魔法鎧
ボクは無限に続く自問自答を繰り返した後、真一に何度も揺すられてやっとの事で現実へ戻ってくることができた。
とりあえずボクは男に戻るべく、真一を一撃で意識を刈り取り、元々クローゼットに入っていた適当な服とズボンを持ってソウナを残して部屋を出る。
リビングについてから、窓のカーテンを閉め、上から誰も降りてこない事を確認して指輪を外し、着替え始める。
「はぁ……。全く違和感のなかったボクってやっぱりおかしかったんだよね……」
「妾は男に戻っても違和感なく着こなしているリクがすごいと思うけどのぅ」
何気なく呟いた一言は、そのまま空気に霧散して消えるだろうと思っていたのだが返ってきたことに驚いた。
「どうして出てるの……」
振り返ると、ソファにはルナとシラが座っている。ディスはソウナの中に戻ったようだ。
「とりあえず、向こう向いててくれないかな?」
「? なぜ――」
「わかりました」
「痛い! 痛いのじゃ! 向こうを向くから頬をつねるのはやめるのじゃシラ!」
そう言ってシラはルナの頬から手を離して向こうを見る。ルナも同じように向こうを見た。
まぁ普段からこの二人はボクの中に居るのでいまさらなのだが、ボクの中に入っているのと、着替えを周りで見られているというのとは全く違う。後者の方が恥ずかしいに決まってる。
(そう言えばルナのほっぺたって結構柔らかかったんだよね……)
前にベクサリア平原でルナを膝枕していた時にほっぺたで遊んでいた時を思い出す。あれがかなり気持ちよかったので、今度また触ろうかなと考えた。
「しかし、あれじゃのぅ」
「あれ、とは?」
「リクよ。どうするのじゃ? 胸を痛めているのであろう?」
胸を痛めている……。それもそうだろう。ボクと真一は小学校以前からの付き合いなのだ。隠し事なんて何もなかった。少なくとも一か月前までは。
お互い本音で喋っていたし、そもそも二人の間には隠し事なんて似合わなかった。
だけど……こればかりは真一に知られたくないと思う。真一が魔力なんて持ってるハズが無いんだから……。命と隣り合わせの世界に関わってほしくない。
「そうか。マナちゃんはこんな感情を中学の入学式前日に感じていたんだ……」
そう考えてしまったボクは一つの案が出てしまった。それは……、
――記憶を消す魔法だ。
「嫌。それだけは嫌。真一と会っても初対面のように思われちゃうなんて……耐えられないよ……」
そう考えるボクはマナがどれだけ厳しい事をしたのか納得できた。
「マナちゃん、強いなぁ」
「リクよ。手が止まっておるぞ?」
「とまってるのです」
「!?」
瞬間的に神二人を見る。
ピクリとも動いていない所を見ると、二人ともボクを見てはいなかった。
ど、どうして……。
「リクが独り言を言う時は大体が手が止まっておる」
「この『一ヶ月』でまなんだことです」
そしてボクの思考を読んだようにしてタイミング良く言った。
人の行動って一ヶ月で学べるものなんですか……?
ボクの心の中で疑問が浮かんだが誰も答えをくれなかった。
そしてボクは手を動かしてクローゼットから取り出した服を着ていく。
「これでよしっと」
「もうよいか?」
「うん。いいよ」
そう言うとルナとシラは同時に振り向く。
「うぅむ。あまり普段と変わっておらん気が……」
「どんなふくをきても『女の子』としかみえないですね……」
「怒るよ?」
「「すみませんでした」」
魔力のオーラだだ漏れのまま、笑顔で言ってあげたらすでにそろって土下座をしていた。しかもルナはいつもの口調でなかった。
上はシャツで下はジーパンなのに……。
そう考えたところ、ルナとシラを見てなんとなく思いついたことを言ってみた。
「そう言えばルナとシラは服を替えたりしないの?」
「妾達か? 別に、妾達は服も体の一部と同じような物だしのぅ」
「ただしふくで『痛み』はかんじません。『ヴァルキリー』でたとえるならばわたしたちのふくは『鎧』のようなものです」
二人で説明してくれたことは、なかなかに興味深い物だった。
「服が鎧?」
服が鎧と言っても、どうやって鎧になるのだろうか?
服は薄いから斬られたら斬れるし、とても鎧のような物にはならないと思うのだが……。
「これは魔法鎧じゃ。斬られても斬られんし破られもせん」
「つまり、『魔法で強化』してあるのです」
なるほど……。服を魔法で強化してあれば斬れたりすることが無いんだ……。
「今からやってみるかのぅ。魔力で強化。それができたらその魔力を感知させないように魔力の気配を消すのじゃ」
「今は真一もいるし。今度でいいかな。それか真陽さんとの稽古の時に……」
そう言った時、丁度玄関のチャイムが鳴った。
今度こそ真陽だろう。時間もそんな感じだ。ソウナも上に居るし、今度はボクが出なきゃね。
玄関に行って、ドアを開ける。
するとやはりというべきか、真陽が立っていた。ただし学校にいた時の服では目立つのでラフな格好に変わっていた。ラフな格好だからか、和服を着ていたときと比べて胸がかなり大きく見える。
「今、誰かいるのかぃ? リクの部屋の灯りがついているようだけどぉ」
「えっと。今、真一が……って言って分かりますか?」
「あぁ。わかるよぅ。リクちゃんの最初のお友達だろぅ? しかしぃ、そうだねぇ。今日の稽古はどうしようかぁ?」
「そうです……ね……」
正直、真一とはまだ話していたい。次はいつ話せるか分からないし。
だけど稽古もやめる訳にはいかない。魔法を練習して早く強くならないと行けない。この先、どうなっても対応ができるようにならなければいけないから。
「いいです。真一とはまた今度にしますから。先にヒスティマに行って貰っててもいいですか?」
「わかったよぅ。先に待ってるから、ゆっくりでいいから後で来るんだよぅ?」
「はい。ありがとうございます」
そう言うと、真陽は頷いて後ろに歩いて言った。しばらく行くと、角を曲がって姿が見えなくなった。
真陽はゆっくりと言っていたが早く行った方がいいだろう。こちらが教わるのだから待たせるのはよくない。
ボクはすぐに二階に上がって自分の部屋に戻った。
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