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猫あるある

犯人はお前か!?

作者: やしろ
掲載日:2026/03/11

お読みいただいてありがとうございます。

 猫という生き物はとても賢い。


 なにせ教えれば人間用のトイレを使えるようになる子もいるんだ。


 まあ、人間のトイレは人間のためのものですから、猫に使わせようと思ったこともないけど。


 人間と一緒に暮らすことで、トイレが人間が排泄を行う場所であることを理解でき、更にそこは自分にも排泄が出来る場所であることも理解できる。それくらいに賢い。


 拙宅には黒猫がいる。


 これが、賢い。


 自分の名前は理解しているし、喋りかければ内容も理解出来ている。


 おやつと言えば飛んでくるし、ご飯と言えば所定のお皿の前で行儀よく待っている。


 が、大概注意事項は守られない。


 それどころか分かっていてやっている節がある。


 偶には掃除でもするかと、破れた障子を張り替えたとする。


 破っちゃダメと注意した五分後には、もう障子めがけてダッシュして縦框に爪をかけて登り、横組子と縦組子に仕切られた紙の面を引っ掻き、空いた穴から顔を突っ込んで穴を開けられる。酷い。


 それだけじゃない。


 私にも仕事がある。


 私の仕事は在宅のデスクワーク中心で、日がな一日パソコンと向かい合ってするもの。


 仕事を開始する前、猫には「仕事をするから」と言い聞かせる。


 最初の三十分程度は大人しくソファーや私のベッドで寝転がっているけれど、飽きてきたらわざとパソコンの前、キーボードの傍に寝転ぶんだ。


 寝転ぶだけならまだいい。


 マウスに猫パンチを食らわせることもあるし、キーボードを踏んでおかしな文字列を作ることなんかはザラ。


 人の腕を抱え込んで動かせなくしつつ、そこで昼寝をするなんて営業妨害まで。オマケにへそ天で寝てくれるから、触りたくなって気が気じゃない。


 これで何度締め切りを落としそうになったか。


 猫、なんて恐ろしい子……!?


 少女漫画風の白目に何度なったやら。


 話が逸れた。


 前提条件として、猫はとても賢い。


 必要な情報はとりあえずこれだけだ。


 で。


 拙宅の猫には、困った癖がある。


 もっとも困っているのは人間だけで、本人、否、本猫は全く困っていない。寧ろ困っているこっちに、困っているまである。


 お土産だ。


 お土産というのは、猫の本能に根差した行動で、何処からか狩ってきた虫やネズミ、トカゲ、大きいものだと鳥や蛇なんかを、飼い主に持ってくること指す。


 理由としては、狩りの成果を褒めてほしいという可愛らしいものから、デカい図体のわりに察しが悪いトンチキ同居人に狩りの方法を教えてやろうというもの、他にも様々ある。


 これは叱ってはいけない。


 叱るのはいつでも現行犯でないといけないから。


 狩りを叱るにしても、持って帰るまでの時間がある以上現行犯にはならない。


 猫には何が悪くて叱られているか分からないから、それはストレスになるだけだ。


 とはいえ、持って帰られるこっちも、物によってはとんでもないストレスになる。


 いくら自分の飼い猫が可愛かろうとも、比喩でなく本当に皮一枚で頭部と胴体が辛うじて繋がっているだけのネズミを玄関に置かれた日には……!


 引きちぎって間もないのか、ビチビチ動くトカゲのしっぽなんかも、地味に精神にくる。


 因みに、拙宅の猫は基本室内飼育だ。


 猫は、しまえ。


 夏も冬も秋も春も、猫は室内で丸くなるのが良い。


 何故かって言うと、まず室内の方が安全だから。


 交通事故もなければ、他所の猫との縄張り争いで怪我をすることもない。


 他所の猫と接触しないから、感染症などの病気にもなりにくい。


 外に出ないんだから迷子もなければご近所トラブルも防げるし、他者から通り魔的に虐待されることもない。


 運動不足が心配?


 なんのために人間に二本の腕があると思っているんだ。両手におもちゃを装備して、猫と遊べばいい。


 そうでなくても最近のおもちゃは、猫が運動不足にならないように自動で動いてくれるものもある。


 水が張ってあるバスタブに落ちたら? 電気コードを噛んでしまったら?


