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第九話 レーラズ海上空にて


ヘルシオン王国の王都が栄える巨大な人工島、ウィンド・バード島。


その島を東の方角へ行ったところが、レーラズ海上空である。


というのも、単純に数百メートル下にレーラズ海と呼ばれる海域が広がっている為、そのような名で呼ばれているだけのことだ。


そして、この辺りの空は、ヘルシオン王国の隣国である ”ソウシン国” という軍事国家と、国境ならぬ空域が交わる微妙な空であった。


空域とは言え、陸地のように国境のように明確に区切ることはできないからだ。


ソウシン国は、元来好戦的な思想を持つ国家で、その国の王はどうやら危険思想を持った者だという噂が立ち始めていた。


そういうこともあって、他国の王達は、皆この国に警戒していた。


中でも、スカイ・グラウンドで最も巨大な人工島を所持するヘルシオン王国は、2番目に広い人工島を所持し、高い軍事力を所持するソウシン国に唯一対抗できる力を持ちうる国でもあった。


その為、ヘルシオン王国は、互いの空域が交差するこのレーラズ海上空での軍事行動にはひどく敏感になっていたし、下手な行動を起こせば戦争になりかねないことを懸念していた。




そんな空域にも関わらず、この日、闇夜に銃弾の音が不気味に響いていた。


まさに、これは異常な光景だった。



そんな音の中、二機のモーターバードが闇夜の空を駆け抜けている。


うちの一機は漆黒の闇にまぎれるような黒いハヤブサ。


もう一機は闇夜に大きく翼を広げる焦げ茶の鷲の姿である。


そしてその二機を追うように、巨大な軍用飛行船が赤く光る弾丸を連射していたのだ。


飛行船の前部分には、ヘルシオン王国の象徴である ”風鳥ウィンド・バード” の紋章が描かれていた。



「下手クソめ」


吐き捨てるように呟き、レオは自らの操縦するモーターバードの両手レバーを引っ張り上げた。


「そろそろ引き上げるか?」


放たれる弾を避けながら、ラミロがレオに問いかけた。


「仕方ねぇな」


レオは渋々ラミロに手で合図を送り、二機は雨雲に姿を隠すビアンカ号への退却を決めたのだった。





「なんで、こんな国境近くにヘルシオンの軍用飛行船が……!」


ビアンカ号のハッチから、鷲の型をしたモーターバード “イーグル” を着地させた後、渋面をつくりながら操縦席からラミロが愚痴を溢した。


「確かに妙だな。こんな空域の境でドンパチやりゃあ、ソウシン国に目をつけられてもおかしくねぇってのに……」


真っ黒いハヤブサ型のモーターバード “ファルコン” から、レオが気難しい顔でラミロに返答する。


「だよな……。明らかに異様だ……」


「俺の勘だが、奴ら、こそこそ何か探し回ってんじゃねぇ? 空賊ごときに見られても困るような何かをな……」


しばらく考えてから、レオはふとそんなことを口にした。


ラミロは改造を加えたばかりの風変わりなゴーグルを外して言った。


「船長の予想はくやしいけどいつも当たる。船長がそう言うなら、きっとその線が堅いだろうな。ま、オチビさんの件は除くけど……」


「ちっ、うっせぇ」


スピッツバード世界大会のレース予想が外れたことを、レオはいまだに根に持っていて、ラミロに不機嫌な目を向けた。


引き締まった褐色の手から黒皮のグローグを脱ぎ去ると、慣れた手つきでファルコンの操縦盤の上にそれを引っ掛ける。


「だがまあ、このままやられっぱなしってのは気分悪ぃな。こうなっちまったら、何が何でも奴らより先に、その探し物ってのを見つけてやりたくなるのが俺だ」


「そうこなくっちゃ」


イーグルの操縦席から飛び降り、ラミロはガッツポーズを取った。


これで、空賊船ビアンカ号の近日中のお目当てがはっきりと決まった訳だ。


「船長、勿論見つけるだけじゃないよな? 先にそれをいただくのが俺達 ”黒き悪魔” だろ」


「さすが我ビアンカ号副船長。よく俺の考えを読んでんじゃねぇか」


満足気に眉を吊り上げるレオに、ラミロが大きく胸を叩く。


「当ったり前だろ。何年船長のお前に引きずり回されたと思ってんだ」



「それもそうだ」


レオは、愉快そうに声もなく笑った。



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