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勇者と聖女様は恋に落ちたらしい。勇者を待ち続けた恋人の私は捨てられる? いいえ、溺愛されるようです。

作者: ハルマキ
掲載日:2026/04/07





 私は毎日祈りを捧げる。魔王を倒す旅に出た"勇者"である恋人のために。


 (アランが無事でありますように。)


 傍から見れば、健気で献身的な姿に見えるだろう。


 (そして......アランが聖女様とくっつきませんように! お願いです神様! いえむしろ魔王様!! いい感じの雰囲気になったら横槍を入れちゃってください!)


 内心は私欲に塗れていた。だって、もう私にできるのは魔王頼みくらいで......


 現在、勇者御一行は魔王城での最終決戦間近だという。

 彼らが旅立ってから4年が経つ。魔王を倒すまで後一歩というところで、皆が浮足立っていた。

 そして、帰ってきたら勇者は聖女様を望むのだというストーリーに、誰もが夢中になっている。

 


 * * * * *



 私、スカーレットは元気が取り柄な普通の村娘である。焦げ茶の髪と瞳は親譲りで、笑ったときのえくぼは結構気に入っている。美人と言われたことはないけど、まあそんな感じ。

 勇者である私の恋人、アランと出会ったのは9年前。そのとき私は12歳で、孤児だったアランはこの村の教会に引き取られて来た。

 そして、漆黒の髪に緋色の瞳という、とても珍しい__はっきり言えば異様な容貌と、常に無口で無表情だったせいで、子ども達からは魔王の手下だとか言って不気味がられていた。

 正直、私も噂を聞いたときは怖かった。それでもなぜ彼と仲良くなったのかというと、当時私が友達から仲間外れにされていたからだ。きっかけはもう思い出せないくらい些細なことだったと思うし、別に嫌がらせをされたわけでもない。ただ、いないみたいに扱われただけ。それでも、そのときの私にとって、女の子達から無視されるのは世界が終わるよりも辛いことだった。大人に相談したり、村の男の子達と遊んだりすれば、きっと悪化するとわかっていたから、一人でなんでもないふりをしてやり過ごすしかなかった。

 毎日教会に行って祈った。明日は皆が話してくれますように。

 

 何日目か、ふと思った。神様なんていないんでしょ。

 寂しくて、悲しくて涙をぽたぽた落としながら俯いていた。私の居場所はない。


 そのとき、誰かの手が差し出された。見上げると、黒くて長い前髪の隙間から、ステンドグラスの光のように輝く瞳に捉えられる。それは炎のような赤い色で、不気味な噂の少年だとわかったけれど、怖くはなかった。同い年くらいの、ただの男の子だった。私が動けずにいると、その子はまた手を差し出す。手のひらには小さな飴が載っていた。

 

 「これ、くれるの?」

 「......ああ」


 少し掠れた声を聞いて、喋るんだ、と思った。


 「ありがとう......私、スカーレットよ」

 「......アランだ」

 「ここで何してるの?」

 「掃除」


 よく見れば、彼は片手に箒を持っていて、礼拝堂から誰もいなくなっていることに私はようやく気がついた。


 「ごめんなさい、邪魔をしちゃった」

 「別に」

 

 そっけないけど、怒ってるわけじゃないみたい。


 「あの、私も掃除を手伝うから、ここにいてもいい?」

 「......好きにすればいい」


 別に、アランに悩みを話したわけでもないけれど、誰にも気づかれないように張り詰めていた心が解けて、無理に明るく振る舞わなくていいことが心地よかった。辛いときも、後でアランのところに行けばいい、私には居場所があるんだと思えば耐えられる。


 それから数週間経って、村の女の子達はまるで何事もなかったかのように、私を仲間に入れてくれるようになった。だけど私は、アランが掃除をする時間に教会へ行くことを続けていた。


 アランはあんまり喋らないし無表情だけど、段々とわかってきたことがある。甘い物が結構好きそうなこと。私にくれた飴は、教会で週に一度もらえるお菓子で、大事に食べるためにとっておいた物だったこと。お礼にクッキーを焼いたら、ちょっとだけ頬が緩んだ。雨の日は少し元気がなさそう。意外と頑固者。反応は薄いけど、ちゃんと目を見て話を聞いてくれる。

 たぶん、アランは怖くないよって友達に言ったら......本当は皆も興味があったし、アランが優しいこととか、長い前髪に隠された顔が実はかっこいいことに気づいて、密かに人気な男の子になったんじゃないだろうか。

 __私はそれを秘密にした。自分だけが知っていることに優越感を抱いて、独り占めしたかったんだと思う。


 でも3年も経てば、真面目なアランは村の中でも認められていって、誰かと話す姿を見かけることも珍しくなくなった。

 私も15歳になって、家の手伝いが忙しくなり、アランと一緒に話せる機会は貴重になってしまった。たぶん、私は皆よりもちょっと仲が良いだけの友達。


 「なんだか、二人で話すのも久しぶりね」

 「そうだな」

 

