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異世界配達は心の中まで!~凸凹コンビが、笑いと涙で想いを届けます~  作者: ふみきり


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第2話 乗車拒否はしません(ドアが噛んでるので)――前編――

 朝の厩舎は、やけに静かだった。

 霊体馬のたてがみが光をはじき、古い木壁に青い線の影を落とす。

 ルイは御者台で手綱を確認しながら、深呼吸をした。


「今日も異常なし。……たぶん」


 独りごちた瞬間、背後からピッ!という音。


「ルイ! また光った!」


 ミナが厩舎の奥から飛び出してきた。胸ポケットの定期券が、見事に点滅中だ。


「……これが、昨日主任の言ってた“もう決まってる依頼”か。早いな。昨日の客、送り届けたばっかりだぞ」

「“自動呼び出し”ってやつでしょ? つまり新しい未送達!」


 ミナの目がきらきら輝く。


「人気運転士ってこと、じゃない?」

「いや、それ俺じゃなくて定期券が有能なだけだろ」

「ともかく、出発だね!」

「おう、朝勤(朝の担当便)行くぞ」


 ルイは軽く手綱を引いた。

 霊体馬は鼻を鳴らし、馬車は淡い光をまとって滑り出す。


 ――そのとき。


 半開きの再送扉がギギギッと鳴り、外からドン!と衝撃。


「なに?」


 ミナがのぞきこむ。

 ドアの隙間から、誰かの声が飛び込んできた。


「ちょ、ちょっと! 開けないでください! 乗りたくないですってば!」

「……え?」


 二人の声がハモった。


「おい、断られたぞ。俺もついに、初の乗車拒否か?」

「縁起でもないこと言わないで!」


 ミナは慌てて扉を押さえる。

 向こう側では、ドンドンと叩く音。


「マジで乗りたくない人っぽいね……」

「困ったな。ルール上、扉を半開きにしてないと帰れないんだ」

「え、じゃあ閉まったら?」

「ルートごと消える」

「怖っ!」

「だから今、閉めようとしてるあの子がいちばん危ない」


 ドン!ドン!

 外からの音が強くなる。


「やめてください! 本当に帰って!」

「うわっ、押してる押してる!」


 ミナは扉に体を預け、必死に踏ん張る。

 扉は半開きのまま固定。外は閉めたい、内は開きたい――噛みだ。


「……これが“噛んでる”状態か」


 ルイは苦笑する。


「内と外で押し合って、どっちも動けない。厄介だな」

「もう、変な例えやめて!」


 ミナは力いっぱい押しながら言った。


「このままじゃ膠着状態だよ!」

「だな。外から閉めたい人と、中で開けたい俺たちで綱引き中」

「どうするの?」

「どうしようもない。開けたまま保つしかない」

「霊体馬が早く“進め”って顔してるよ!」

「空気読め、馬!」


 ルイはぼやいた。霊体馬は知らん顔で鼻を鳴らす。


 ドアの向こうで声が震えた。


「お願い、放っておいて……」


 ミナが困ったようにルイを見た。


「どうする?」

「とりあえず、自己紹介だ。名前を名乗って、安心させるのが基本」

「なるほど。じゃあ私から!」


 ミナは明るく声を張った。


「こんにちはー! 記憶再送課のミナでーす! 今からちょっとお話だけ――」

「帰れぇぇ!」


 ドンッ。ドアが大きく揺れ、ミナがのけぞる。

 ルイは吹き出した。


「いい反応だな。営業成績ゼロ」

「うるさい! 今のは練習だから!」

「何の?」

「声の通り具合の確認!」

「つまり空振り確認か」

「違うってば!」


 ドアの隙間から、少女の顔が一瞬のぞく。

 歳は十六くらい、制服姿。頬は赤い。

 目が合うなり、「……無理です!」と叫んで消えた。


 ミナは小声でつぶやいた。


「あの反応……恋か未練のどっちかだね」

「まあ、うちの仕事、だいたいその二択だ」

「どうして呼ばれたんだろ」

「呼んだのは彼女じゃない。お前の定期券が勝手に拾ったんだ」

「つまり、心の中では呼んでたってことだね」

「ポジティブだな」

「前向きがガイドの基本だから!」


 ルイはため息をつき、軽く手綱をあおった。


「とりあえず、押し合いっこを続けても埒が明かない。少しだけ進んでみるか」

「了解!」


 ミナは体重を移し、扉を押さえたまま頷く。

 霊体馬がいななき、車体が光を帯びた。


 ――ドアが動かないまま、世界のほうが滑ってくる。


 半開きの向こうに、街角の風景が滲んだ。

 どうやら、記憶世界への接続が始まったようだ。


「ちょ、ちょっと待って! 本当に乗りたくないのに!」


 少女の声が遠ざかる。

 ルイは肩をすくめた。


「やれやれ、今日も元気な朝だ」

「乗車拒否ゼロ記録、目指さなきゃね!」


 ミナが笑う。


 ――馬車が光の道へ進む。


 記憶再送便、二件目。

 相手は、恋を拒んだ少女――らしい。

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