第二十二話 波乱のレース開幕!!
イリオン島では、いよいよ、航空学校対抗レース開始三十分前に時が迫っていた。
ヘルシオン王国の代表チーム ”風鳥” のメンバーは、スタート位置のすぐ傍に控えていた。
整備班のフラン、ニコ、マルコ、トニーの四人は、三機のモーターバードの最終チェックに追われ、ハル、ゾイ、ラビのパイロット組は、コースと作戦の最終確認を行っていた。
この日、イリオン島の天気は快晴で、極寒だということを除けば、視界はとてもクリアーで最高のレース日和だった。
けれど、だけど島の気温や気候は油断はできない。
三人のモーターバードにはそれぞれ、寒さから身体を守る為、操縦席に特殊素材できた軽量のカバーを取り付けた。
ガラスのように無色透明で、気温の変化や衝撃にも強いものだ。
それにフランが考え出した特殊な薬でコーディングしたことで、曇り止めの効果もあり、更には急に降り出した雪が万が一視界を遮ることのないように、必要なときにだけ使用できるワイパーもフロント部分に収納装備してある。
その他にも、レースのあらゆる場面に対応できるように、モーターバードは万全の状態に整備されていた。
「今回は島の周囲ではなく島の上に設置されたコースだ。もう一度確認しておくが、この島の各地点に急な坂道がいくつも点在することをしっかり頭に入れておかなければレースの命とりになる。特に、島の東のこのポイントとこのポイント、それから西のこのポイントは急な勾配にいくつものサークルが設置されている。勾配に差し掛かる前のスピード調整が必須だ。」
ゾイは、事細かに情報の書き込まれた地図をメンバー全員に配布しながら話す。
「それから……、ここは背の高い枯れ木の森を通過しなければならず、相当の操縦技術が必要とされる。一本道を逸れてしまえば、狭い木々の隙間を縫うように飛行せざるを得ない上に、通常のコースに比べて約六四、五パーセントにリスクが跳ね上がる。くれぐれも他校の戦略には気をつけて飛行してくれ」
「了解!」
親指を立て、にっこりとほほ笑んだハルを横目に、ラビが棘のある言葉を付け足す。
「言っておくが、コースの心配はお前には必要ないぞ、ハル。お前の出番はラスト二周のみだ。僕とゾイ先輩で必要サークル数をノーミスでクリアしてみせる。つまり、お前は馬鹿でもできる、単なる一直線飛行のみって訳だ」
ラビは、昨日聞いたピッツバード島の世界大会でもハルの活躍話で、正直なところ大きな焦りを感じていた。
「そうだね! ゾイ、ラビ、よろしくね! 僕はラスト二周に懇親の力を込めるよ!」
相変わらず、ラビの吐いた毒にも全く気にしない様子のハルは、そう元気よく
言った。
「ああ。……とはいえ、この気候での飛行は僕らにとって未知数な部分も多い。レース中にどんなハプニングが起こるかも分からない。もし何かあってプランAの戦略では通用しなくなった場合は、迷わずプランBに変更してくれ。今回は無線を各モーターバードに取り付けておいたから、何かあれば無線で連絡を取り合おう」
プランBとは、ゾイが前もって立てておいたもしものとき用の計画の一つである。
最終整備にあたっていた四人も、ゾイの話に「了解」とチェックの手を止めないまま返答した。
昨日のうちにコースの確認を踏まえ、三機を島のコースに沿って軽く飛ばしてみたが、特に問題は見当たらなかった。
あとは、レース中にその改良がどれだけ力を発揮するかだ。
「ありがとう、フラン、整備班の皆。レース中もよろしく頼む」
ゾイが整備班のメンバーの肩を信頼を込めて一人ずつ軽く叩いて回った。
と、そのとき、すぐ近くのスタート位置で待機している女子生徒三人が、ハル達に声をかけてきた。
厚手で真っ白なパイロットウェアーの胸には、氷鳥の水色の刺繍が施されている。
リンベル女子航空学校の代表選手だ。
どこの航空学校にも通ってもいなかった自分よりも年下のハルが、天才と謳われるゾイ・ボルマンにさえ勝っていたとは、とても信じたくない事実であった。