 今なら、アランが少し微笑んでるってわかる。


 「この前シスターがね、アランが力仕事をしてくれてすごく助かるって言ってたのよ」

 「別に、大したことじゃない」

 「そんなことないんだから」

 「......それくらいしかできない。この前は......新しく教会に引き取られた子どもを、また泣かせた」

 

 そう言いながら、アランは目を伏せた。


 「......この瞳......不気味だろう」


 その呟きに私は息を呑んだ。時が経っても、言い返さなくても、心ない言葉にアランが何も感じていないわけなかったのに。

 

 「......アラン。私の名前を言ってみて」

 「スカーレット......?」

 「そう。スカーレットってね、燃えるように鮮やかな赤い色という意味があるんだって。アランの瞳のような、とても綺麗な色。私、あなたの瞳の色も、あなたのことも、大好きよ」


 そう言うと、アランはそれまで見たことがないような表情をした。じわりと、何かを堪えるような。それから、頬が段々と染まっていく。

 数秒遅れて、私は自分の発言の重大さに気がついた。まるで愛の告白だ。


 「待って、違うの」

 「......違うのか」


  アランが眉根を寄せる。さっきから彼にしてはすごく表情が変わっているけど、それより私の表情は目も当てられないだろう。


 「いえ、違わない......違わないけど」


 顔が焼けるように熱くて、今すぐ消えてしまいたい。

 どうか、自分を大切にしてほしくて、私にとっても大事だと知ってほしくて、後先考えず口に出してしまったけれど。


 「えっと......す、好き......よ。アランのこと。その、恋愛的な、意味で」


 こんなみっともなく告白するつもりじゃなかったのに。恥ずかしすぎて涙が滲んでくる。


 「俺も。スカーレットが好きだ」

 「……へ?」


 史上最大に間抜けな声が出た。見上げたアランの顔は至って真剣で。

 つまるところ、私達は両思いになった。

 


 __これが幸せな結末だったらよかったのにね。



 * * * * *



 それから2年が経った頃。小さな村での恋愛事情は広まるものであって、私達が付き合っていることはいつの間にか村中に知れ渡っていたけど、それもすぐ別の噂によって関心が薄れていく。

 手を繋いだり、私がねだったら触れるようなキスをしたりするようになったくらいだけど、私はとても幸せだった。ゆっくり進んでいけばいいと思っていた。


 それは、雨が降りそうなどんよりした日だった。アランは雨が苦手だから、私の買い物について行くと言ったのは意外だったけど、一緒にいられるのが嬉しくて、私は浮かれて頷いた。

 未だに手を繋ごうとするときは緊張してしまって、アランがそっと握り返してくれると、ますます胸が高鳴る。市場を歩きながら、私は舞い上がって、普段以上にお喋りになっていた気がする。


 「そういえば、最近モンスターがあそこの村でも出現したんだって。怖いけど、現実味がないわよね。魔法を使える人なんて、ごく稀だからこんな田舎では見たことないし。モンスターって、本当に昔話みたいな感じなのかしらね」


 この国に伝わる、300年前に魔王が封印されたというお話。モンスターは魔王一味の下っ端だったらしい。私が小さい頃は、年に数回モンスターの出現で怪我人が出るかどうかくらいだったけど。ここ数ヶ月の間、モンスターの目撃情報が急増して、王国からも警報が発令されたことで、国中がうっすらとした不安に満ちている。

 

 「従姉妹のお姉ちゃんが半年前くらいに結婚したんだけど、タイミングがよかったねって話してたの。この情勢じゃ、しばらくは結婚式も挙げられないだろうって。そうだ、結婚式、すごく素敵だったなあ......ドレスを着たお姉ちゃんはとっても綺麗でね」


 ちらりとアランの様子を伺うと、たまたま私の方を見ていたようで、視線が絡み合う。


 「......それでね、思ったんだけど。わ、私もいつか......」


 (アランと結婚式を挙げたいなって。)


 その言葉を口にする前に__


 爆音と共に空と地面がひっくり返って......目を開けると、私は家のベッドに横たわっていた。

 それから家族に伝えられたのは、衝撃的な話で......魔王が復活して、アランがそれを倒すための勇者に選ばれたのだという。あのときの衝撃はモンスターの襲来で、以前より格段に強くなっていたらしい。私は頭を打って気を失ったようで、何も覚えていないけど......そのモンスターをアランが素手で倒してしまったんだって。その後、王都から使いが来て、アランは魔王を倒す"勇者"になるという栄誉を賜ったそうだ。

 何もかもが突然で混乱していて、じっくりと考える暇もなかったけど......一刻も早くとの召集を受けていたアランが、出立前に私のところへ寄ってくれた。


 「身体は、平気か?」

 「ええ。元気が取り柄だもの」


 安心させたくて、力こぶを作る真似をしてみせる。


 「アラン、あなたが守ってくれたのね。ありがとう......勇者に選ばれたんだって、聞いたわ。本当にすごいことだって。村の誇りだって......あなたは特別なのね」


