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異世界配達は心の中まで!~凸凹コンビが、笑いと涙で想いを届けます~  作者: ふみきり


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第11話 未来便と小さな鍵――前編――

 厩舎の机に置いた配車札が、見慣れない色で光っていた。

 淡い水色の光が縁を縫い、その端には〈未来指定〉と小さく刻まれている。


 ルイは片眉を上げ、札を指で弾いた。

 反応は確かにあるのに、宛名欄だけが空白のままだ。


「……宛先なし?」


 背後からミナがのぞき込み、胸ポケットの定期券を押さえた。

 今日はいつもより静かだ。


「ねえ、それって珍しいやつじゃない?」

「珍しいというより、厄介な部類だな」


 主任があくび混じりに顔を上げた。


「未来便だ。“まだ起きていない未送達”を先回りで拾う。トラブルが多い」

「わ、面白そう!」

「そういうときだけ元気出すな」


 札の備考には一行が書かれていた。


 〈鍵を渡すこと――受取人は“ガイド”〉


 ルイは短く息をついた。


「ガイド指名、か」

「私? それとも“ガイドという職種の誰か”?」

「行けば分かる。三原則、確認」


 ミナが指を三本立てて言った。


「一、帰り道を残す。二、扉から離れない。三、核心を急がない!」

「よし、出るぞ」


 配車札を差し込むと、空気がパチンと変わり、厩舎の扉が石造りの通路へとつながった。

 そこは地底の駅のような場所だった。小さなプラットホームの奥に古びたベンチが並んでいる。人の姿はない。


 霊体馬が鼻を鳴らし、馬車はホームの縁で止まった。

 壁の掲示板がひとりでにめくれ、時刻表の文字列が淡く光る。


「無人駅?」


 ミナが身を乗り出した。ルイは手綱を軽く締め、扉を半開きのまま固定した。


 ホームの柱のそばに小包の影があった。

 近づくにつれ輪郭がはっきりしていく。手のひらほどの木箱で、封印の刻印には〈受取人:ガイド〉と彫られている。


 ルイは慎重に持ち上げた。箱の中では何かがかすかに揺れている。

 封を開けると、古びた真鍮の鍵がひとつ入っていた。小さなタグがぶら下がっている。


 『Mへ これを“未来のあなた”に渡して』


 ミナが目を見開いた。

 ルイは黙ってタグを見せた。


「“M”……私のこと?」

「ほかに心当たりはないな」


 ホームの奥で風が吹き抜け、ベンチの上に紙片が舞い落ちた。

 それは招待状の形をしていて、印字された一行が目に入る。


 〈発車まで九分。鍵の受け渡しが遅れると便は欠行〉


「時間、少ないね」

「未来案件はたいてい急かしてくる」


 ルイは鍵を指先で回し、刻みを確かめた。

 これは合鍵ではなく、どこか特定の扉専用の鍵らしい。


「受け渡し相手は?」


 ミナがあたりを見回したが、誰の姿も見えない。


 時刻表の中で、一か所だけ光が強まった。発着番線“ゼロ”。

 あり得ない番号だ。だが扉の縁がそこへ向けて細く光っている。


「ゼロ番線……見えないホーム?」

「足元が悪いぞ。離れるな」


 霊体馬が一歩進むと、車体の光がホームの床を照らし、見えない線路の影が浮かび上がった。

 ルイはミナの肘を軽くつつき、扉ぎりぎりの位置に立たせた。


 風が吹き、ホームの端に制服姿の少女が現れた。

 胸元のガイド証だけが光っている。輪郭は薄い。未来の影だ。


 ミナは息をのんだ。

 鍵を両手で包み、扉の境界へ差し出す。指先が光に触れ、糸のような輝きが鍵に絡みつく。相手の胸元へ伸びていった。


 しかし、すぐに弾かれた。

 ルイは車体の角度を調整し、光の向きを合わせる。

 ミナの手がわずかに震えている。


「緊張してるのか?」

「“自分宛て”に渡すのは初めてで」

「なら、手順どおりにやれ。手順は裏切らない」


 ミナは頷き、息を整えた。

 そして、いつものように短く唱えた。


「再送ガイド、受け渡し開始。受取人、未来指定。目的、鍵の引き継ぎ。――お願いします」


 言葉に合わせて糸が再び伸びる。

 少女の影が首を傾げ、胸元の証がわずかに光った。

 今度は跳ね返らず、鍵が少しずつ向こうへ引かれていく。


 だが、影の足が止まる。迷いの色。糸が弱く震えた。


「あと七分」


 掲示板が無情に数字を刻んでいく。


 ミナは小さく息をついた。


「怖いんだよね、未来。受け取ったら、今の自分が変わる気がして」


 ルイはわずかに笑った。

 以前も似たような場面があった。あのときは逆だった。今度は自分が背中を押す番だ。


 ルイは車体を前へ寄せ、境界を少し近づけた。


「距離を詰める。届く場所にしてやる」


 ミナが頷き、表情を落ち着かせる。

 震えていた手が静かに動き始めた。


「ねえ、“未来の私”。これは何かを変える鍵じゃない。“開けて確かめる”鍵なの」


 ミナの声に合わせ、糸が太くなった。


「怖かったら、開けなくていい。持ってて。それだけで、今の私は助かるから」


 影の肩が少し下がる。

 鍵が音もなく吸い込まれた。

 掲示板の点滅が止まり、“ゼロ番線 運行”の文字が一瞬だけ浮かぶ。


 ルイが息を吐くと、ミナが笑った。


「……届いた、みたい」

「いや、まだ終わりじゃない」


 ルイは木箱をミナに突き出した。

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