けれど、事実あのゾイ自身とてもハルに信頼を置いているようだし、あのアレン・パーカーでさえハルの実力を認めていたことは確かであった。
「御機嫌よう、ヘルシオンの代表選手の皆さま」
そう言った彼女は、チームで一番年長のゾイよりも身長が僅かに高く、金の長い髪を高い位置で一つに纏めている。
そして、どこか挑戦的な目をしていた。
「やあ」
ゾイは彼女達が昨年度の優勝校である自分達を近目で確認に来たのだと見越し、落ち着いた口調でそう答えた。
「わたくしはシェリアン。こっちがリリーで、この子がマーサ。リンベル女子航空学校の代表よ。同じレースに参加する者として挨拶をさせてくださらない?」
シェリアンと名乗った女子生徒は、ゾイに握手を求めて手を差し出してきた。
「ゾイ・ボルマンだ。よろしく」
涼しい顔でゾイは彼女と握手を交わすと、ハルとラビを彼女達に紹介した。
リリーはそばかすの小柄な女子生徒で、マーサはモーターバードの操縦よりもお菓子づくりの方がしっくりくるほどのおしとやかでおっとりした女子生徒だった。
「よろしく、ハル・シュトーレンです。お互いいいレースにしようね!」
ハルがゾイと同じように手を差し出すが、ラビはつんとそっぽを向いたまま握手をしようとはしなかった。
彼女達が自分たちのモーターバードの待機位置に戻って行った後、ハルはにこにことを笑いながら仲間に言った。
「あの子達、いい子達だね。今回はきっといいレースになるよ」
そう言って見たゾイの表情が少し強張っていることに気づき、ハルは小首を傾げた。
「いいや、彼女達はああ見えて手強い相手だ。ここの地形には精通している。それに……」
気が付けば、リンベル女子航空学校が待機しているモーターバードの更に向こう側から、射抜くような鋭い目つきでこちらを睨みつける者達の姿が視界の端に映った。
彼らの身につけている厚手の黒いパイロットウェアーの胸には、燃えるような赤で ”火鳥” の刺繍が施されてる。
「ちっ、ソウシン国の奴らか……。今度は一体何を企んでいることやら」
ラビが忌々しそうに彼らを見つめると、ゾイが小さな声で言った。
「今朝仕入れたばかりの情報だが、あの糸目の奴がテイ・ファンという代表選手だ。奴はソウシン国の言わば無法地帯とも呼ばれる場所で育った随分暴力的な男らしい……。そしてその隣の女子生徒がコウ・リン。彼女の操縦は格闘技だという噂も聞く。あまり近づかない方が賢明だろう。そして、あと一人は……」
とても、一筋縄ではいかないレースになりそうだ。
「あの顔、どこかで見覚えがあるような……」
ハルが首を傾げて思い出そうとしたとき、
「ああ。あいつは、あのチャン・ルイの実弟らしい。名はチャン・フェイ」
とゾイが言った。
それを聞いて、ハルの記憶がはっきりと蘇る。
スピッツバードの世界大会で、猛虎と謳われ、凶器となったモーターバードを操縦し、恐ろしい勢いで追いかけてきたあの男の顔と、すぐそこに立つ少年の顔が見事に重なったのだ。
「あの子が!?」
ハル・ゾイ・ラビの三人は、静かに右手を握り締めた。
「チーム ”風鳥” は、あらゆる可能性を想定して、僕が考えた最強のメンバーで構成されている。僕らは最善を尽くそう」
整備をしていたフランが、三人に声をかけた。
「さあ、開始十分前だよ。そろそろエンジンをかけて温めておかないと」
しっかりと頷き、ゾイが白と黒の縦縞模様の愛機に軽やかに飛び乗った。
そして、ヘルメットを着用した。
今回は、レース中に操縦席を覆うカバーに頭をぶつけて怪我をしないよう、衝撃吸収用のヘルメットを準備したのだ。
厚手の皮手袋を装着し、勢いよくエンジンをかけた。
この気候に合わせて特別に改良を加えたエンジンは、すこぶる調子が良いようだ。
「まずは僕からだ」
他校のモーターバードのエンジンをかけ始める中、ゾイは操縦席でそっと目を閉じ集中を高めていた。
その頃、死の雨雲すぐ外側でアポロン号から飛び立ったレオとラミロは、応急処置を済ませたファルコンとイーグルに乗り、ファン・ドアール海上空イリオン島の南三カリアのポイントに向かっていた。