 きっと、うまくいく。魔王を倒したら、アランのことを怖がる子なんて誰もいなくなって、皆のヒーローになる。

 だから笑って送り出さなきゃ。それなのに、視界が滲んで前が見えない。


 なんでアランなの。これからどれくらい会えないの。危ないに決まってる。もしも......死んじゃったらどうしよう。二度と会えなくなったらどうしよう。怖いよ。

 行かないで__ああ、こんなこと思ったら駄目なのに。 


 「スカーレット......」


 あーあ、困らせちゃった。私が泣いてどうするの。ぐっと涙を拭う。


 「......ごめんね、びっくりしちゃっただけ。私は大丈夫だから。ほんとに、気をつけて......」


 私はうまく笑えているだろうか。アランの顔を見たらきっとまた泣いてしまう。


 「手を貸してくれ」

 「え?」


 アランがするりと私の左手を取ると、薬指に冷たい金属の感触がした。


 「指輪......?」

 

 装飾のない、素朴な鈍色の指輪が私の指にはまっている。


 「これ、私に......?」

 「ああ。でも、少し緩いな......」


 しょんぼりするアランがなんだかおかしくて笑ってしまう。


 「ふふ、平気よ。糸を通したら調節できるわ。嬉しい......」

 

 アランはぎゅっと私の手を握って、私を見つめた。


 「必ず帰ってくるから......待っていてほしい」


 そんなの、答えは一つしかない。


 「ずっと待ってるわ。だから、絶対、絶対に無事で帰ってきて......!」


 

 * * * * *



 それから4年が経って、現在。勇者達は困難に立ち向かいながら旅を進め、いよいよ魔王との最終決戦を迎える!__らしい。世間では、勇者達のことを基にした面白おかしい冒険譚が大流行していて、どこまで脚色かわからない話や、又聞きの又聞きみたいな話も混ぜこぜになっているみたいだ。まあ真偽なんて重要ではないのだろう。皆が希望を抱けるならそれも悪くはないはずだ。

 ただ私にとって、勇者アランと聖女様が恋に落ちたという話は聞き捨てならないけどね!

 聖女様は当世で一番の治癒能力を持ち、元より尊い身分であるにもかかわらず、誰にでも分け隔てなく優しいのだという。しかも、絶世の美少女。

 __そんな彼女を平民の勇者が射止めた。身分差に苦しむ勇者。しかし二人の恋は誰にも止められない。勇者は魔王を倒し、褒美に聖女様を娶ろうと決意を新たにする......!

 

 待って待って、勇者には一応、私っていう恋人がいるんですけどー!! たしかに、私は平凡な村娘で、聖女様とは比べるのもおこがましいけど。

 ......アランを信じていないわけじゃない。半年前くらいにも便りが届いて、近況報告と私の体調を気遣う言葉をくれた。体調が心配なのはこっちの方だっていうのにね。

 彼は恋人を裏切るような行為をしないだろう。だけど、他の人に心が傾いたとしたら、それを止めることはできない。


 4年なんて人生の中では大した長さじゃないかもしれないけど、不安を抱くには十分すぎる時間だった。

 色々余計なことを考えてしまうのよ。アランが活躍して、賞賛されていく度に。とても嬉しいけど、どんどん遠い場所に行ってしまうような気がする。

 アランは優しくて、いつも私を泣き止ませるために行動してくれた。飴を渡してくれて、好きだと言ってくれて、指輪をはめてくれた。私はこの村で、アランのことを誰よりも知っていて、彼にとっても私は特別な存在だと、そういう自信がなかったと言えば嘘になる。でも、きっとアランの世界は広がって、色々なことを知って......私は特別でも何でもない子だって気づいちゃうんじゃないかしら。

 

 ......あーもう、ネガティブ禁止!

 薬指で鈍く光る指輪をぎゅっと握る。待ってるって約束したんだもの。

 私は21歳になって、勇者と聖女様の噂が立ち始めてから、両親に縁談を仄めかされることもあった。もちろん断固拒否したけど、村で勇者達が話題になる度に、私は今や腫れ物扱いだ。

 ......それでもアランがずっと好き。私が今すべきなのは、くよくよ悩んだり噂に惑わされたりするんじゃなくて、元気で自分の仕事をして、アランの無事を願って待つこと。アランが帰ってきたら「おかえり」って言うために。

 

