Time-Service
ある自殺をした男の魂が、ふらふらととくに何処かへ行くわけでもなしに彷徨っていると、いきなり目の前に天使が現れた。
そしてその天使はまるで営業スマイルのような笑みを浮かべて、男の魂に向かってこう言った。
「抽選に当たりましたので、これよりあなたに『タイム・サービス』を適用します」
「『タイム・サービス』…………?」
「あなたに時間を、そしてチャンスを与えるのです。もう一度、生を手に入れるのですよ。…………あなたは、生き返るのです」
「生き返る…………。でも仮に生き返ったとして、僕に何ができるんだい? また意味も無い、苦痛しかない人生を送るよりだったら、僕はこのまま死にたいんだけど」
「そんなことはありません。あなたはきっと、今度こそ恵まれた人生を送れますよ。何しろ今度は――――天使である、この私がついているんですから」
男は『タイム・サービス』を承諾し、そして『生きる時間』を手に入れた。
男は、生き返ったのである。
×××
天使は自分が言った通り、男についてまわった。そして彼が言うことを、何でも聞いてくれたのである。
天使の力で彼は望んだ人生を手に入れた。欲しいものを手にし、やりたいことをした。
――――そして、50年の月日が流れる。
×××
「何故だ…………何故今なんだ…………!! もうすぐ、もうすぐ長年の夢…………世界征服が、実現できるかもしれんこの時に、一体何故…………!!」
「あなたに一つ良いことを教えてあげましょう。実は私達天使というものはですね――――足掻き、未練を残して苦しみながら死んでいく魂が、大好物なんですよ」
男を見ながら、天使は答える。いつもの、この天使特有の、営業スマイルのような笑みを浮かべて。
「なっ…………!! どういうことだ!! 『タイム・サービス』は、『私が』抽選で当てたものだぞ! 私が満足に生を堪能する為のものじゃ、なかったのか!?」
「貴方は50年前のあの日、自殺をした。そして死にました。この世に未練も何も無い、腐りきった魂として。…………私がそれを食べる担当だったのに、です」
「貴様……何を言って…………?」
「ですが喜ばしいことに、『私は』抽選に当たりました。そして、魂を再度育てるための『時間』を与えられたのです。だから私は、あなたの魂をもう一度育てた」
「そんな……………ば……かな………」
「その甲斐あってか、今はこの世に未練タラタラ、極上の魂の出来上がりです!!」
「…………」
男は、何も喋れなくなってしまった。それでも天使は、その表情を一切変えずに、坦々と続ける。
「……恨むなら、自殺という道を選んでしまった自分自身を恨んで下さい。――――ま、恨む時間ももう、無いんですけどね」
男は、天使の浮かべる表情を見ながら思った。
あれは決して、天使の微笑みなんかじゃない。心からの慈愛に満ちた表情ではなく、本当に、ただの営業スマイルなのだ。…………悪魔よりも残虐な本性を隠すための、人間に対する仮面。ただそれだけのもの。
「それでは――――『タイム・サービス』、終了です」
天使は笑った。
そして男は――――
その瞬間、消滅した。
【THE END】