「せ、船長っ、さみーよ! 凍えちまう!!」
「確かに、この寒さ異常だな。鼻水まで凍っちまってるよ」
二人とも、この寒さ用の服装をしてきていない為、モーターバードの操縦席にガタガタと震えながら座っている。
「ファンを回しとかなきゃ、エンジンが寒さでやられちまうぞ~~」
震える声でラミロが忠告するが、
「もうさっきから回してんよ」
と、後ろに積んであった毛布を体に巻きつけながら、レオが答えた。
「防寒マスクも積んでくりゃ良かった……。船長、なるべく直接空気を吸わない方がいいぞ、肺まで凍っちまう……」
少し埃臭い毛布に顔を顰めながら、レオは仕方なく毛布の端っこで鼻と口を覆う。
「おっと、我が家が既にお待ちだぜ」
そう言って、前方に見えてきた懐かしい飛行船にレオが視線の先をやる。
悪名高い空賊船、ビアンカ号である。
「助かった~~、もうちょっとで俺達、凍っちまうところだったよ」
ラミロはあの飛行船の船長代理、ルイス船医に心の底から感謝した。
まるで目の前に現れた救いの女神のようにさえ感じた程だ。
「さて、今日の大仕事について、ルイスを交えて計画練るとするか」
今日が航空学校対抗レースの開催日当日だった。
セキュリティー万全のイリオン島への侵入経路と、日誌を奪うまでの綿密な計画を準備しておく必要があった。
そして既にレオは、密かにそんな策を巡らせているのであった。
イリオン島の上空は活気づいていた。
地上設置型コースということもあり、島の上空は観戦用の飛行船が何隻も浮かんでいた。
それから、スタート地点から一〇〇カリア程離れた位置には、ドーム状の屋根付き観戦席が用意されており、そこに設置された巨大スクリーンでは、レースの生中継を見ながら観戦できる設備になっている。
更に、スタート地点のすぐ脇に特設の整備会場が設けられており、必要ならばそこでチームのモーターバード整備や応急処置等を施せるようにもなっている。
『さあ!! 今年もまたやって来ました!! 毎年恒例の航空学校対抗レースがいよいよ開幕します!!』
スタート地点で既にエンジンを吹かして横列に並んだモーターバードの上空を、一機のモータービートルが円を描きながら飛行している。
解説者の乗るモータービートルである。
この島で生のレースを観戦する者の多くは、各校の応援生徒とその家族、そして将来性のある若い操縦士の姿を一目見ようと各国から集まってきた政治家から報道陣、軍事関係者などである。
重要な人間が集まるこの島のセキュリティーを強化する為、警備用モータービートルが忙しなく島の周囲を巡回している。
『今回のレースも、わたくしビーブスが、魂を込めて実況中継させていただきます!! よろしくお願いします!!』
この寒さにも関わらず、観戦用飛行船にも、観戦用ドーム内にもぎっしりと詰め込むように並んだ観客席から拍手が巻き起こった。
誰もがこのレースを心待ちにしている。
今回の解説者も、スピッツバード島での世界大会でお馴染みのビーブスであった。
彼は世界的にも熱意のある実況中継とその憎めないキャラクター性から、人気の高い解説者であった。
その為、今回のレースでも抜擢を受けたのだろう。
『そして、今回は大物ゲストをお招きしています。ヘルシオン王国を代表するモーターバードレーサー、アレン・パーカーさんです!!』
『どうも、アレン・パーカーです。よろしく!!』
アレン・パーカーの熱狂的なファンが、地上観客席から黄色い歓声を上げ、ピンク色のハートの旗を振りかざしている。
彼女達は、幸運にもレースの優待チケットを当てたラッキーな人間達である。
『いや~、相変わらずすごい人気ですね、アレン・パーカーさん』
ビーブスがすぐ隣に座っているアレンに賞賛を送る。
『ファンがいることは、この上なく幸せなことですよ、ホントに。でも、今回僕は観戦者側の立場ですので、しっかりとレースを観戦していきたいと思います。ごめんね、皆!』
直後、悲鳴のような歓声が起こり、ビーブスは苦笑いを浮かべながら本来の仕事へと戻る。