 よし、と気持ちを切り替えたとき、私の兄さんがバタバタと音を立てながら駆け込んできた。


 「勇者達が、アランが、魔王を倒したらしいぞ!」

 「えっ!!」

 「マジだ。国中大騒ぎだぞ。それから......やはり、アランと聖女様は仲睦まじい様子で、結婚秒読みだと」


 もう慣れたと思った話にもまだ胸が痛むのか。それでも......アランが無事に帰ってきてくれて、本当に、本当によかった。

 ポロポロと涙を流す私を見て、兄さんは軽く私の肩を叩いた。


 「そう落ち込むな、スカーレット。兄ちゃんはこのために、特製の酒を寝かせておいたんだ。飲もう、アランなんて忘れてしまえ!」


 この兄さんに、こっぴどくフラれた人みたいに扱われると、なんだか非常にむかつく。でも私が言い返す前に、兄さんの奥様が後ろから鉄拳を加えた。


 「こら、何を勝手に決めつけてんの」

 「痛っ......いや俺は、妹を慰めようとだな」

 「悪意がない方が厄介ね」


 兄さんを一刀両断すると、お義姉さんは私の方を向く。


 「明日王都で凱旋パレードが行われるらしいの。スカーレットちゃん、このためにお金を貯めていたんでしょ?」

 「......行ってきます!」


 * * *


 大急ぎで出かけたけど、王都に到着したのはパレード当日。ガッタガタの馬車に半日揺られて体が悲鳴を上げている。そして、見渡す限りの人、人、人......こんなに大勢が集まる場所は初めてで、頭がクラクラしてくる。

 それでもなんとか泊まる宿を見つけたと思ったら、もうパレードの時間が近づいていた。道には既にたくさんの人が押しかけていて、気を抜いたら潰されてしまいそう。

 

 老若男女が喜色に溢れ、興奮して高まった空気がいっぱいに満ちている。本当にアランは勇者になったんだなあ、なんて今さら場違いなことを考える。

 ......きっと私がアランの恋人だって、ここにいる誰も知らないんだろうな。

 「勇者はもう王様の前で聖女様を望んだらしいわよ」なんていう話も聞こえてきて、無邪気なはしゃぎ声が苦しくてたまらない。

 それでも、もうすぐアランに会える__


 「来たぞ!!」


 黄金の馬車が段々と近づいてきて、ついにアランの姿が見えた。4年ぶりに見るアランは相変わらず無表情だけど、長かった前髪をかきあげて、燃えるような赤い瞳は真っ直ぐに前を見据えていた。

 勇者の一行は、そこだけ光を纏ったみたいにキラキラと輝いていて、まるで別世界の人達みたい。

 

 「ア、ラン......」


 呟いた私の声は皆の歓声にかき消されて。

 それでも、確かにアランがこちらを見た気がしたけど、私の周りにいた人々が熱狂して、すぐに姿は見えなくなった。

 「勇者と目が合っちゃった!」「いや、私を見てたわ」「かっこよかったよね」「聖女様とお似合いじゃない?」

 近くの女の子達がそう盛り上がっていて、こんな人混みの中で見つけられたわけないか、と思い直した。


 * * *


 「はぁ......疲れた」


 パレードが終わって放心していたら、私の心を映すかのように雨が降り出して、のろのろと宿に戻った。

 湯浴みをして寝る準備を整え、考える。王都に泊まるだけでも高くつくし、仕事も休ませてもらっているし、明日には村に帰ろうかな。

 嫌でも思い知らされる。以前とは何もかもが違って、アランは世界を救った勇者で、ただの村娘にはお目通りも叶わない。私が望むだけでは、アランと話すことすらできない。それでも......


 「会いたい」


 会って、ちゃんと話がしたい。移動中を狙って声をかけてみようか。下手したら捕まるかもしれないけど。そんな簡単に諦められる気持ちじゃないのよ。


 そのとき、トントン、と部屋の扉をノックする音がした。

 鍵をかけているとは言え、慣れない地で女一人。夜更けの訪問者に身をすくめたけれど......


 「スカーレット」


 懐かしい、愛おしい声がした。4年経っても、こんな一瞬で引き戻されるのか。


 「アラン......?!」


 どうして、とか本当に?という疑問や警戒心は一瞬ですっ飛んでしまって、扉を開ける。


 __アランだ。目の前に立つと、記憶よりも一回りがっしりしているけど、雨に濡れて、昔みたいに前髪を垂らして、あの赤い瞳で私を見ている。

 それから時間がしばらく止まっていたような気がする。夢か現実か、夢ならば確かめたくない。

 

 「......ただいま」

 

 静寂を破ったのはアランの低く掠れた声だった。


 「おかえりなさい......!」


 今、アランが目の前にいる。それだけで十分だ。思わず流れる涙を押さえながら言う。


 「アラン、びしょびしょじゃない。すぐに拭くものを......」


 途端、ぐっと手を引かれた。


 「......指輪は」

 「え?」


 左手を見ると、アランがくれた指輪がはまっていない。

 

 「あっ、湯浴みのときに外していたんだわ」

 「誰にも、触れさせていないか」

 

 そうして手に顔を寄せるものだから、なんだかドキドキしてしまう。こんな、こんな人だったかしら?


