第20話 心の中までお迎えにあがります
その日も、厩舎には朝の光が差し込んでいた。
ルイは点検表を見ながら呟く。
「……今日も、異常なし」
「よし、じゃあ次の便――」
ミナが言いかけたとき、定期券がピッと鳴った。
「うわ、きた!」
「このタイミングでか」
光はいつもより淡い水色。
札の縁に〈未来指定〉の文字が浮かぶ。
ルイが目を細めた。
「また未来便か。締めにふさわしいな」
「え、なにそれ。最終話みたいな言い方!」
「実際、節目だろ」
ミナが定期券を覗き込む。
宛名欄に、二つの名前があった。
〈運転士:ルイ〉
〈ガイド:ミナ〉
「……私たち?」
「未来の俺たち、だな」
ルイは少しだけ笑った。
「未来の依頼主が、俺たちに“回収”を頼んできた」
「つまり、未来の自分からの依頼……ってこと?」
「そういうことになる」
ミナは胸ポケットを押さえる。
「ねえ、なんか変な感じ。だって未来の私って、どんな私なんだろう」
「少なくとも、今より落ち着いててほしいな」
「失礼!」
ルイたちの掛け合いをよそに、札がふわりと光を放った。
ルイは札を差し込み、扉を開く。
――風の匂い。
見慣れた街路、そして懐かしい空。
けれど、どこか違う。時間の流れが穏やかで、すべてが少しだけやさしい。
霊体馬が一歩進むと、空気がゆっくり揺れた。
その先に、小さな木箱が置かれている。
「また箱?」
「最後の配達だな」
ミナがしゃがみ込み、封を開けた。
中には一枚のカードと、小さな鍵。
カードには短い一文が記されていた。
〈“心の中まで”――お前たちの言葉、ちゃんと届いた〉
ミナが息をのむ。
「これ……」
「未来の俺たちが送ったんだ。たぶん“今”へのお礼だ」
「お礼便……!」
ルイは鍵を手に取り、朝の光にかざす。
金属の表面に、二人の名前が小さく刻まれていた。
「未来の俺たちが残した“証”だな」
「なんか、泣きそう……」
ミナが笑う。
「でも、こういうの、いいね。届けるだけじゃなくて、ちゃんと返ってくるの」
「配達は、往復で完成するからな」
「うわ、名言きた!」
「書くなよ、報告書に」
「書きます!」
ルイは苦笑し、鍵を懐にしまう。
「未来便、回収完了」
霊体馬が軽く嘶き、扉の縁が光を帯びた。
朝の風が吹き抜け、二人の髪を揺らす。
「ルイ」
「ん?」
「これからも、ちゃんと“心の中まで”届けようね」
「それが俺たちの仕事だ」
ルイは手綱を握る。
ミナが助手席で手を振る。
「じゃあ――次の依頼へ」
「了解。召喚タク、出発」
霊体馬が動き出す。
車輪が光を弾き、扉の先に新しい道が開いた。
塔の上の鐘が、やわらかく鳴る。
――今日も、心の中までお迎えにあがります。
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これからもきっと、ルイとミナが“誰かの想い”を届けに行きます。
それでは、また次の便で!




