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双刃の白兎

作者: 奇文屋

 月明かりさえない闇夜とは対照的な真っ白なコート。

見れば誰もが見惚れ、すれ違えば振り返るだろう。

歩く度に揺れる黒い髪。切れ長な目元は見た者を虜にし整えられた唇は微笑んでいるかのよう。

纏う雰囲気は知的で儚げな女性という印象を与える。

彼女を見た者はその姿を心に焼き付けるだろう。

しかし今は誰もいない闇夜。街灯がぽつんぽつんと点っているだけだ。

「しかし、冷える。」

 コートに顔を埋めてポケットに両手を突っ込み足を速める。

コツコツという足音と共にかちゃかちゃと音を立てているのは腰に携えた二本の剣。

しばらく歩くと目的地が見えてきた。

私を知っている者は白い服を好んで着ることから私を兎に例える。

それに二振りの剣を加えて、こう呼んでいる。

<双刃の白兎>と。


「侵入者?」

「はい、門番が二人……。」

 目を閉じ職務を果たした隊員に哀悼を捧げる。

 書類の整理をしていた私の部屋に急を知らせに来た兵が先ほど起こった事態を伝えた。

「で、その後は?」

「……見失い現在は捜索中です。<ウェイス>隊長。」

 息を吐き、今取るべき最善の手段を考える。

「そうか、ならば<ケット>支部長の護衛を増やせ。手の空いている者は侵入者の捜索に当たらせよう。」

 敬礼し去ろうとする隊員を呼びとめ、

「待て。それと支部内に通達。全員武装するようにと。」

「はっ。」

 去っていく隊員を見送り私も武器を手に部屋を出る。

「この<ロキオン キスピス支部>に来るとはな。」

 支部内の空気が普段のそれとは違い張り詰めている。

慌てる新入りをリラックスさせ、落ち着いている隊員に指示を出す。

 ここは軍施設ではない。

歴史を追い求め謎を紐解く超国家組織<ロキオン>

神々の残した神秘を探求し解明する組織だが戦闘力は各国の軍にひけを取らない。

 さぁ、侵入者よ覚悟しろ。


「うー寒い。」

 門番を倒して入ったのはいいが、私の思っていた以上の速さで私の事がバレた。

今は木の上から建物へと出入りする人の流れを観察している。

 甘く見ていたか……。反省は後でするとして今は任務を果たす事を考えよう。

最初のターゲットはここのトップ、ケット=スタング。

これだけ人が動けばターゲットの居場所も分かりやすくなるだろう。

なによりも今はまず建物の中に入事が最優先だ。

 扉に向かって歩く二人組みが来る。

近くには気配は無い。ま、あっても何とかするけどね。

二人が私がいる木を越える。その瞬間飛び降り、一人を倒す。

音を立てなかったが気配を感じたのだろう。振り返るもう一人。

 その視界に私は映ったのだろうか。

倒した二人を木陰に隠し、建物へと入ることに成功した。

 入った瞬間、目が合った。

すぐさま剣を抜き飛び掛る。

一人は構える前に沈黙した。

が、もう一人が大声を上げる。舌打ちをし剣を振るうが一撃目を弾かれる。

時間をかけている暇無い。相手の剣を見切り反撃で黙らせる。

足音が廊下の向こうから聞こえてくる。

考えるより速く私は再び外へ出た。


「ウェイス、状況はどうなんだ?」

 太った支部長は神経質に爪を噛みながら室内を歩き回っている。

「侵入者は現在も捜索中です。」

「それは分かっている! その後の報告を聞きたいのだ。」

 静まる室内。室内には私を含め五人がいる。

「少し外に出てくる。」

 バルコニーに出ようとする支部長を制止する。

「外に出られては危険です。侵入者が発見させるまで室内で……。」

「心配するな。ここは三階だ。」

 大きな窓を開け外気が入ってくる。冷たい風が室内の空気を入れ替える。

