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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第二章 赤砂学園と月光
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幽霊スポットバカ



「いったぁぁぁぁぁいっっ!!!!」

「!? 大丈夫か!? リク!」


 急いでその男がボクの足を見て丁寧にボクの足を触る。皿の破片はボクの右足に刺さったり切ったりして完全に痛めたのだろう、右足に力を入れると激痛が走る。


「あぁ。これはダメだな……」


 そういうと男は何処から取り出したのか、消毒液を垂らす。


「いっ……」

「少し我慢してくれよ」


 そうして傷口から数センチ離れたところに垂れた消毒液はティッシュで拭きとる。そして普通の絆創膏を付けようとしたら傷が大きかったのか、諦めて、大きい絆創膏をつける。そして取れないようにネットをはめた。


「よし、破片は俺が片付けておくからリクは先に食器を片付けてくれ」


 その男の服は制服。それも赤砂学園のだ。つまりボクが魔法に関わる前から通っている学園の制服だ。髪は日本独自の黒髪で短髪、くせ毛が無い。前が髪が少し長く、その隙間から見える瞳はきりっとしていて見惚れそうだ。そして、一見するとひょろっとした体格の男だった。


「え? あ、うん……」


 ボクは男の言いつけられたまま、食器を洗って全部を片付ける。

 混乱したままのボクの頭の中だが、とりあえず全部の食器を片付けたあと、お茶を入れてボクの部屋にその男とソウナを通した。

 その間。夜に突然訪問してきた男はずっと沈黙を保っていた。

 そして、ボク、男が床に、ソウナがベットに座ると、ようやく男が喋り始めた。


「……で。これはどういうことなんだ? リク。最近学園に来ないと思いきや家に知らない女性がいるし、リクの胸もやっとの事で成長――」

「ボクの胸は成長しません!!」

「ごふぅ!! こ、このパンチの威力……上がった、な……」


 ボクは昔のように勢い余ってその男の腹に拳を入れる。

 そして殴った後に気がついた。


(そう言えば今指輪したままだった!!)


 つまり。今のリクの体は完全に女。遠目でも胸があるとわかるし、これではいらぬ誤解を……。


「まぁとりあえずリク」

「え? あ、はい」


 今さっき殴ったのにもう治った男。しかも今の拳はつい、魔力を少しだけ込めてしまったので、普通の人間にはとてもキツイ拳なハズだった。


「こちらの女性は?」


 そうとも知らず、手でソウナを示す男。


「私も教えてほしいわ。誰かしら?」


 ソウナも男を紹介してほしいという。


「えっと、まずこちらはソウナさんです。ソウナ・E・ハウスニルって言います」

「ソウナでいいわ」

「えっと……日本語がお上手で……」

「私は日本育ちだから気にしなくていいわ」


 ヒスティマって大体が日本語だから日本育ちで通るのかもしれない。

 ただし戸籍とかはそうもいかないと思われるが。


「それで、こっちはボクの一番の友達である幽霊スポットバカで、名前は平木(ひらぎ)真一(しんいち)って言います」

「幽霊スポットバカってのは気になるが、真一です。俺も名前でいいです」

「そう? じゃあ名前で呼ぶわ、真一君。後タメでいいわ。よろしく」

「じゃあそうさせてもらうよ、ソウナさん。よろしく。……ところでリク。さっそくだけどどういうことか説明してもらえないか?」


 う……。魔法の事は話せないし……。


「夫婦よ」

「また繰り返すんですか!? アキさんの所でもやりましたよね!?」

「そうか。どこまでや――」

「真一の言葉がアキさんとかぶった!?」


 信じがたい事だ……。どうして魔法学校でもやった事をここでやらなければいけないのだろうか?