 「そんなわけないでしょう......」


 恥ずかしくなってアランから離れ、そそくさと指輪をはめる。

 

 「......えっと、アラン、座って、身体を拭いて。そうだ、温かいお茶を淹れるわ」


 ああもう、全部がぎこちない。これまでどんな風に話していたんだったっけ。

 

 「聞きたいことがいっぱいあるわ。冒険の話とか......」


 聖女様との関係とか。でもまだ確かめるのが怖くもあるけど......

 

 「あっでも、疲れているわよね。狭いんだけど、どうぞ、ベッドを使って」

 「スカーレット。大丈夫だ」


 宥めるような調子で言われて、空回りしている自分に、顔がかあっと熱くなる。


 「俺も、聞きたいことがたくさんある......けど、明日にしよう。君も村からの長旅で疲れているだろう。休んだほうがいい」


 あっという間にベッドに寝かされて、布団をかけられる。


 「夜遅く、邪魔して悪かった......おやすみ」

 「......おやすみなさい」


 何も、解決していないのだけど。こういうときのアランは頑固だから、私は目を閉じるしかない。

 ......って、寝られるわけないでしょう? 数分は経った気がするのに、ずっと視線を感じるんだもの。

 アランに抗議しようと目を開ける前に、左手をとられる感覚がして......指輪が外された。


 え......?


 はぁ、とため息をつく音がした。

 問いただすのも怖くなって、寝返りを打つふりでアランの方に背を向ける。


 どうして、と思い悩んで眠れなかった......はずなのに、身体は疲れていたようで、目を開けると朝日が昇っていた。左手を見ると、指輪はまた薬指にはまっている。

 昨日のことは夢だったのかしら......どこから?


 横に目をやると、アランがベッドにもたれかかるようにして眠っていて、ほっとする。

 アランの寝顔を見るのは初めてだ。なんだか、子どもみたいで可愛い。そーっと手を伸ばすと、アランが突然目を開けたものだから、私の方がびっくりして飛び跳ねる。


 「わっ、アラン、起きていたの?」

 

 アランはパチパチと瞬きをして、私を見ると眩しそうに目を細めた。

 

 「いや、野営の癖で......驚かせてすまない」

 「ううん、私のほうこそ......それに、床で寝かせてしまって、ごめんね、痛いでしょう」


 そう言ってアランの方にかがもうとしたら、アランは急に背を向けて直立不動の姿勢をとった。

 さすが、動きがとても俊敏になっているわ......!


 「......スカーレット、布団をかけていてくれるか」

 「え? うん......」


 そういえば、薄い寝巻き姿のままだった。アランがまたため息をつく。うわぁ、見苦しかったかしら。それに、寝癖も直していないわ、恥ずかしい。すごすごと布団を被る。

 アランは咳払いをして私に向き直った。


 「スカーレット、今日の予定は?」

 「ええと、特にないけれど」

 「俺は、今から少し用事があるんだが、午後から一緒に出かけられないか」

 「もちろん、大丈夫よ」


 それから、アランを見送って。

 

 「ふふ......」


 どうしても口元が緩んでしまう。色々はっきりさせるのは......もう少しだけ、後でもいいんじゃない? アランと一緒にいられることが、今は嬉しくてたまらない。


 * * *


 そわそわして約束の時間よりもずっと早く準備を終えてしまった。

 どうやって時間を潰そうか考えていたとき、窓からキラキラと紫色に光る蝶々が入ってきて、ふわりと私の前を舞った。そして何と、その蝶々から少年の声みたいな音が聞こえる。


 『勇者の恋人さん、こんにちは』


 「な、何これ......魔法?」

 

 本物の魔法なんて見たことがなかったけど、これが魔法じゃなかったら何なのかしら。


 『突然すみません。僕は勇者の仲間の、魔法使いの分身です。勇者の恋人さん、聖女が話したがっているので、ついてきてもらってもいいですか?』


 魔法使い様に聖女様?! 何が何やらわからない。それに、聖女様が私に話って......? 

 疑問と不安で居ても立っても居られなくなる。アランとの約束にはまだ時間があるから大丈夫だろうと思って、蝶々の後を追いかけた。

 不思議な蝶々は、宿屋から歩いてしばらくのカフェまで飛んで行って、テラス席に座っていた二人組のところでふっと消えた。

 

 「あれっ、勇者くんの恋人さん?」


 ぱっと顔を上げて話しかけてきた女の子は、つややかなブロンドの髪に宝石のような碧眼、華奢な身体に陶器みたいな肌......まるで物語のお姫様のような姿をしている。


 「聖女様......ですか?」

 「やだなー、そんな畏まらないで! ここ座ってください!」


 天使のような微笑みを向けられると、女の私でもドギマギしてしまう。

 私だってお気に入りのワンピースを着て、ポニーテールも上手くいったはずなのに。突然全てが垢抜けていないように感じて、居た堪れなくなってしまった。


 「何か頼みますか?」


 隣に座っていた子が私に問いかける。その声は先ほどの蝶々と同じ音色をしていた。


 「えっと、紅茶をお願いします......あの、もしかして魔法使い様?」


 きっと昨日のパレードにいらっしゃったはずだけど、アランのことしか見えていなかった私は、魔法使い様の外見に驚いてしまう。その姿は15歳くらいの美少年で、長老みたいなおじいさんという噂からは程遠い。


