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異世界配達は心の中まで!~凸凹コンビが、笑いと涙で想いを届けます~  作者: ふみきり


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第2話 乗車拒否はしません(ドアが噛んでるので)――後編――

 半開きの扉の向こうで、世界が形を取り始める。

 石畳の通り、並ぶ屋台、夕焼けの空。

 その真ん中で、制服姿の少女がしゃがみ込み、両手で頭を抱えていた。


「ここ、街の広場か?」


 ルイは眉を上げる。


「うん。たぶん放課後の記憶だね」


 ミナは頷いた。


 霊体馬が蹄を鳴らし、馬車は静かに停止する。


「降りるか?」

「ううん、ここはまだ記憶の外側。降りずに見守るほうが安全だよ」


 ルイは扉を確認する。

 外では少女がまだ扉を押していた。


「本人は乗ってないけど、扉に触れてる限り、心はつながってる。つまり乗車中と同じ扱いだな」

「うん。だからこのままで大丈夫」


 少女は小さく震えている。


「……また来た。何度も何度も、思い出したくないのに」


 ルイは息を吐いた。


「自動呼び出しだからな。定期券に文句言ってくれ」

「ルイ!」


 ミナが肘でつつく。


「もうちょっと優しく!」

「優しさはオプション料金なんだ」

「払うから! 分割で!」

「支払う前提なんだ……」


 ミナは舌を出して誤魔化した。


「前向きがガイドの基本だから!」


 少女が顔を上げた。


「……放っといて。もう、思い出したくない」


 ミナは声を柔らかくして言う。


「大丈夫。無理やり何かさせたりしないから。私たち、ただ“道を見届ける”だけ」

「……道?」

「うん。心の道。閉じっぱなしだと、痛いでしょ?」


 少女は少しだけ顔を上げた。


「……痛い、けど」

「でも放っとくと、ずっと噛んだままだよ。ほら、ドアもそうだったでしょ?」


 少女の唇がかすかに笑った。


「……それ、うまいこと言ったつもりですか」

「うん、ちょっと自信ある」


 ルイは口の端を上げた。


「ま、及第点だな」

「辛口採点やめて!」


 少女が小さく吹き出した。

 その笑いに合わせて、周囲の空気が柔らかく変わる。

 夕焼けが少し明るくなり、屋台の灯が一つ灯った。


「少し進んだな」


 ルイは低く言う。


「記憶、動き始めてる」

「じゃあ、この場面はきっと――」


 ミナが指さす。


 広場の中央。少年が一人、花束を持って立っている。

 顔は光に包まれて見えないが、雰囲気は伝わる。

 待っている。――少女を。


「……来ちゃった」


 少女がつぶやく。


「本当は、行くつもりなかった。でも足が勝手に……」

「恋って、そういうもんだよ」


 ミナが笑った。


「で、どうしたんだ?」


 ルイが視線を送る。


「何も言えなかった。背を向けて、走って逃げた。それっきり」


 風が止まり、音も消える。

 屋台の灯がひとつ、またひとつ消えた。


「危険度、黄からオレンジ」


 ルイは指針を見た。


「まだ大丈夫。行ける」


 ミナが立ち上がる。


「ねえ。もし、もう一度チャンスがあったら、何て言いたい?」

「……“ありがとう”。それだけ」

「じゃあ、言ってみよう」

「え……」

「今ここで、言って。過去じゃなく、今の自分の声で」


 少女は唇を噛んだが、ほんの少しだけ目を閉じた。


「――ありがとう」


 その瞬間、広場の灯が一斉に輝く。

 花束を持った少年が笑い、光になって消えた。

 計器の針が青域に戻る。


 ミナは小さく拍手した。


「完璧。もうドア、噛んでないね」

「ほんとに?」


 少女が首をかしげる。


「試してみる?」


 ルイが促す。


「え?」

「閉めてみな。今度は痛くないはずだ」


 少女はうなずき、扉に手をかけた。


 ――カチン。小さな手応えのあと、扉は柔らかく開いた。


「おお、開閉スムーズ」


 ルイは満足げに頷く。


「修理完了って感じだね!」


 ミナが笑う。


 少女は馬車に目を向けた。


「……ありがとう。本当に」

「こちらこそ」


 ミナが微笑む。


「これで、次に行けるね」


 少女が笑う。

 手のひらに小さな光の欠片――支払い用の“未練トークン”が浮かび、風に乗って消えた。


   ★   ★   ★   ★


 現実の厩舎。

 ルイは御者台で伸びをした。


「ふう、今回も無事帰還」

「やったね。乗車拒否、ゼロ記録継続!」


 ミナが笑う。


「いや、あの子最後まで乗ってなかったけどな」

「心は乗ってたの!」

「強引なカウントだな」

「でも結果オーライでしょ?」

「……まあ、確かに」


 そこへ主任が顔を出した。


「おかえり。……で、定期券、また光ってるけど?」

「うそ」


 ミナが胸ポケットを見る。

 定期券が、またピッと光った。


「早すぎない!?」

「未送達の呼び出し間隔、短くなってるな」


 ルイは眉をひそめる。


「つまり、次が近いってことね!」


 ミナがぐっと拳を握る。


「おい、楽しそうに言うなよ」

「だって次も導く番、私でしょ?」

「そうだな。……じゃ、俺はまた運転担当だ」


 厩舎の奥で霊体馬が鼻を鳴らした。

 風が通り抜け、定期券が淡く光る。


 新しい記憶の呼び声が、遠くでチリンと鳴った。

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