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第二十九話 砲撃開始


レオが北棟、ラミロが南棟に予定通り爆弾を設置し終えたところで、ホテルの中が少々騒がしくなり始めていた。


どうやら、ヘルシオン王国の貴族、”ラミロ・ホルスタイン” という人物が、既に十年も以前に失踪していたことがわかり、ホテルの支配人が確認の為に貸し出した部屋へ確認に訪れたらしい。


だが、ラミロ・ホルスタインが使用中の中央棟の部屋をノックしたところで、まるで反応もない。


部屋に設置した通信用画面を通して呼び出しても、返事もなく……。


聞く話によれば、リンベル王国の将校クラスの軍人が隣に付き添っていたという目撃情報もある上、その軍人は自らの名を名乗らなかったという。


それに、極寒の島に位置するリンベル王国ではあまり見ない褐色の肌の男だった話す者もいる。


こうなると、ホテル側も何かおかしいと勘付き始めるのも無理はなかった。



「ホルスタイン様?? ホルスタイン様。失礼ながら、部屋の中を確認させていただきますね」


支配人は、部屋の中に向かってもう一度声をかけてから、連れ添った部下からカードキーを受け取り、ドアのカード差込口にそれを差し込んだ。


カチャンと音がして、鍵が開いたのを確認すると、支配人は、


「失礼します」


と、もう一度だけ声をかけてからドアを開いた。


中には高級な美しい一室が広がり、さらにその奥は寝室になっている。


支配人はそっとその中へ足を踏み入れる。


だが、まるで人の気配はない。



不審に思いながら、更に奥の寝室に繋がるドアに手をかけた。



「ホルスタイン様?」



寝室のドアが開くと、大きなベッド。


その近くの床下に、脱ぎ棄てられた衣服が乱雑に置かれ、そのすぐ傍には開け放したままの四角いハードケースが転がっていた。



支配人は床下に脱ぎ捨てられた衣服を手にとり、確かめた。


高級なマフラーや手袋。それに、ブランドものの衣服。


その中に、リンベル王国の将校クラスの軍服が交じっていることに気付き、目を丸くする。


「これは……」



ふと、すぐ近くのハードケースに目をやり、支配は思わず息を飲んだ。


中に、謎の機械製のメーターが入っており、それは既にカウントダウンに入っていた。


残り時間は、既に十分を切っていた。




「ば、爆弾だ……!!」



震える声で、支配人が叫んだ。



「このホテルに爆弾が仕掛けられたぞ!!!」



その声に驚き、警備員が火災を全棟に知らせるボタンを押した。


ホテル中にけたたましいサイレンの音が鳴り響き、ホテルの中に残っている人々が慌てて避難を始めるのだった。






「くそっ、もう勘付かれたか」


レオは、侵入した北棟の窓から脱出すると同時に鳴り出したサイレンの音に眉根を寄せた。


南棟の窓から同じように脱出してくるラミロはと見ると、レオに向かってハンドサインを送っている。



空を見ると、既に巡回用のモータービートルがホテルの周辺に不審者がいないか、警備網を張り巡らせてこちらに集まり始めている。


「こりゃまずいぞ」


壁に貼りついているところが見つかりでもすれば、そのまま蜂の巣にされてしまうだろう。


二人は、慎重だったさっきよりも遥かに手際よく、建物の壁を引っかけたワイヤーを滑り降りる要領で勢いよく下ってゆく。


下に置いてきたリンベル王国の所有する軍用モーターバードに乗っかって、次の行動に移らねばならない為だ。




「いたぞ!!」


頭上のモータービートルから警備兵がレオを指さしたとき、ちょうど二人とも島の地面に降り立つところであった。



「行くぞ」


レオは予め準備しておいた軍用モーターバードの操縦席に乗り込み、ラミロを首でしゃくった。


「あいよ、船長」


駆け寄ってきたラミロは、すでに数センチ浮き上がっているモーターバードの後部座席にひょいと飛び乗った。


モータービードルがこちらへ向かって降下しながら、


『そこの不審者二人、止まれ。止まらねば撃つ』


と、脅しをかけるも、そんな脅しに怯むことなく勢いよく空へと舞いあがった。



『島の警備の者に告ぐ。不審者がイリオン島内部に入り込んだ。即刻排除せよ』



そんな声が島の警備にあたっている者たち全員の無線機に響いた。


すぐさま島中の警備用モータービートルだけではなく、軍用モーターバードもこちらへ増援し始める中、二人を乗せた軍用モーターバードは勢いを増して飛行していた。


「おっ、こんなところにいやがったのか、チビ」


「え? 船長、なんか言ったか?」



レオは、拝借中の軍用モーターバードの操縦席からレース真っ只中のレースコースに視線を向け何か呟やくが、生憎周囲の騒がしさでラミロの耳にははっきりと

は届かなかったらしい。



続々と集まりつつある警備にあたっていた軍関係の機体。


二人を乗せたモーターバードは一直線にとある飛行船に向けて翔けていた。


各国の国王級の来賓が乗船している観戦用飛行船である。


ラミロが腰につけていたタイマーを見てカウントダウンを始める。



「五、四、三、二、一……」


ラミロが一を数え終えたその直後、イリオン島の巨大な高級ホテルから物凄い爆音と爆風が巻き起こり、周囲に集まり始めていた機体が空中でとてつもない衝撃を受け、大きく揺らいだ。


