ソウナ・E・ハウスニルと言います。よろしくお願いします」


 行儀よく礼をする透き通った青髪の少女、ソウナは、なぜこのクラスに? と思うボクの思考を完全に取り残して行った。

 それもそうだろう。

 彼女は今まで補助(アシスタント)だったはずなのだ。

 どうしてこの、精霊使い(スペイレイトハンドゥ)に?


『まぁ、あやつを手懐けてしまったんじゃからのぅ』

『しょうじき、びっくりしました。『進軍する者』はきほん、ひとと『契約』しないのですが……』

『まぁ、流されやすいし、情を大切にする奴じゃからのぅ』

『そこをつかれるとは……』

『でも、納得じゃのぅ』


 頭の中で二人の神が話し合う。本当、何を言っているのかさっぱり……とはいかない。

 その場所にいたのだ。ボクは。

 ソウナが……神を言いくるめて(、、、、、、)手懐けた(、、、、)その場に……。


 時間は一週間前に遡る……。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ジーダスから二週間ほどのころ。


「よし! リク君。神具の使い方を教えてくれないかしら?」


 ソファから立ち上がるソウナ。ボクは読んでいた本から顔を上げて、読むスピードを上げると言う魔具、速読の眼鏡を外した。


「え? ボクがですか?」


 今は亡き父に暗い空気を今まで漂わせてきたソウナの明るい一言。

 だからボクはソウナが教えてくれと頼んで来てくれたことはとても嬉しかった。


 ソウナは居候ではあるが、ボクの大切な家族として、母と妹と三人で迎え入れた。この赤砂家に。

 部屋は、二階のボクの隣のユウの部屋の隣の部屋が空き部屋だったので、そこを母が改装してソウナの部屋にしたのだ。

 最初に入ったころはベッドと机、イス、クローゼットと、とても少ない物だったが、今ではいろいろな家具が置かれているらしい。最初以来入って事が無いから『らしい』なのだが……。


 にしてもなぜボク? まだ二週間と三日ぐらいしか魔法に関わっていないのにソウナの神具の使い方を教えるようなことができるとは思えない。


「あなた以外に誰がいるのよ」

「ユウとか……母さんだって」


 ボクはとりあえず、身近な神使いの名前を上げる。まぁユウは妹で、もう一人は母さんだからどちらも家族なのだが。


「ユウちゃんは仕事で忙しいでしょう? カナさんからは……何があるかわからないから学びたくないわ」


 母さん、信頼ない……。これまでの所業を見れば納得するけど……。


 一、ソウナが家に来て次の日、さっそくソウナを捕まえてコスプレをさせる。(何のコスプレかはご想像にお任せします)


