あとがき
最後まで『シフト -真理を映す目-』読んでいただいた方々に深く感謝いたします。
どうも、作者のrakiです。
ここでは、後書きとしてこの作品の解説をしたいと思います。
解説をして内容を深めるのは半ば反則くさい感じはしますが、どうかお見逃しくださいw
まず、私がこの小説を書こうと決めたのは今年(2010年)の初めくらいです。
私はその時、期末テストのテスト勉強が間に合わず、間違いなく赤点を量産する運命にありました(笑)
そして何を血迷ったか、テストを諦めてネタメールを作って私の長編小説執筆の相方である竜司に送信しました。
そのネタメールの内容は、私の叶わない願望をそのまま表現した掌編小説でした。
その願望とはもちろんテスト勉強の時間が間に合うことですw
つまり・・・その時にネタのつもりで書いたのがこの小説のエピソード1の原型だったんです。
そんなおふざけ的な感じで始めた小説でしたが、私にとっては短編『想影(面影リグレット)』に次ぐ単独制作2作目であり、連載としては初の単独制作で、今となっては割と大事な作品になりました。というのも、かなり難産だったのでw
プロットは一瞬で最後まで思い付いたのですが、そこに大分新しい内容を付け加えていったので、情報量が膨大化し、とても執筆の難しい作品になりました。
私は、上に書いた相方と共に長編小説を書いていますが、その連載が忙しくなり、『シフト -真理を映す目-』の制作はしばらくの間延期していました。そして制作を再開したときに、新たに様々なメッセージをこの作品の中に加えていきました。
人間への天罰、優位性の転換
生命の平等
孤独な子供と大人
造られた常識を鵜呑みにする世の中
メディアによる良くも悪くも強い影響力
キリスト教の持つべきでない権威
これらのテーマを、メインテーマである《人間のあり方》を軸に展開したのが『シフト -真理を映す目-』です。
最初、この作品は「ホラー」にするつもりでした。
しかし、多くのテーマを盛り込んでいく中で、「SF」に変えました。
正確にはそのどちらも違うような気がします。
私はこの作品を、メッセージ性が強すぎる作品だと思ってます。それは良いところでも、悪いところでもあると思います。
けれど、その方向性で作っていったことに後悔はないです。
そういう作品への工夫が、今後の糧になるだろうということは間違いないので。
ところで、実は、サブタイトルもまた、工夫をしています。
意味が複数含めることを意識し、エピソード全体を一言で的確に表せるようにしました。
私の意図した訳は以下の通りです。
PROLOGUE - The Old Testament 旧約聖書
EPISODEⅠ - Rapture 狂喜(異常なほどの喜び)
EPISODEⅡ - Panic 恐慌(恐れ驚く)
EPISODEⅢ - Infection 感染(謎の症状の感染、桐崎から中森への情報の伝達)
EPISODEⅣ - Biology 生物学(生物学者、ニホンオオカミの発見)
EPISODEⅤ - Revolution 革命、転回(直接総理を動かしたこと、前衛的理論で常識を覆す様)
MONOLOGUE - The gospel 贖罪による救い、動物視点での福音
EPISODEⅥ - Sacred book 聖典(聖書、Shift)
EPISODEⅦ - Origin 起源(事件の起源)
EPISODEⅧ - God 神、管理者
EPILOGUE - The Shift 変化、変遷
しかし・・・こう見ると、いろんな内容を書いたな、と思いますね。
ここまで雰囲気の違うエピソードを繋げられたのは、やはり主人公を特定しなかったからかもしれませんね。
私的には、この物語に主人公はいません。
どれか選べといわれたら、重要度から判断するに、渡部秀真か田中涼子になりますかね。
製作中、私が一番気に入っていたのは中森弘明ですがw
田中さんも気に入ってはいましたが、EPISODEⅥ、Ⅶ、Ⅷで誰とも会話がなかったので、性格が分かりづらかったかもしれないですね。感情移入ができなかった感じはします。
ただ、作者である私と、価値観や見る景色が一番近いのは田中涼子で間違いないです。
彼女には最後の大役を担ってもらいましたら、当然ではありますが。
ちなみに、作品の内容について、少々語らせてもらいますと、 EPISODEⅣ - Biology の冒頭で、ニホンオオカミの発見の報道に渡部が驚くシーンがありますが、気づいていただけたとは思いますが、MONOLOGUE - The gospel に繋がっています。
そして、作中でほのめかされている、リワインド症候群の死者が転生して新しく発見された絶滅動物になっているという説ですが、それが一応作中での解答になるわけです。
