妙な……
「お待たせ」
扉を開けながら言うボクに真一とソウナが同時に振り向いた。
「お、待ってたぞリク」
何やらニヤニヤしている真一と……。
「リク君、真一君って結構詳しいのね」
何やら楽しそうにしているソウナがそこにいた。
「へ? 何に?」
ソウナの言葉につい疑問を返してしまってから気がついた。
真一が詳しいと言われることなんてたったの一つしかない……。
「彼、幽霊とかそう言うのが出るスポットをたくさん知っているのね。リク君が紹介で幽霊スポットバカって言ってたのが良くわかったわ」
やっぱり……。
真一はなぜか幽霊が好きだ。スポットなんて数か所めぐったことがあるらしい。友達の何人かと行ったり、友達の都合が付かない時は一人で行ったりと、かなりの度胸とは別の好奇心だけでスポットめぐりをしている。
ボクも何回も誘われた事はあるが、行ったことなんて一度も無い。
なぜかって?
幽霊が怖いからに決まってるじゃないですか!
幽霊が嫌いで怖いボクとしては、真一のスポットめぐりの話は絶対に聞きたくない。
聞いただけで気絶しそうだ。
「ソウナさんまで幽霊スポットバカって言うのか? 俺は別にそんなつもりはないんだけどなぁ」
そんなつもりは無くても十分幽霊スポットバカだろう。幽霊スポットオタクじゃないだけまだましだと思って欲しい。ちなみにボクの中ではオタクよりバカの方が優位に立っている。オタクを超える称号なんてバカしか思いつかなかったのだ。
「そう言えばリク。今日も面白い幽霊話を――」
「しなくていいです!! どうして意地悪をするんですか!?」
「ははっ。いやぁ。リクの涙目が一番可愛くてさぁ」
どう考えても真一はSだと思われる。酷いものだ。ボクが嫌いだってこと知ってるくせに……。
知っていて真一はいつもボクに怖い話をする。そしてボクが泣き顔になるような時に真一が胸を貸してボクを子供扱いする。怖いのでしばらく抱きついたまま離れないのだが……。
そしてリクは知らなかった。それが真一の狙いであると……。
「でさぁ。今日、リクの家に来る前に行って来たんだよ」
「話すんですか!? やめてくださいって言ってるじゃないですか!!」
「いいや。話すまで帰らん!」
な……なんて頑固な……。こんなところでそんな頑固な性格の一面を見せなくていいのに……。
「是非聞かせてほしいわ。私興味あるもの」
「ソウナさんまでえぇぇ……」
膝から崩れ落ちたい気分だ。
ソウナは幽霊とかって大丈夫なんだろう。まったく怖がっているそぶりがない。
「で、ここら辺に……つっても学園なんだけど。新たに幽霊が目撃されたんだけどよ、どうも妙なんだ」
「だ、だからしないでってぇぇぇ……」
もうすでに涙目になっているボクを尻目にソウナが聞いた。
「妙って?」
「それが、これまで聞いたことがない幽霊だったんだ。まるで、悪魔みたいな奴でさ」
「「!!」」
悪魔……。真一のその言葉にボクは強く反応した。おかげで今さっきまでの幽霊に対する恐怖が無くなった。
一か月前に戦ったグレムリンではないだろう。他の悪魔……。
「お。二人して目が変わったな。何か思い当たる節でもあるのか?」
思い当たる節はないが興味はある。悪魔は悪いことをする。
いや、そう決まっている訳ではないが、最初に見た悪魔がグレムリンのように凶暴な悪魔だとどうしてもそう言う見かたになってしまうのだ。
「いいから続けてくれないかしら?」
「お、おお。えっと確か、学園の6月27日の夜の話なんだけどな。ある数十人グループが肝試しをしてたんだよ。学園の許可を得てな」
学園……ってことは赤砂学園のことだよね。学園に悪魔が出たんだ……。
しかも、ここ1週間の話だ。まだ悪事を働き始めたって事? それだったらどんな悪魔でも無視をする訳にはいかない。どうにかしなきゃ。
「その数十人グル―プは肝試しが終わった後、お腹が減ったから食堂に向かったんだ」