 馬鹿なことを。


 そんな物は赤ん坊と暮らすと思って、人間が徹底的に管理すればいいだけだ。


 室内飼いにはメリットがありこそすれ、デメリットなど何もない。


 私は断固完全室内飼育派なのだ。


 ……が。


 まあ、迂闊な人間である。


 どうも偶に窓や玄関の鍵を閉め忘れる、らしい。


 らしい、というのは、私自身は閉めて出かけているつもりだから。


 だって出かける前の鍵チェックは、三度は必ずやるし、指差し確認だってやっている。


 にも拘わらず、拙宅の猫は外からお土産を持って帰ってくる。


 そんなときは掃き出し口が開いてたり、ベランダが開いてたりするから、やっぱり締め忘れたんだろう。


 ……と、思うじゃん?


 流石にそういうことが何度も続くと、疑わしくなるのが人の常で。


 ある日、私は秘密兵器を導入することに決めた。


 ペットカメラだ。


 ペットカメラというのは、留守中のペットの様子を外出先でも見守ることが出来るカメラのこと。


 結構な優れモノで、ズーム機能もあれば、呼びかけ機能もあるし、何よりスマホからリアルタイムで留守宅の様子が見られるのだ。


 ホームセンターで購入したそれを、普段拙宅の猫が過ごしているリビングに設置しておく。


 拙宅の猫はごりょんさんというのだけれど、彼女は日当たりのいいリビングのソファーがお気に入りの居場所で、次に私の部屋のベッドが好きらしい。


 ペットカメラはそのソファーと掃き出しがよく見える位置に置いてみた。


 試しに使ってみよう。


 そういう思い付きで、私はペットカメラの電源を入れると、ソファーでくつろぐごりょんさんに話しかけた。




「ごりょんさん、私、ちょっと本屋に行って来るから」


「んにゃー」


「お外、出ちゃダメだからね……?」


「ぬぅん」




 相変わらず返事の声は可愛いけれど、「外に出ちゃダメ」には非常に不服そうだったのは気のせいだろうか?


 いつものように窓やベランダの鍵を三度確認、うち一回は指差しで。


 そういう風にして、玄関を出る。勿論玄関の鍵も施錠の確認を確実にして。


 拙宅のある町は、よく言えば閑静、悪く言えば中途半端な都会。


 住宅街にはコンビニかスーパーかドラッグストアくらいしかないけれど、駅前まで行けば服屋もあれば大型書店もあるし、ファストフード店だってある。


 電動のママチャリに乗れば、家から十分ほどで本屋に到着。


 本日のお目当ては建築雑誌だ。


 この建築雑誌、歴史的な建物の建築された経緯、建築時のその国の情勢、文化、取り巻く国際環境、政治的背景などを含めた歴史から、その建物に纏わる面白エピソード、更に建築に使われている材料や工法、建物の部位の名称まで事細かに網羅されているもので、資料的価値が雑誌としてのお値段を遥かに上回るお買い得雑誌なのだ。


 雑誌を購入して、本屋に併設されているカフェに入る。


 このカフェは本屋で一冊本を買うと、そのレシートを提示することで割引が受けられる。実に素敵なサービスだと思うし、割引されたキャラメルマキアートは普段よりちょっとお得感がプラスされる分だけ美味しい。


 窓辺にある一人用ソファータイプの席に掛けると、ふっとごりょんさんのことが気になった。


 何となく、嫌な予感というか、お約束の予感というか。


 心を落ち着かせるためにキャラメルマキアートを一口、結構熱い。


 火傷するほどじゃないし、心は一応落ち着いた。


 そのままサコッシュからスマホを出して、ペットカメラ専用アプリを起動すると画面には家のリビングが映る。


 丁度画面中央のソファーでごりょんさんが伸びをしていた。


 猫が伸びをするときの姿勢の一種で、背中を弓のように丸めて前後の足を大きく伸ばす動作は、ネットでは広くボニャールの名前で知られている。


 このボニャールは、同ポーズを描いた「白い猫」という絵画の作者のピエール・ボナールとにゃんこを掛け合わせて作られた造語だ。


 絵のにゃんこ、とっても足が長くて可愛い。


 同じポーズのごりょんさんも、足が長くてとてもスタイルがいいのだ。


 