「一応」というのは、渡部秀真の書いた現代の聖書『Shift』のなかでリワインド症候群の死者が転生して新しく発見された絶滅動物になっているという説が書かれているだけで、あくまで証拠はないということになっているので、完全にそれが真実と言えないかもしれないからです。
だから、その説を確定させるのが嫌だったので作中では明かさなかったのですが、それに関して私の個人的な裏設定があります。
先程書いた EPISODEⅣ - Biology のニホンオオカミは、EPISODEⅦ - Origin と EPISODEⅧ - God で出てきた、蒼天真理会の教主の生まれ変わりです。
つまり、教祖が最初の発症者なので転生するのも一番早く、渡部が見た報道で見つかったニホンオオカミが教祖ということになります。
ニホンオオカミにしたのにも、一応意味があって、
『 オオカミ = 狼 = 大神 』という、繋がりがあって、何気なく「神」の存在を示唆しているんです。
それに関して、ウィキペディアからの引用です↓
『日本では関東・中部地方において秩父の三峯神社や奥多摩の武蔵御嶽神社でオオカミを眷属として祀っており、山間部を中心とした狼信仰が存在する。オオカミを「大神」と当て字で表記していた地域も多く、アイヌではエゾオオカミを「狩りをする神」「吠える神」などと呼んでいた。』
「狼」が地方によって「大神」と当てられていたということを、絶滅動物の詳細情報を取材中に知って、これは使わない手はないだろう、と思ってこの設定を採用しました。
そして、ここで「大神」繋がりで、「神」についての歴史と文化も調べる機会を得ました。
旧約聖書の一部を斜め読みさせてもらったんですが(神聖な文書を斜め読みして申し訳無いのですが)、やはりいろいろ思うところはありましたね。
この小説では、以下の聖書の一節が重大な鍵になっていました。
旧約聖書 第一章 二十八節
神は彼らを祝福して言われた。「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ。」
私はこの考え方は、結構好きで、生き物の命をもらって生きている人間の有り様を綺麗事抜きに正確に表しているとも言えなくはないと思ってます。
作中では、どうしても物語なので、完全否定の形を取らざるをえませんでしたが、私としてはどの宗教も正しい主張を持っていると思います。ただ、それを絶対のものとすることには難があるような気はしますけれど。
作中、後半に差し掛かったあたりで、渡部秀真がカトリック教会の総本山ヴァチカンに出向いて秘密会議に出ているという話がありました。
『 世界の宗教の行く末を左右するのは、渡部の発する情報なのだ。最も真実に近いのは、実質渡部ただ一人であって、彼がカトリック教会の秘密会議において、キリスト教の未来についてどんな意見を呈示するかが、世界の信じる道を決める。』
って部分です。
「秘密会議って何だよ」
とお思いになられた方も多いとは思いますが、物語上「権威と陰謀」を持った教会を描く必要があったので、こういった設定になってしまったっという感じです。
結局、渡辺秀真がヴァチカンの秘密会議でキリスト教の未来についてどんな意見を呈示し、その他の多くの宗教にどんな影響を与えたかは明確には書かれていませんが、彼がそこでどんな決断を下し、現代の聖書『Shift』を書いたのかは、 EPILOGUE - The Shift を読んで頂いて想像できたかと思います。
というよりも、そこを想像していただけることが作者としての願いでもあります。
・・・という感じで、取り敢えず私が『シフト -真理を映す目-』を読んでいただいた方々に伝えたいことはほとんど書かせてもらいました。
反省点も多く、今後、もっと上手くなりたいということも沢山ありますが、作者としてそれなりに気に入ったところも多い作品でした。
皆様が少しでも楽しんでいただけたならば幸いに思います。
お時間のある方は、何かご感想をいただければ嬉しいです。
この度は、17歳の未熟な私の、精一杯見栄を張った拙作に最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!
(追記:2011/12/02 6:02)
熟読もしていませんし、全て理解もしていませんが、あくまで一部の理解の助けとして斜め読みした参考文献です。
参考文献
『聖書 新共同訳』(日本聖書協会, 2010, 日本聖書協会.)
[旧約聖書 創世記一章 24-28節]
アリストテレス,『政治学』(牛田 徳子, 2001, 西洋古典叢書.)
トマス・アクィナス,『神学大全』(稲垣 良典, 2009, 講談社選書メチエ.)