『さてさて、それでは早速本日のレースについて解説していきたいと思います。本日のレースは、各国が誇る航空学校の代表生三人がチームを組み、技術と知識、能力その全てを出し合い、競い合う年に一度の素晴らしいレースです。毎年、プロのレーサー顔負けの素晴らしいレースが繰り広げられていることは、会場の皆さんもご存知の通りでしょう!!』
ビーブスの隣で、アレンが呑気にファンに手を振りながら観客席に向けてにこやか手を振っている。
その傍ら、ビーブスの熱の入った解説が続く。
『ここでルール説明を致します! このレースのルールは少し特殊で、地上に設置されたコースをチームで計十五周してより速く戻ったチームの勝利となります! 一人あたりの周回数に規定はありませんが、三機全てが必ずレースで飛行しなければならないという絶対条件があります。また、味方チームの三機全てがコースアウト、もしくは飛行不能になった時点で失格になります。コースの途中に大小様々なサークルが設置されていて、ゴールまでに最低一五〇の輪を潜ることができない場合も失格となってしまいます。』
アレンは手を振るのをとりあえず中断し、じっとスタート地点に並ぶモーターバードを見下ろしている。
『さらに、このレースはチーム戦ですので、同じチームのモーターバードが二機ないし、三機同時に翔けてもなんら問題はありません。但しその場合、同じ周回でのサークル数のカウントは、同チームのうち多くサークルをクリアーした方のみになりますのでご注意を。』
ビーブスのルール説明が終わった直後、中継用の各画面に、イリオン島に設置されたコースを図面にしたものが大きく表示された。
『では、続いてコースのご説明をいたしましょう! コースは地形に沿って設置されており、地形上起伏が激しく、高い操縦技術が必要とされる難易度の非常に難しいコースとなっています。』
一瞬にして画面が立体地図へと変貌し、このコースがいかに起伏の激しい地面に沿って設置されているかが一目でよく分かるようになった。
『そして、スタート地点から約三〇〇カリアを過ぎた辺りから、曲がりくねった曲線コースとなっているのがお分かりいただけるでしょうか? 更に、そこを抜けると背の高い枯れ木が点在するコースへと入っていきます。一本内側に近道のルートがありますが、ここは木々が生い茂り、その間を縫うように飛行せざるを得ない超難関ルートとなります。』
なるほど、コースは途中二手に分かれるポイントがあるようだ。
画面は再び平面図に戻り、コース全体図を表示する。
『そこを抜ければ再びコースが合流し、後は一直線のコースです』
これを見ただけでも、実際にレースに参加したことのない者でも、相当な操縦技術が要求されるコースだということがよく分るだろう。
『勿論、勾配の多い地形すれすれを飛行せず、上空を翔けるということもできますが、なんせ一周あたり十二のサークルが、地表から約三カリアという低位置に設置されていることもあるのであまり上空ばかり翔けすぎると、サークルミスにより失格になるおそれもあります……』
そう一通りの説明が終わると、画面に映し出された図面は消えた。
そしてビーブスはマイクを振りかざし勢いよく立ち上がった。
それを合図に、ビーブスを乗せた中継用モータービートルが、スタート地点に待機中のモーターバードの上空にゆっくりと近づいてゆく。
『ではここで、チームのご紹介をいたしましょう!!』
頭上を飛ぶ中継用のモータービートルに気づき、真下の学校生達が上空を見上げている。
『まずは、リンベル女子航空学園!! このイリオン島を所持するリンベル王国が誇るお嬢様達です!! ”チーム氷鳥”!! 彼女達はこの極寒の気候と島の地形を知りつくした強豪チームです』
金髪で長身のシェリアンを中心に、中継用カメラに向けて三人がおしとやかに手を振っている。
それと同時に、応援に来ているリンベル女子航空学園の生徒の甲高い歓声が上がった。
今頃、上空に浮かぶ国王級の観戦用飛行船の中で、リンベル女王がすっかり鼻を高くしているに違い無い。