 「はい。ちなみに僕は30歳ですよ」


 魔法ってすごい。

 魔法使い様が私の紅茶を頼んでくれて、そういえば店員も周りの人達も全く騒いでいないことに疑念を抱く。ただでさえこんなに綺麗な人達が目立たないはずはないのに。


 「ああ、他人には僕達のことを認識できないように魔法をかけているんです。それから、女性の部屋を勝手に突き止めたことは、本当にすみません。僕はやめた方がいいって言ったんですよ......この人も、勇者も僕を便利に使いやがって......」

 「まあまあ、いいじゃないの」


 聖女様はポンポンと魔法使い様の肩を叩いた。


 「魔法使いくんってば、ゴブリンの王女様に一目惚れされたのち誘拐されちゃって、結婚式で誓いのキス寸前までいったんだよね。それを救った私達には恩があるんですよー!」

 「おい、やめろ......」

 「な、何ですかそのお話は......?!」


 聖女様は「囚われの魔法使いくん救出大作戦」をそれはそれはユーモラスに語ってくださって、トラウマで頭を痛めてしまった魔法使い様には申し訳ないけど、声を出して笑ってしまった。

 聖女様って、見た目は噂以上に可憐だけど、気さくで面白くて、本当に非の打ちどころがない方なのね。


 「ところで、聞きたかったことがあるんですけど......」


 聖女様が真面目な顔をして私に向き直った。


 「あの、今でも勇者くんのこと、好きなんですか......?」


 単刀直入に聞かれて、私は言葉に詰まってしまった。

 やっぱり聖女様はアランのことを? この短い時間でも私は聖女様の魅力を感じてしまって、もしも二人が惹かれ合っているなら、それは......お似合いなんじゃないかと思ってしまった。


 「......私はずっとアランのことが好きです。でも......」


 言い淀んだとき、後ろから耳馴染んだ声がした。


 「何でお前達がここにいるんだ?」

 「うわっ、勇者くん!」


 振り返るとアランがいて、約束の時間がもうすぐに迫っていたことに気づいた。

 聖女様がニコッと微笑んで尋ねる。


 「今の話聞いてた?」

 「聞いていないが......何だ、余計なことを吹き込んでいないだろうな」

 「まさかまさか、ねっ魔法使いくん」

 「僕はどうなっても知らないと言ったはずです」

 「つれないなー」

 

 すっかり打ち解けた雰囲気の会話を聞くと、なんだか身の置き所がないような気持ちになってしまう。

 アランがすっと私の隣に立った。


 「スカーレット、行こうか」

 「え、いいの......?」

 

 聖女様と魔法使い様の方を見やると、何やら議論が白熱しているみたいだ。


 「放っておけ。じゃあな」

 

 アランが銀貨を机に置いて、私をうながした。


 「わーい、ごちそうさまです!」

 

 立ち去るときに、聖女様が私にも手を振ってくれて、魔法使い様はぺこりと会釈された。


 * * *


 アランについて行きながら、私は上の空で何度か話を聞き返してしまった。アランもどこかそわそわしていて、会話が弾まない。


 __私はアランが好き。でも......アランに居場所ができて、私が足枷になるなら、手離してあげなくちゃいけない、とも思った。

 

 二人で話せるのは最後かもしれない......そんな予感を抱きながらアランに連れられたのは、王都が見渡せるような壮観の展望台だった。


 「わぁ、すごい......きっと私達の村はあのずっと向こうじゃない?」

 

 美しい景色に感動して、アランに笑いかけると、ぱっと目を逸らされた。やっぱり変だ。


 「......アラン、私に何か言いたいことがあるんじゃない?」


 今だってアランと一緒にいられてすごく嬉しくて、決定的な言葉を聞くのは怖い......でも先延ばしにしたって虚しくなるだけだ。そろそろ向き合わなきゃ。


 「君は本当に聡いな......いつも格好つかない」


 アランは少しためらって、息を吐いた。

 そして、懐から小さな箱を取り出す。


 「スカーレット、俺と......結婚してほしい」

 「......へ?」


 史上最大を更新するくらい、間抜けな声が漏れた。

 箱の中では、深みのある赤い宝石が留められた金色の指輪が煌々と輝いている。

 アランの顔も赤い。


 「えっと......?」

 「結婚式も挙げよう。スカーレットが望むことを全て叶える」

 「ちょ、ちょっと待って!」

 「......ああ、いくらでも待つ」


 真剣な眼差しに、何が何だかわからなくなる。

 

