軍事会にて
視点が雑賀にうつりまぁす。
「はぁぁ……」
ため息をつく。
「どうかされたのですか? 前にリクちゃんを思っていた時のホームシックな顔その物ですよ?」
「まだそれは続くのか……」
前にこういう場面を見た気がするのだが、俺は気にしない事とした。
「だがなぁ。妃鈴。俺達はジーダス攻略戦からリクちゃん達と一度も会っていないんだぞ?」
「仕方がありません。ロピアルズの仕事はとても忙しいですし……」
そう言って妃鈴は自分の机の隅に積まれている書類を見る。
俺のところもそんな感じに積まれている。
俺と妃鈴が片付けている書類は商業会が回してきた書類だ。
所属しているのは軍事会で、ロピアルズで一番上の会と聞かされた。
すべての会をまとめるのがこの軍事会であり、それだけの実力者がいるということだ。
だが軍事会のことは、俺は今まで一度も知らなかった。
つまり表には公表されていないということだ。
ロピアルズである最高の機関のことを、一般人に知らせる必要はない。市民をまとめるような会で表に立つのは警察会だけで抑制をかけられるということだった。
実際、警察会だけで十分この国、『ライコウ』をまとめ上げていると思われる。
その上で軍事会が表に出てもあまり意味は無いだろう。
それだったら警察会をしのぐほどの実力を持った企業が暴れた時のために軍事会を隠しておいた方がいいと俺も考えた。
これは余談だが、軍事会は他の会と違って、何を着て仕事するかは自由らしい。
だから……。
「あれぇ? 二人ともお仕事してるのぉ?」
こうやって寝間着姿で仕事場に来るような人がいる。
「どうも、寝虚ちゃん。こんな時間に珍しいね。君のような可愛らしい子がここに来るなんて」
「うぅん。そうなのぉ? よくわかんなぁい。ほわぁぁ……」
黄色い寝間着姿で兎の枕を持った寝虚があくびをしながら俺の質問に答えた。
どう考えても小学生幼女体系。いや、カナよりも背が低い。
最初に見た時はカナと同じように合法ロリかと思ったが、実際に彼女の年齢は9歳と言う小学生の年だった。訳あってロピアルズにいるらしい。
水色の髪に瞼が半分おちている。いつも眠たそうにしていて、ここ一ヶ月、彼女の瞼が完全に開いたところは見たことが無い。
言い忘れていたが、彼女の名前は実寝寝虚という変わった名前だ。
「そうですよ。寝虚ちゃんはいつも夕方ぐらいに顔を出すじゃありませんか。今日はどうして?」
「うぅん。今日は寝虚ぉ。たまたま起きちゃったから仕事場に来たんだぁ」
にぱーってしながら寝虚は言う。相変わらず眠たそうだ。
しかし……このような時間に来ても寝虚に合うような仕事は用意してやれないから……どうしたものか……。
ちなみに彼女は学校には通っていないらしい。じゃあ仕事に来ていない時はいつも何しているかって?