「あら、可愛い」




 ついつい頬が緩む。


 伸びているだけでなくあくびもしているので、可愛いが大渋滞だ。


 和む。


 猫という生き物は偉大だ。存在するだけで、こんなにも人間を癒してくれるのだから。


 画面を見つつ、またキャラメルマキアートを飲む。


 ゆったりと穏やかな時間が、カフェにも、スマホの液晶の向こう、ごりょんさんがいるリビングにも漂っていた。


 と。


 ごりょんさんがふっと、ソファーから立ち上がった。


 そして顔を左右に振る。


 まるで何か……人の気配を伺うような仕草に、胸に何か言い知れないものを感じて。


 画面の向こうにこちらの息遣いなど伝わるはずもないのに、何故か息を詰める。


 密やかに見守っていると、ごりょんさんがソファーを下りて掃き出し窓へと近づいて行った。


 何事だろう?


 何故かテーブルに突っ伏して姿を隠すようにしつつ、スマホを見つめる。


 ズーム機能を使って掃き出し窓付近にいるごりょんさんを大写しにすると、お鼻がぴくぴく動くのまで視えた。可愛い、最高。お髭もなんだかぴんぴんだ。


 ペットカメラの働きに感心していると、事態が動く。


 ごりょんさんはてちてちと足音もないまま、掃き出し窓まで近づくと突然立ち上がったのだ。見事な二足歩行に「わぁ、あんよがお上手ぅ」とついつい拍手をしてしまった。


 違う違う、そうじゃ、そうじゃなぁい。


 ぎょっとしつつスマホの画面を見ていると、更に驚くことに彼女の前脚がなんと掃き出し窓の鍵にかかっていたのだ。




「ごりょんさーん!?」


『ごりょんさーん!?』




 ビクッと身体が跳ねたと同時に猫の尻尾が画面越しでも分かるほどに膨らむ。


 こちらからは一拍遅れくらいで聞こえた私の声に、一瞬たじろいだごりょんさんは、しかし凄く賢い猫だった。


 きょろきょろと辺りを見回し、私の姿がない上に、声はペットカメラから聞こえたことを一瞬で把握したようで。


 鍵が開いた掃き出し窓の端をちょいちょいと前脚で叩いて、その衝撃で僅かに出来た隙間に身体を滑り込ませて外に出ていってしまったのだ。


 出ていく瞬間振り返って、「どや!」とでも言いたげな得意そうな顔が可愛いけど腹立たしい。


 やられた!


 犯人はお前か……!


 そりゃ、カギ閉めても無理じゃん。


 抜け出したのを現行犯で確認した以上、探しにいかねばならない。


 とはいえ、このままでおくべきか。


 幸いなことにこの駅前の本屋は百円ショップの上にあるわけで。


 窓ロック買って帰ろう。


 あの子は賢い子だから、私が急いで自転車を全速力で漕いで帰ってくることくらいはきっとお見通しだ。


 私が帰った頃には家にいるだろう。


 キャラメルマキアートを急いで飲み干して、コップを片付けると、私は階下の百円ショップへと急いだ。


 そして全力で自転車を漕ぐこと六分。


 自宅に帰ってみると、玄関にちょんっと三角お耳のシルエットがあって。




「ごりょんさん?」


「なぉん?」


「お出かけはダメですって言ったよね?」


「のぉん」




 そっと目を逸らしてる辺り、絶対に言われていることは理解しているだろうに。


 ごりょんさんが上目遣いで「お家に入れて?」というかのように、ちょいちょいと玄関を前脚で突く。


 小憎らしいくらい可愛い姿に、敗北感が湧いてくる。この可愛さに勝てる人間などおらんのだ。


 それにそもそも猫を家に連れ戻すための帰って来たのだから、文句はない。


 ごりょんさんのしなやかな身体を抱き上げると、きちんと閉まっている家の鍵を開錠して中へ。


 ごりょんさんの足を拭かなければ。


 それ以前に、ごりょんさんが開けた掃き出し窓を締めなければいけない。


 猫を抱きかかえたままで、リビングに向かう。そして見事にほんの少し、猫の通れる分だけ開いていた窓を閉じた。


 ごりょんさんの足は綺麗な物で、特に泥汚れなどはなく。


 ペット専用のウエットティッシュで丁寧に拭うと、物凄く嫌そうな顔をする。




「ぃにゃーん!」


「お外出るからでしょ!」


「ぬーん」




 何が、ぬーんだ。


 ぃにゃーんはこっちのセリフだ、この猫め!