 「あの......違うの。もっと他に、別れようとか、言われるんじゃないかと思って」

 「は? なぜだ?」


 アランは信じられないといった様子で語気を強めた。


 「だって.....あなたは聖女様と恋に落ちたんだって、皆言ってるわ......」

 「まさか。何だその出鱈目は。あり得ない」


 アランは首をブンブンと横に振って言い切る。


 「......不安にさせてすまなかった。でも、俺の言葉を信じてくれ」


 懇願するようなアランの声に胸がぎゅっと痛む。

 ......わかっている。アランはいつも、私に真っすぐ向き合ってくれる。本当は、世間の噂のせいではない。これは、私の問題だ。


 「4年間、ずっと会いたかったのは俺だけか?」

 「......そんなわけないでしょう! 私だって会いたかった......! ずっと、寂しかった。不安だった。毎日、あなたが生きているか、怖くて怖くてたまらなかった」

 

 熱のこもったアランの視線が苦しくて顔を伏せる。


 「だけどアランは......私が生きていく小さな村よりも、もっと広い世界を知ったんでしょう? 私は釣り合わないのよ」

 「そんなことを言うな」

 

 アランの声が切羽詰まっているみたいで、心が揺らぎそうになるけど......私にはずっと、後ろめたさを感じていたことがある。


 「私はね、本当は自分のことばっかりで......アランが王国を救う勇者になったって、とても素晴らしくて、偉大なことなのに......昔からそうだったのよ。優しいアランのことを、皆に知られたくなくて、秘密にしていたの。勇者になんて、皆の英雄になんてならないでほしかった。私だけの特別でいてほしかったの。私ね、あなたが聖女様と恋に落ちませんようにって、魔王に願ってしまったのよ。待つことしかできない、何の役にも立てないのにね。私以外とはアランが幸せになりませんようにって......こんな醜い私は嫌いでしょ」

 

 __全部言ってしまった。これで終わりだ。

 長い沈黙が降りる。

 おそるおそる様子をうかがうと、アランは肩を震わせていた。


 「くくっ」

 「......笑ってるの?」


 こんな笑い方をするアランを見たことがないから、呆気にとられてしまう。


 「ふっ、すまない、ふふっ」

 「......何がおかしいのよ」

 

 咎めるような視線を向けるが、アランは笑みをこらえようともしない。


 「だって、俺のことが大好きだって言ってるみたいだ」


 ......言葉が出ない私をよそに、アランは顔をほころばせて続けた。


 「俺も同じだ。スカーレットだけでいい。世界が滅んでも、君を守れたらそれでいい」

 「......それは、勇者の発言として、不適切じゃないかしら......」

 「平穏が戻って、結婚式を挙げられるようになったら、スカーレットが喜ぶと思ったんだ」


 そう言うと、アランは表情を引き締めて、その視線が熱を帯びる。

 

 「俺だって、独占欲まみれだ。ずっと前から、スカーレットが俺の居場所で、君にとってもそうなればいいと望んでしまった。スカーレットが諦めさせてくれなかったんだ。会えない間、他の奴に奪われないか気が気じゃなかった。待っていろと指輪をはめて、君を縛れればいいと......そんな浅ましい思いさえあったんだ。全然綺麗じゃない......でも、誰かを愛するって、そういう面もあるんじゃないのか」


 アランの瞳が私を捕らえて離してくれない。そしたらもう、私もあなたを手離せなくなってしまう。

 嫉妬したり、独り占めしたいと願ったり......こんな私を認めてもいいのだろうか。


 「それに......スカーレットが待ってくれていたことが、どれほどの力になっていたか知らないだろう? 辛くて諦めそうになったときも、君が待っているんだと、俺には帰る場所があるんだと思って頑張れたんだ。必ず無事で帰ると約束したから」


 私もアランの支えになれていたの......?

 アランが私の両手をぎゅっと握って、そこから熱が伝わってくる。


 「4年も待たせてすまなかった。これからは一生傍にいたい......スカーレットだけ、ずっと愛してる」


 蕩けるような目で見つめられて、胸がとくんと鳴った。愛しさが込み上げてくる。私があなたを幸せにしたい。アランも私を望んでくれるなら、もう絶対に離したりしない。

 

 「......私も、アランのことがずっと大好き。愛してるわ」


 __どちらからともなく顔を寄せて、唇が触れ合う。幸せ......そう感じていると、腰に手を回されて、深く深く口づけられた。息ができなくてアランの胸を叩き、やっと解放される。


 「......なに、これ......」


 じわりと涙が浮かんだ目で、アランを()め付けた。でも上手く立てなくて、彼に寄りかかる体勢になってしまう。

 アランはまたため息をついた。


 「無理だ......可愛すぎる」

 「なっ」


 かっと顔がほてるのがわかる。

 