ロピアルズであてがわれた部屋でずぅっと寝ているらしい。
「ですけど……今は仕事はありませんね……。どうしましょう、天童さん」
「仕方ないな……寝虚ちゃん。こっちにおいで」
「わかったのぉ」
フラフラとした足取りで俺に近寄ってくる寝虚。
こう言う姿を見ていると、本当に軍事会に選ばれるほどの力を持っているのかと疑ってしまう。
俺と妃鈴はコンビで軍事会に選ばれた。
それぞれの力は警察会の力の下ほどしかないが、俺と妃鈴が力を合わせた場合のみ、軍事会にぎりぎり入れるぐらいだった。
ガルムは警察会、デルタは諜報会だ。
グレンはまだ学生だからということだが、将来ここに来るんだったら警察会か武芸強化会は約束されている。 軍事会に入りたいんだったらもっと力と知能をつけてほしいとのことだった。
「よいしょ。ここでいいのぉ?」
「よしよし。いい子だ」
寝虚がいつの間にか俺の膝の上に座ってきた。そんな寝虚の頭をなでると、寝虚は目を細めた。少々書きづらいが気にしない事とした。
女の子には優しくするのが俺だ。
「天童さん? 何をしているんですか……?」
妃鈴が笑顔なのだが顔を引きつかせながら聞いてきた。
「何って、寝虚ちゃんを呼んだだけだが?」
「ど、どこに座らせてるんですか!!」
「雑賀の膝のうえぇ」
寝虚が無邪気に答える。
その姿に俺はとても微笑ましく感じる。
「…………ロリコン」
「ちょっと待て! どういう意味だ!?」
「どういう意味も何もそのままです!! このロリコンオヤジ!!」
「俺はオヤジでもロリコンでも無いぞ!? 世界の女性を等しく愛しているだけだ! デルタほど無差別ではないが」
「ロリコンじゃ勝ち目が無いじゃないですか……」
なぜか泣きながら言う妃鈴に、俺はまさかと思う。
「まさか……妃鈴、もしかして俺のこと好きなのか?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか! 天童さんのような浮気ばかりしそうな底辺男なんて絶対に嫌です!」
そ、そこまで言わなくても……。
かなり落ち込む。さすがにボロクソ言われれば俺だって落ち込む。
そんな俺を察してか、寝虚が眠たい目を頑張って開けながらまだ発展途上な手で俺の頭を撫でてくれた。
「よしよし。落ち込まないでぇ。雑賀もきっといいことあると思うよぉ?」
「何故疑問形かは置いといて。ありがとな、寝虚ちゃん」
お返しにこっちも頭を撫でてあげると、寝虚は眠たそうな目を瞑った。
しばらくそうしてると寝虚はそのまま眠りこけてしまった。
「諦めちゃダメ……諦めちゃダメよ私……」
妃鈴が何やら陰で自分にエールを送っているが、何を諦めないのか、俺にはさっぱり分からなかった。
とにかく、寝虚が膝の上で寝てしまったことにより、俺は仕事があまりできなくなったということだ。
仕方ないので寝虚を起こさないよう注意しながら、仕事場の寝虚専用ソファに寝かせる。
寝虚は幸いと言うべきか、寝返りも何もせずにぐっすりと眠っているままだった。
俺は自分の席に戻ろうとしたのだが、寝虚が袖を掴んで離れようとしないので仕方なしにソファに座る。
「コーヒー、淹れましょうか?」
妃鈴が先程までの雰囲気と打って変わってそう言ってきたので、俺は遠慮せずに答えた。
「頼む。ブラックでいい」
「了解いたしました。少々お待ち下さい」
妃鈴は席を立ち、仕事場にあるポットに向かって歩いた後、コーヒーを二つ分注いで、戻ってきた。
そして片方に持ったコップを差し出してきた。
「どうぞ」
「ありがとう、妃鈴」
そして俺はコーヒーに口をつける。
(そう言えば、最近、悪魔に関する事件が多いらしいな……)
妃鈴に頼んで一つの書類を持ってこさせる。
そして俺はそれに目を通す。
そこには……。
『先月の事件数:18件 内、悪魔が原因となるもの、14件』
と記されている。
これは警察会が軍事会に送ってきた物だ。ただし俺当てじゃない。カナ当てだ。
そのカナが……いや、直属であるルーガが軍事会や他の会にもこれは見てもらった方がいいだろうと判断した結果、すべての会にこの書類が渡っている。
先月は4件以外、すべてが悪魔の原因だと……。
(これは異常だろ……他の月がどれくらいなのか知らないが)
「それ、やっぱり天童さんも気になるんですか?」
考えていると、妃鈴が横槍を入れてくる。
「ああ。ソウナの時のあれを見るとな……」
悪魔が徘徊している。そんなのを市民が知れば国が危なくなるだろう。
主に混乱して。パニックになった人間は大体が思考能力を持っていかれるからな……。
「少し、街を回るか……」
「そうしましょうか」
そう言って立ちあが――
「うぅん……」
――れなかった。
右腕の袖が寝虚によって引っ張られる。
「…………もうしばらくここにいようか……。せめて寝虚ちゃんが起きるまで……」
「そんな時刻にはもう夕方ですよ……」
妃鈴が呆れながらそう言うと、コーヒーを持って自分の席に戻っていった。
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