私も外に出て体を伸ばしたい、そう思える心地よさ。

それだけここの空気が熱を持ち張り詰めていたのだろう。

 支部長の頭脳から白いモノが舞い降りた。ソレは支部長を覆う様に地に伏し、ソレだけが立ち上がった。

時間が止まる。声が出ない。窓の外にいるのは侵入者だと判断しているが体は固まってしまった。

 黒い髪がさらりと舞い純白のコートが風に揺れる。

その手には赤く濡れた刃が握られ、黒いブーツの足元には支部長が……。

ゆっくりとした動きで振り返る。その目は涼やかに室内を見渡す。

 女? まさか……一人で……?。

唾を飲む音が聞こえた。状況が理解出来ない。門番が倒されてから今まで来た報告が頭の中を駆け巡る。

その報告の中心が目の前にいる女が……?。

支部長の体から何かを探している。

そして何かを手に立ち上がり、身動きできない私達を眺めながら女は剣を振り血を払う。

「ま、待てっ!」

 剣を構え盾を取りバルコニーに向かう。

一歩目ははふらついたが、二歩目はいつも通り踏み込んだ。

それで硬直は消えて、室内の四人がバルコニーに駆け寄る。

「じゃ。」

 そう言っている様に口が動いた。女はそのまま手摺を越え消えた。

「ちっ。支部長を中に運べ。私はヤツを追う。隊員にはこの下を包囲する様に通達、急げ!」


 第一段階はクリア。

支部長が持っていた鍵が合う部屋へ向かわないと。

建物から建物へと駆ける。追っ手がしつこく調べている暇は無く走り回っている間に、

「どこ……?」

 通ったことある様な……ない様なそんな場所ばかり。

運良く見つけた隊員に現在地を聞く。

「ここはどこ?」

「ロ、ロキオンキスピス支部で。」

 顔は恐怖で染まった隊員は喉の置くから搾り出す様な声で答える。

「それは分かってるの。支部の中の何処になるのか聞いてるの。」

 首元に突きつけた剣を少し動かす。

小さく悲鳴を上げ、

「ひ、東館です。」

「もう一つ。」

 聞いてしまえば包囲される危険があるが、追っ手がしつこく追い回してくるのならこっちから一気に目的を果たした方がいいかもしれない。

「<ロストフォース>はどこ?」

 口を閉じる隊員。そう簡単には教えてはくれないか……ロキオンが発見した古代の遺産。

だが、もうどこか別の場所に移されたかと思ったがその表情でここにある事は間違い無さそうだ。

「答えなさい。」

 もう一本の剣を顔スレスレの位置に突き立てる。

「ち、地下の倉庫……に。」

「地下にはどこから行けるの?」

「本館正面入り口に階段が……。」

「ありがと。」

 鳩尾に一撃。で隊員は崩れ落ちた。

「地下……。」

 本館ってのは支部長がいた所かな。


 本館正面入り口を見渡せる小屋の上から観察。

敷地内にあるほかの建物より大きい建物の前。武装した隊員が十人前後警戒している。

うーん、来るのが遅かったかな。今さらそう言っても後の祭り。

それにまだまだ増援がありそうな雰囲気。気付かれる前にどれだけ減らせるか……。

 屋根伝いに移動しつつ、隙を窺い……仕掛ける。

飛び降り立ち上がって一歩踏み込んで、一人目。

私の気配を感じたのか振り返る二人目が声を上げる前に倒し、三人目が驚いた顔で私を見つめその表情のまま倒れた。四人目と五人目は剣を抜き向かってくる。最初の一撃を避け四人目を蹴り上げる。

刹那の遅れで五人目の剣が振り下ろされるがそれを受けて弾き、弾かれて無防備になった体に剣を突き出す。

五人目が倒れ、四人目も倒れた。

六人目七人目は笛を吹き、私はそのまま突進し剣を振るう。

足を止めず本館へと駆ける。

玄関の重厚な扉は私が体当たりしても開かないだろう。

窓から飛び込むか。腕を顔の前で組んでそのまま突っ込む!