赤砂学園の食堂は午前0時までやっている。これは残業をしていく先生のためだったり、警備に回る人達のためにこう言う時間になっている。他の学校や学園ではこうではないだろう。こう言うところの発案は全部母さんだ。
「いろいろと注文して、数十人グループの前に食べ物が全部並んだ時に起こった」
真一はごくりと喉を鳴らす。
それにつられて、ボクとソウナも生唾を飲み込む。
「数十人グループの中で、肝試しを発案した男子生徒が、いきなり金髪の女を見たと言ったんだ。だけど、数十人グループの中に金髪の女んていない。第一、赤砂学園は髪を染めるのは禁止だ。地毛でないかぎりはな。それはリクも知ってるだろう?」
「う、うん……」
背筋が寒くなる。ボクはなんとか我慢していたのだが、とうとう堪え切れずに両手で耳をふさいで目を瞑り始める。
悪魔なのだから大丈夫。大丈夫と言い聞かせているが、真一の喋り方がダメなのだろうか。どうしても怖くなってしまう。
「他の人達が見てもそんな女なんていなかった。だけど男子生徒はまだ言ってるんだ。いる……そこにいる……」
「ひっ」
ボクは完全に聞こえないように耳を閉じ、目を瞑り、その空間から遠ざからろうとした。
しかし、それをさせる前に、真一の声が続いてしまった。
「今もお前の隣でお前の頼んだステーキを全部食ってるって!」
「どうして幽霊がステーキなんか食べているんですかぁ!?」
ツッコミがどうしても出てしまった。だって無理だろう。幽霊がステーキを横取りをして食べていたなんて言われてツッコムなって言われる方が。
「お前と言われたある男子生徒は気がついたら目の前でステーキが歯形がつきながら無くなっていったことに気がつき、とても嘆いていたみたいだったぜ。ほら、悪魔みたいな奴だっただろ? 目の前でステーキが幽霊に食べられるんだぜ?」
「そっちの悪魔ですか!!」
てっきり本物の悪魔の方だと思っていたボクは、完全に拍子抜けした。
その話を怖がっていた過去の自分に言ってやりたい。これはオチがついている話だよって。
「そっちの悪魔ってなんだ?」
「い、いや! なんでもないですよ!」
焦りながらボクは言う。それと同時にやっぱり胸が痛い。真一を巻き込んではいけない。そういう思いが強くボクの中に生まれる。
「ま、そんなことだからリク。明日は赤砂学園に来てくれよな。お前がいなきゃ俺が一番危ない立場になる」
「危ない立場?」
「おおっと聞かなくていいぞ」
そう言って立ち上がる真一。
一体どういう事なんだろうか? ボクがいかなければ真一が危ない立場に居るって……。
「まさかオチつきの幽霊話を聞かされるなんて、なかなかやるわね」
「どうも。もっとたくさんあるぜ? オチつきの幽霊話は」
「そうね……次の機会にしておくわ。もう帰るのでしょう?」
「そうだな……」
そう言って荷物であろう通学用かばんを持って真一は立つ。
ボクも稽古にいかなくてはいけないため、ボクとソウナと真一は三人で玄関に行く。
「それじゃ、リク。今度は学園で会おうな」
「えっと……はい。しばらく行ってないですけど……先生、怒ってないでしょうか?」
「そんなこと心配していたのか? 大丈夫だよ。先生もリクの帰りを待ってるだろうしな」
そう言うとお互い笑いあう。
その後に、真一が少し顔を暗くして、重く口を開いた。
「明日……ちゃんと来いよな……。みんなマジで心配してるんだ」
その優しい声に、ボクは明日、久しぶりに赤砂学園の制服に身を包むことを誓った。
「はい。絶対にいきます。いつもの場所で待っててくださいね?」
「おう! ソウナさんも、明日学校でな」
「ええ、また明日」
笑顔でそう言って、真一は玄関を出て行った。
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