 「こんなの私が知ってるアランじゃないわっ! それに、そんなセリフ言わなかった!」

 「嫌か?」

 「い、嫌じゃない、けど......」


 またアランは柔らかくてずるい表情をした。


 「離れてやっと気づいたんだ。今まで、言葉にしなくても伝わっていたのは、スカーレットが俺の気持ちを察してくれていたからだって。俺の欲しいものを、いつもスカーレットがくれていた。これからは、俺も返したいんだ」


 そう言ってあの綺麗な指輪を取り出すと、私の左手をとる。薬指に通された指輪は、まるで私の一部だったかのようにしっくり馴染んだ。


 「ぴったりだわ」

 「......昨日の夜、こっそり測った」

 

 ああ、それで昨夜、昔くれた指輪を外していたのね。ほっとして、何だかいじらしい行動に愛おしさが増す。

 金色のリングに据えられた赤い宝石が、太陽に反射して一段ときらめいた。


 「本当に綺麗ね......アランの瞳みたい」

 「スカーレットの色だ」

   


 __『スカーレットってね、燃えるように鮮やかな赤い色という意味があるんだって。アランの瞳のような、とても綺麗な色。』



 「あ......覚えてたの」

 「あのとき、俺は自分を認められた」

 

 それなら、あの恥ずかしい告白をした甲斐があったかもしれない。


 「よかった......本当に嬉しいわ。アラン、ありがとう、大好き」


 頬が緩んだままアランに伝えると、ぎゅっと抱きしめられる。

 ......幾分長すぎじゃないだろうか。


 「そろそろ離してっ......」


 アランの香りに包まれて、心臓がバクバクしておさえきれない。


 「嫌だ、離したくない」

 「こっ、こんなところで頑固にならないで! あとっ、耳元で話すの禁止! 何だか変になる......」

 

 低くて少し掠れた声が、耳をくすぐるたびにおかしくなりそうだった。


 「いいことを聞いた」

 「もうっ、駄目だって」

 「可愛いな、スカーレット。大好きだ。久々に会ったら、ますます綺麗になっていて驚いた」


 この人、あの聖女様や魔法使い様みたいな美形に囲まれて、美的感覚が狂ったのかしら。絶対おかしい......そう思いつつも、口元が緩むのを抑えられない。


 「そんなの、私もアランがすごくかっこよくなって、ドキドキしてるのよ......あのね......こうして抱きしめてくれるの、本当はすごく嬉しい。前は、触れたいのは私だけなのかなって、寂しかったから」


 手を繋ぐのも、キスのお願いも私からだった。アランに求められることで、こんなに心が満たされるなんて知らなかった。

 アランは何度目かのため息をつく。


 「君は無防備すぎる。昨日だって、不用心に男の隣で寝て......」

 「なっ、あなたが部屋に来たくせに無茶言わないで! それに、アランなら大丈夫だもの」

 「もう、それくらいにしてくれ......大事にしたかったんだ。昔から、俺がどれだけ耐えていたか知らないだろう。我慢がきかなくなりそうで怖い」

 「......でも、もう我慢する必要はないでしょ?」


 そう言ったら、またすぐに唇を塞がれて。

 この後、自分の発言をちょっぴり後悔することになった。


  

 * * * * *



 後日談として、聖女様から便りが届いた。


 『この前は突然ごめんなさい! 無愛想な勇者くんの表情が、恋人の話になると和らぐので、どんな方か気になっていたんです。そして、もしもあなたの好きな人が他にいたら、勇者くんは世界を滅亡させるかもしれないと思っていたので、ちょっと心配でした。杞憂で本当によかったー!

 あの後、私と勇者くんの面白くない噂を知りました。それだけは()()()()()のでご安心ください。

 私はこれから魔法使いくんをオトす予定です!』


 それから、聖女様は宣言通り、魔法使い様に公開プロポーズ、電撃結婚を果たし、世間はその話題で持ちきりとなった。


 私はというと、村に帰ってきたアランと晴れて結婚式を挙げて......普通に、そして幸福に暮らしている。



 「じゃーん、今日はケーキを焼きました!」


 たっぷりのクリームと苺を使ったケーキを目の前にして、アランの瞳がキラキラ輝く。


 「今日は何か、特別な日だったか?」

 「ううん、でも苺をたくさんもらったから。アランが喜ぶと思って」


 美味い、と言って頬を緩めながら食べてくれると、作った甲斐があるというものだ。うーん、我ながら上出来!

 

 食べ終わるとアランが顔を近づけてきたから、あ、キスされる......と思って目を閉じると。


 「クリームが付いてた......甘いな」


  アランはぺろりと口の端を舐めてにやっとした。


 「いじわる......!」

 「うん?」

 

 からかうように聞き返してくるアランは、何だかとってもずるい。

 

 「わかってるくせに......キス、して?」


 アランがふふっと笑って唇を重ねてくると、甘い甘い味が広がった。



 __今度こそ、これが幸せな結末。

 

 


読んでくださってありがとうございました!


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