『続いてブセラ航空学校の ”チーム岩鳥” !! 彼らの持ち味は固いボディーと力強い飛行。乾いた熱帯の島出身の彼らが、この寒さの中どんな力を発揮できるのか見ものです!!』
リンベル女子航空学園の真っ白い三人とは対照的に、焼けた浅黒い肌が特徴のブセラ航空学校の生徒三人が、中継用カメラに向けて小さく会釈した。
ブセラ航空学校の応援組は、伝統楽器である打楽器を打ち鳴らし、鼓舞している。
『お次はファンブリッド航空学園の ”チーム光鳥” !!聞いたところによると、ものすごい三機の合体技が見られるとのこと。本日のレース、実に楽しみです!!」
ファンブリッド航空学園の三人は中継用カメラに向けて大きく手を振り笑いかけている。
かなりの自信だ。
こちらの応援組も負けじと手を打ち鳴らした大声援である。
『そして……、ソウシン国が誇る軍航学校の ”チーム火鳥 !! 彼らの能力は未知数です……。なんて威圧感だ! 会場にも緊張感が漂っているのは気のせいでしょうか?? 驚くべきことに、メンバーの中にはあのチャン・ルイ選手の実弟がいるとのこと!」
こちらは打って変わって、無表情のまま三人は中継用カメラを見向きもしない。
観客席の方からは拍手の音だけが響くのだった。
『……気持ちを切り換えてまいりたいと思います。お待たせしました! 昨年度優勝校王立ヘルシオン航空機学校の ”チーム風鳥” !! 今回はメンバーを一新しての登場です。同じみの天才ゾイ・ボルマン君は今年も代表選手のようです。おおっと……! メンバーのあの小さな子、どこかで見覚えがあります!! えーっと、どこで見たのでしょう……。 う~ん、今はまだ思い出せません! う~ん……。 とにかく! こちらは連覇の期待されているチームです。今年はどんなレースを見せてくれるのでしょうか?」
会場の大画面には、既にモーターバードに乗ったゾイと、その傍に立つハル、ラビが映し出された。
同じ学校生や関係者の大きな声援と拍手が起こる中、それに被せるようにブーイングも巻き起こった。
「ちっ……」
ラビの機嫌が悪くなる一方で、既に操縦席で万全の状態で待機しているゾイの肩が僅かに強張った。
『おや……。会場からどういう訳かブーイングが巻き起こっています。昨年度のゴタゴタがどうやらまだ尾を引いているようです! これは ”チーム風鳥” にとって、別の意味でも厳しいレースになりそうだ!!」
ビーブスは上空で中継用モータービートルを旋回させる。
『さあ! いよいよスタートのときが近づいてまいりました!! スタート地点には、最初の飛行を任された選手達のみが残り、あとのメンバーはスタート位置すぐ脇の待機場所へと引き上げています。既に飛行準備は整い、ゴーグルや防寒用マスクも選手は着用しているようです』
スタート前の緊張感が会場を包み込んでいる。
このレースに参加するモーターバードの翼には、それぞれの国の象徴である鳥模様の大きなステッカーが貼られている。
遠くから見てもチームの判別がつきやすいようにする為だ。
『おーっと、リンベル王国の ”チーム氷鳥” は二機、そしてソウシン国の ”チーム火鳥” の二機はリレー方式をとらず、同時スタートの連携方式スタートのようです!!」
会場にざわめきが起こる。
誰もが、ソウシン国の ”チーム火鳥” の目論見に不安を抱いているようだ。
いよいよここで、スタートの直前に鳴る甲高い電子ホイッスルの音が鳴り響き、観客席がしんと静まり返った。
選手達は、エンジンを吹かしながらスタートの合図をじっと静かに構えて待つ。
『ズドオオオオオオオオオン』
腹に響くような空砲の音が響き、一斉にモーターバードが動き始めた。
「いけー!!! ゾイー!!!」
「がんばってくださいー!! ゾイ先輩~~~!!!」
ハルとフランが大声で叫ぶ中、とうとう波乱のレースの火ぶたが切って落とされた。
そしてそれと同時に、空賊達が今まさにとてつもなく無謀で巨大な計画を始めようとしているのだった。