二人の乗る軍用モーターバードは、後方からの爆風の勢いにのって、ますますスピードを上げた。



吹き飛ばされた建物の破片や真っ白な埃煙が宙を舞い、視界を濁らせる。


一瞬何が起こったのか理解できずにいた軍だったが、ホテルが爆破されたと解し、すぐさま島中に緊急を知らせる警報を鳴らした。




『イリオン島の上部、及び上空の観客、レース関係者に告ぐ。たった今、何者かの手によってホテルが爆破された。落ち着いてただちに避難されたし。繰り返す……』



警報とともに避難誘導の声が響き、観戦用ドームや各観戦用の飛行船の観客達は恐怖におののき、もはやレースどころではない。


言うまでもなく、レースは中断されていた。







「お客様、どうか落ち着いて下さい。一度お席にお戻り下さい!!」


国王級の観戦用の飛行船一階では、乗務員が懸命に観客達に冷静になるよう呼びかけている。


「危険人物がいるかもしれないイリオン島に、わたしたちを降ろす気か!?」


すっかり正気を失いかけているリンベル王国の政治家の一人が、険しい声で叫んだ。


その声を皮切りに、他の乗客からも「そうだ!!」というその政治家への賛同を唱える声が幾つも上がる。


「どうか、どうか冷静に!! この飛行船は、イリオン島に一番近いセロン島へ、一時避難を行います。ですから、どうか落ち着いてお席にお戻りください」


観客達は、渋々客席に戻った。


レース観戦用の巨大な窓からは、南端のホテルからモクモクと粉塵が上がり、煙が巻き上がっている姿がはっきりと見える。


元の美しい姿は見る影もなく、瓦礫の山と化していた。


「リンベル王国の軍用飛行船だ!!」


いつの間にか、巡回中のリンベル王国の軍用飛行船が、イリオン島の上空へと翔けつけていた。


ボディーには、国の象徴である ”氷鳥アイス・バード”の文様が描かれ、実に堂々とした風体である。


それを目して、皆が取り敢えず胸を撫で下ろした。


が、それも束の間、



『ヒュルルルルルルルルルルル』



という不気味な音が響き、巨大な爆音が地を揺らした。



「な、何が起きたの!?」


恐怖に顔を強張らせ、人々は大窓から外を凝視した。


すると、次々と空中を攻撃用の砲弾がどこからか発射されているのが見えた。


上空の飛行船を狙っているのだろうか? いつ砲弾が自分達の乗っている船に直撃してもおかしくはない。



「キャアアアアアア!!!」


「わあああああああ!!!」


乗客達はすっかりパニックに陥っている。


「見ろ!! 空賊船だ!! 島のすぐ傍まで来ているぞ!!」


乗客の一人が遠くの空を指さし叫んだ。


「空賊の襲撃よ!!!!」



「お客様、どうか、どうか落ち着いて……!!」



国王達の乗船する特別観戦用飛行船の一階部分はこんな有様になっていた。


おそらくは、どの飛行船もそんなに大差はないだろう……。






「ここでルイスのお出ましか」


レオとラミロは、この大混乱のさ中、ホテルの爆破を合図に砲撃を開始する計画にあったビアンカ号を振り返った。


狙いは島の破壊や飛行船の襲撃なんかではない。