「まぁ、冗談だとして。どういう事なんだ?」


 真一がボクに向いて言う。アキのようにいつまでも続ける気はないようだ。

 いつもの真一ならボクをからかうことならいつまでもやり続ける男なのに……。

 そしてボクは最初に作戦に出る。アキに聞かれたのでそのあともあるだろうと思って考えておいたのだ。


「えっと。ソウナさんは従姉妹で……」

「リクに従姉妹がいないことぐらい知ってる」


 まさかいきなり障害が出てくるとは……。

 しかたがないので、次の作戦に移る。


「実は母さんがさらってきて……」


 申し訳なさそうにそういうと……。


「なるほど。そう言うことか」

「それで納得するの!?」

「むしろそれ以外に納得ができないんだが」


 母さん。あなたの印象が真一の中ではかなり悪いようです。ただし、おかしな方向って意味で。


「しかし、また美人さんを拾ってきたなぁ」


 ちらちらとソウナを見ながら言う真一。


「ふふ。ありがたく受け取っておくわ」


 笑いながらソウナは真一の言葉を受け取る。何処となく楽しそうだ。

 こうしていろんな人と話せることはソウナにとって一番の楽しみ以外の何物でもないのだろう。

 そしてボクはだが……。


「拾ってきたって……」


 まるでソウナがペットのように言うのだが、真一は間違ってはいないだろう? と言うような顔で返された。

 まぁ今はそうした方がいいのかもしれない。

 母さんがソウナをさらってきた方面で通す事とした。

 そうでもしないと真一は妙に鋭いのでいろいろと気づかれるような気がする。


「それにしたって、カナさんもどこでさらってきたんだか……」

「別に私は自分の意思でここに来たのだから、あまり考えなくていいわ」


 自分の意思で。そう言ったソウナに真一はうなずくだけだった。


「ふ~ん。そっか。じゃあ次の質問だリク」

「そ、それより真一は今日はどんな用事で来たの?」


 ボクはこれ以上聞かれて、何かで口を滑らせないように話を逸らしたのだが……。


「そのことだよ。リク。最近学園に来てないじゃないか。一体どうしたんだ? 先生に聞いても学園長しか知らない事情があるって聞いたから絶対にカナさんが関わってると思うしさ」


 そう言うとお茶を一口飲んだ。


「しかも中等部のユウちゃんも最近休みが多いって聞いて、一ヶ月も会ってないし、これまで何度もリクの家に来たんだよ。最初に行ったのは二日ほど休みが続いた時だな。リクの家に行ったけどさ、なんだか知らない人がいて家を修理していたのが気になったりしたんだが、とりあえずリクにプリントを届けようと思って家を訪問したけど、修理していた人達がここの家の人達はしばらく帰ってこないよ? って言われて俺はリクが心配で心配だったんだよ」


 修理……。それは雑賀が家を直すのによこした人たちだろう。二日続いたって事?

 そして真一が続ける。


「電話にもでないし、今度は週一に学校が終わってからリクの家に行っても誰もいないし……。もう会えないのかなって思い始めたころにリクの家の電気がついているって分かったら居てもたってもいられず、こうやって来たんだ」


 かなり言いにくい所をついてきた……。

 真一はいつになく真剣になって話した。

 こんなに心配をかけていたのだと、改めて思い知った。

 真一とはマナと同じような時期に友達になった大切な親友だ。

 嘘はつきたくない。でもつかなきゃいけない状況に、ボクは心を痛める。


「えっと、母さんがちょっと遠くに遊びに行きたいなんて言って外国にいたんです。その時、強制的だったから携帯電話なんて持って行けて無かったし……。心配かけて……ごめんなさい」


 素直に謝る。でも……心の中では「嘘をついてごめんなさい」と言っている。涙が流れるのを押さえきれずに、嗚咽を漏らす。

 それを見た真一が、ボクの体を腕で包み込んでくれる。


「無事でよかった。隠し事があったとしても、これ以上は追求しないさ」


 そう言った彼の言葉に、ボクはとても感謝した。


「ただ、一つだけどうしても言いたいことが……」

「は、はい……」


 ボクの涙を真一が手でぬぐうと、さっきまでの雰囲気とは打って変わってとても真剣な顔つきとなり、ボクを鋭くした瞳で観察するようにジッと見る。

 体中を見られているような気がして、ボクは落ち着けない気分が続いた。


 そして、たっぷりと一分、黙ったままボクを見続けた真一が口を開いた。


「リク、この一ヶ月何があったんだ?」

「そ、それは……」


 口ごもる。

 今さっき教えなくてもいいといったではないか。

 この一ヶ月、ずっとヒスティマの魔法学校に通っていたとは言えない。

 どうやって嘘をつこうか胸を痛めながら考えていると――、






「どうしたら男にこだわっていたお前が本物の胸のような感触のするパットまで詰めて完璧な女装をしているんだ!? 俺としては今すぐにでもお持ち帰りしたい気分だけどおかしいぞ!?」






 真一の叫びが、この部屋中に響き渡った。と言ってもそこまで広くないが。

 そして、この声を聞いた、学校の女生徒用の制服に身を包んでいるボクはと言うと……。


(あれ……? ジーダスはもうないから襲われる心配なんて無いのに……? どうして女の子のかっこをして……)


 完全に白くなっていた。

 真一はボクの肩を掴んで続けた。


「とりあえず、白くなってないで何があったのか説明してくれ! あれだけ男にこだわっていたのにどうして真逆の方向に進んでしまったんだ! もしかして本来の自分にやっと目覚めたのか!? それはそれでかなり満足だけど俺以外の奴がリクをこの姿で固定させるだなんてそれはそれで我慢が出来ないぞ!?」

「え~っと、真一君? リク君が思いっきり白くなっているのだから聞こえていないと思うわよ?」

「つまりリクは洗脳されていたってことだ! 一体誰がこんなことを……ッ! 洗脳じゃリクの魅力が……これはこれでいいけど……魅力が無くなってしまうんだよ!! これまで俺が何度も挑んだのにリクは女装が当たり前なんかにならなかった……。それが他の奴の手によってリクは女装が当たり前になってしまったんだ!! クソッ! 絶対にこんなことするのはカナさん以外にいない!!」

「た、確かに……。ある意味カナさんの仕業ね……」

「カナさん……やっぱりあんたにはかなわない……」


 真一が歯をくいしめたと同時、飲み会をしている少女が一人、「くちゅっ」と可愛らしいくしゃみをしたとかしなかったとか……。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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