 オマケにちょっと肉球を強めに揉んでおいてやると、嫌がって逃げようとする。


 それを軽く受け流しつつ、リビングの隅にあるケージへとごりょんさんにはお入りいただく。


 嫌がらないのは、私がむすっとしているからだろう。この子はそういう機微には敏い。


 ごりょんさんをケージに閉じ込めている間に、百円ショップで買って来たウインドロックを二階の私の部屋から順に取り付けていく。


 リビングの掃き出し窓にも付けたので、とりあえずこれで安心だろう。


 そう思ってケージからごりょんさんを出すと、閉じ込められたことに機嫌を損ねたのか、尻尾で何度か床を不機嫌そうに叩いて二階に上がってしまった。


 いや、怒りたいのはこっちですが……?


 理不尽なごりょんさんの態度に釈然としないものの、猫とはそういう生き物なので。


 読みかけになってしまった雑誌を拡げようと、ごりょんさんが使っていたソファーに腰かける。


 ふと窓の外を見ると、そう言えば洗濯物を干したままだと気付く。


 時刻はおやつの時間を過ぎた頃、朝干した洗濯物もそろそろ乾いている頃合いだ。


 取り込むためにロックを外して、掃き出し窓から庭に出る。


 物干し竿にはバスタオルと服が数枚かかっていた。下着類は防犯のために部屋干しにしている。


 取り込んで部屋の中に放り込んでいると、俄に暗くなった。


 曇ったわけでなく、何か大きな物が空を横切っているような……。


 飛行機かと思って見上げると、トカゲがいた。


 尻尾が千切れた、大きなトカゲが。


 キシャーっと大きく吼えると、鉤爪の足がこちらを狙って降下してくる。


 が、私の手には物干し竿が握られているわけで。




「よっ、と」




 投擲。


 そして空からフシャーッという、聞きなれた威嚇が聞こえる。


 見上げれば、トカゲの胸には物干し竿が刺さっていた。そりゃ投擲したからそうだろう。


 けれどそのトカゲの首に、ごりょんさんが噛みついてることはちょっと理解が出来ない。


 どういうことよ?


 考える前にトカゲと共に落ちてくるごりょんさんを受け止めるべく身体が動く。


 しかし、落ちて来たの羽付トカゲだけで、ごりょんさんはその四つの肉球の下に、五芒星の魔法陣をくっ付けて滞空中ではありませんか。


 下を伺うごりょんさんと目が合う。


 するとごりょんさんはそっとそのまま二階のベランダの方に戻って行った。空中を歩いて。


 それからベランダに辿り着くと、そこから中に入ったようで、ぴしゃりと窓が閉まる音がした。




「……ごりょんさぁぁぁぁぁんっ!?」




 本日二度目の絶叫は、どうも三軒隣りあたりまで楽勝で聞こえたそうな。




 後日、定例で冒険者協会の人に空飛ぶトカゲを引き取ってもらったけれど、このトカゲ、以前に尻尾だけ売ったのやつの本体だったらしい。


 協会の職員さんの魔術鑑定で判明した。


 そしてそれを売り払ったお金で、最新式の魔術鍵付きのウインドロックをホームセンターで買ったのだけど、五日で破られて涙目になるとは思いもしなかった……。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
黒猫さんは賢いと言いますから、これくらいは朝飯前なのかもしれませんね。 ちなみに、昔飼っていた猫が、お土産にスルメを持ち帰って来た事がありました。 あれ、どうしたかなー。
さすがのごりょんさん!! 予想をはるかに越えて行く・・・ ラノベ作家ではたちうちできない? お猫様というものは、魔法を使えるないしは他者の魔術を打ち破る能力を隠し持っているのでしょうか? 頑張れ、「私…
短編続編ありがとうございます。 ラノベ作家凄い。(笑) ごりょんさん凄い。(笑)
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