レオとラミロから注意を逸らすことと、もう一つは国王級の賓客を乗せた観戦用飛行船が、島の外へと脱出してしまうことを防ぐ為だ。


その成果もあって、二人のモーターバードは騒ぎに紛れて、誰にも気づかれることなく、狙いの飛行船のすぐ近くまでやって来ることができていた。



レオは、飛行船の中にモーターバードの操縦席から、銃で飛行船の非常用ハッチを破壊し、空中からその中へ侵入を試みる。



「でも、不味いぞ。この状況もそう長くは持たない。見ろ、奴ら、応援を呼びやがった」


続いてラミロもモーターバードを乗り捨て、ハッチの中へと潜り込みながらそう言った。



振り返ると、なるほど、続々とリンベル王国の大型巡視船が一隻と、中型の軍用飛行船が二隻翔けつけてきていた。



「想定済みだ」


なんでもないことのようにそう言って、レオは飛行船の内部へと侵入していく。


「どういうことだ?」


まるでレオの考えが読めないラミロは頭を傾げ、その後を追う。




『バリバリバリバリバリバリ』




激しい電激の音が背後に響き、ラミロは思わず後ろを振り返った。


見覚えのある奇妙な光線に当てられた大型巡視船を目したとき、ラミロはまさかと自分の目を疑った。



「アポロン号……? なんでこんなところに」



振り返りもせず、さっさと足を進めるレオの背を見つめ、ラミロはやっとレオの密かな計画に気付くのだった。


この泣く子も黙る空賊船ビアンカ号を率いる黒い悪魔は、いつだって抜け目がない。


一体どうやったかは知らないが、いつの間にかあの女空賊エリー率いるアポロン号さえもこの計画に見事に組み込んでしまうとは……。






ジェットエンジンでラビとゾイの元からスタートを切った途端、ハルは遥か後方で耳をつんざくような爆音と爆風にぎょっとして振り返った。



「……一体何が……??」


かなり離れてはいるが、煙と粉塵を巻き上げているその場所は、まさしくハル達が昨日宿泊した一流ホテルに他ならなかった。


ビーブスがマイクごしに何か喚いているのが聞こえたが、それを掻き消すかのようにイリオン島中に緊急を知らせる甲高い警報が鳴り響き、


『イリオン島の上部、及び上空の観客、レース関係者に告ぐ。たった今、何者かの手によってホテルが爆破された。落ち着いてただちに避難されたし。繰り返す……』


という声がハルの耳にも入ってきた。


これは、明らかにただ事ではない状況だということを物語っていた。


振り向くと、ゾイとラビの機体も動きを止め周囲の状況を把握しようと意識を巡らせているようだ。


流石のチャン・フェイさえもモーターバードを一時静止させ、爆破されたホテルに視線をやっている。



『レースは一時中断だ。 一旦スタート地点へ戻ろう!!』



ゾイは無線機でハルとラビに呼びかけた。



『そうだね』


『了解』



それに応答し三機は旋回し、元のコースを引き返し始める。


森のコースは未だ炎が渦巻き、黒い煙を吐き出している。


上空には不審者を探してか、どこからともなく次々とリンベル王国のモーターバードやモータービートルが集まり始めているのだった。





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