「遅かったかっ!」

 目的を知り私が到着した時にはすでに隊員が倒れていた。

「くそっ。賊はどうした?」

「ま、窓から本館へ……。」

 専門では無いとはいえロキオンの隊員をこうもあしらうとは……。

「本館に隊員はいるのか?」

「いないと思いますが……。」

「そうか。ならばお前達は本館を包囲しておけ。中には私一人で行く。」

「な、危険です。相手は隊員を何人も……。」

「心配するな。これでも<本部>でも後れを取った事はない。」

 肩に手を置き安心させる。

それに隊員を庇いながらではこっちが不利になるかもしれない。

「わ、わかりました。指示は伝えておきます。」

「頼む。」


 階段を下りる。静かな狭い空間。灯りは点いているが空気が重い。

私の足音だけが響いている。そんな時もキライではない。

そこに入ってくるノイズ……荒々しい足音が響き私の頭上で止まる。

「これ以上、立ち入る事は私が許さん。」

 振り返ると支部長の所に居た盾使いがいた。

「許して貰う気はないのだけど。」

 そのまま階段を下りる。

だん、と聞こえ振り返ると盾使いが飛んできた。

横壁を背に避け、着地し体勢を立て直す隙を狙い攻撃する。

盾で防がれ、剣が突き出してくる。お互いが壁を背に狭い空間での隙を窺う剣戟。

数合打ち合い、意識を剣に向けさせて足を払う。

避けられるが体勢は崩せた。隙を窺うような一撃ではなく力を乗せた一撃を盾に加える。

そのまま下に落下して行く盾使い。それを追い私も階段を蹴る。

最下層に着いたのか男は転がり立ち上がるが、私も着地して立たせない。

上からの振り下ろしで盾を打ち、振り抜いた直後にもう一本の剣を突き出し牽制してしゃがませる。

振り下ろし突き出しなぎ払う。私の一瞬の隙を突いて立ち上がり攻防が激化する。

私の攻撃は盾に防がれ空を切るが幾度かの攻防の末、壁際まで追い詰めた。

「終わりね。」

 首元に剣を突きつけるが睨み付ける目には諦めの色は無い。

「お前が求めるものは神々の遺産。人間である我々の手に余るものだぞ。」

「知ってるわ。でもアナタ達に預けておく理由も無いでしょ。」

 まだ何か言おうとしているが、

「もう言う事は無いわ。さよなら。」


 立派な扉を開く。

重い音を立てて私が通れるだけの隙間が開く。

ぼんやりとした灯りが点っているだけの室内。中には中央には大きな円卓。その周りには刀剣や鎧などが整理されて置いてある。

扉の向こうからくる冷気がさっきまでの緊張や熱気が一気に冷えていく。

この空気を支配しているのは飾ってある刀剣では無い。

――目指すものはここにある。

そう確信させる空気。一歩進むごとに胸が高鳴る。

円卓の下に潜り、

「ここね。」

 窪みがありそこにゆっくりと手を入れて持ち上げる。

暗闇の中からスイッチがありそれを押す。

何かが動く音がし、円卓の下から出る。

「手間のかかる事を。」

 苦笑してさっきまで無かった扉の向こうへと足を進める。

中は思ったよりも明るい。周りには棚があり分厚い本がぎっしり詰まっている。

おそらく古文書とかそういった類だろう。

古文書にも興味はそそられるが今はもう手の届く所にある輝きから目を離せない。

 それは白く輝く金属隗。

<ロストフォース>と呼ばれている古代遺産。名前とは正反対に宝石の様な塊。

遺跡から発掘され神話時代に使用されたとされている。はっきりしない理由はこの金属……かどうか分からないが素材は今の技術では製造できないらしい。

失われた技術。もしかしたら製造には<魔法>が関わっていたのかも知れない。

 思索はどこまでも広がっていきそうだった。ロキオンはこれを公開せずに独自に調査しようとしていた理由も分かる。

広がっていく思索を止めて、<ロストフォース>に手を伸ばす。

思ったより軽く強度のありそうだ。丁重に手近にある小箱に収め、調査結果らしき書類も一緒に持っていく。

 ここでの用は全て済んだ。

外は騒がしいだろうが心配はしていない。

「さて、帰るか。」

 再び剣を握り……包囲網へ向かう。

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