 二、ソウナの入浴中にユウと一緒に乱入。この日のお風呂は、人生で初めて疲れがたまったらしい。


 三、朝起きると、ボクの隣にソウナが……。しかも手錠でソウナの右手首とボクの左手首を繋がれていた。犯人は母さんだった。


 四、母さんは前、ソウナから仕事のなんたるかを教わ……ってこれは違った。


 とにかく、母さんはこれまでの二週間、遊んでばっかりだったってことだ。


「あははは……」


 もはや笑うしかない。

 本当はソウナを元気づけたくてやっていたなんて、分かりきったことは口にしない。いや、三はあきらかに悪戯だと思うけど……。


 ソウナもなんとなくわかっているようで、クスっと笑っていた。

 こう言う姿を見ると、前よりも明るくなったことが良くわかる。


「そういうことで、リク君。神具の使い方を教えてくれないかしら?」


 ねだるソウナに、ボクは素直に答えた。


「えっと、意外と簡単ですよ? 神具を使うのは」

「リク君がおかしいのよ。私だって何度か試したけど、ちっともこの剣は答えてくれないわ」


 そうすると、どこから取り出したのか、ソウナの手に『進軍する者』の剣が握られる。

 神様らしい装飾のされた鞘に納まっている剣。ボクの視界では光の魔力が光っているのがよくわかる。とても綺麗な色の剣だ。

 この剣をソウナが振るっている姿がありありと想像ができる。

 そうしてボクは一つの答えを言ってみる。


「うぅん。だったら、この剣に宿っている神様の名前を呼んでみたらどうですか?」

「呼ぶ?」


 頭にハテナを浮かべて、剣をマジマジと見つめる。


「はい。だって、神具は名前を呼ばないと答えてくれないってボクは思うんです。ルナやシラだって名前を呼べば――」


 そこまで言うと、光がボクの周りに集まり、放たれる。その光はそれぞれ二か所に集まって人型となる。


「なんじゃリク?」

「わたしたちになにかようなんですか?」

「ほら、この通り」


 名前を呼んだだけで見事に出てくる二人。

 金髪で鈍色のワンピースの方がルナで、氷のティアラと六本の氷の対になっている羽を持つのがシラだ。


 それぞれさっきのソウナとは違うハテナを浮かべてボクを見てきた。


「へぇ。神型って名前で繋がってるのね……」

「まぁそんなもんです」

「なんじゃリク。説明でもしておったのか?」

「わたしはまだねむいです……」


 ルナもシラもなんだか眠たそうだ。シラは目を手でくしくしと擦っている。


「ごめんね、二人とも。そうだ! 今から紅茶でも入れようかな?」

「む。リクの紅茶は一段とうまい。貰おうかのぅ」

「わたしも……。おねがいします」


 そんな二人に微笑みをかけて、ボクは台所にあるポットを使ってお湯を入れ、紅茶を作る。

 二人が好むのは―いろいろ試した結果―アップルティーなのでそれを作ると、10分ほどかかってしまった。


「はい。熱いから冷ましながら飲んでね」

「うむ」「ふぅ。ふぅ」


 ルナは受け取って、熱いままで飲み、シラは息を吹きかけて冷やし、冷まして飲んだ。


 シラの息はかなり冷たく、熱かったアップルティーは瞬時に冷めたであろう。急激な温度差によってコップが割れないかちょっと心配だ。

 ただ、急激に冷めることによって味は熱い時とあまり変わらず飲むことができるらしい。シラに聞いただけなので、ボクが試したと言うことじゃないが。

 そうしていると、ソファに座って、剣と睨めっこをしていたソウナが顔を上げてボクを見上げる。


「……だめね。お父さんはこの剣に宿る神様がなんていう名前か教えてくれなかったわ」

「そっか……。何かヒントかあれば良いんだけど……」


 う~んと二人で考えていると、ルナが何かに気がついたようにしてソウナを見る。


「なんじゃ? その剣に宿っている神の名前を知りたいのか?」

「? ルナちゃんは知っているの?」


 ふふんっと得意げにすると、ルナは楽しそうに答えた。


「当たり前じゃ、同じ神じゃしのぅ。じゃが……ストレートで言っても面白くはあるまい。その剣の名は『グラディウス』じゃ。そこから連想してみてはどうじゃ?」


 グラディウス? よくRPGとかに出てきそうな名前だね……。


「何かしら……それは……」


 深く考え込むけど何も思いつけず、ただ時間だけが過ぎて行った。

 その間、ズズズ……と、アップルティーを呑む音だけが響き渡っている。

 グラディウス……グラディウス……。


「うぅん。わかんないですね……」

「…………あ」


 ソウナが思いだしたように顔を上げたので、ボクはソウナに顔を向けた。


「思いだした……。確か、お父さんが私の小さい頃に読んで聞かせていた絵本の中に『グラディウス』って出てきた気がしたわ……」

「それってどういう題名の本なんですか?」

「ええっと……確か……」


 ソウナが手を額にあてる。なかなか出ないようだ。まぁ絵本って言ったら、10年前以上だと思う。

 ルナが楽しげにソウナを見る。シラはアップルティーに釘付けのようだ。


「マルスの大冒険――」


 ドク、ン――。


「え……」


 今……剣が鼓動した……。

 その時――キィィンッ。


「え、きゃあ!」


 ソウナの悲鳴と共に、視界は光に包まれた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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