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異世界配達は心の中まで!~凸凹コンビが、笑いと涙で想いを届けます~  作者: ふみきり


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第9話 紙飛行機の約束と、風待ちの丘

 扉を開いた瞬間、風が顔を打った。

 丘の上。白い雲が流れ、空が近い。草が波打ち、霊体馬の蹄が乾いた音を返す。


「わ、強風!」


 ミナの声が風にさらわれ、髪とマントの端がはためく。


「飛ばされるぞ」


 ルイは手綱を引き、馬車を丘の中腹で止めた。眼下に薄く霞む町。風の音の奥に、かすかな笑い声の残響。

 半開きの扉がかすかに光る――依頼反応だ。


「来たね」


 ミナが身を乗り出し、扉の縁を握る。

 丘の端に小さな人影。草の切れ間に、少年。十歳ほど。両手で紙を押さえ、折っている。


 霊体馬が低く鳴く。ルイは手綱をほんの少しだけあおった。


「依頼主だよ。行こう!」

「了解、召喚タク接近」


 ミナが風向きを読む。車体が草を踏み、光がちらつく。扉は半開き、退路は確保。


「こんにちは」


 ミナの呼びかけに、少年の肩がびくりと揺れた。


「だれ……?」

「召喚タクだ。君の“届けたいもの”が反応した」


 少年は手の中の紙を見る。折りかけの紙飛行機。羽に鉛筆の文字が細く走る。


「これ……飛ばしたかった。町の向こうの丘の子に。約束したのに、言えなかったから、書いた」


 風で文字が薄れかけている。


「届かないまま終わるのは、いやで」


 俯いた声。ミナがすぐ頷く。


「じゃあ、届けよう」

「できるの?」

「それが私たちの仕事」


 ルイは手綱を締め、扉の光を安定させた。依頼確定。霊体馬が首を振り、丘の斜面に細い光の道が走る。

 風がまた強まる。ミナが帽子を押さえた。


「飛行機、どうする? 飛ばすの? 運ぶの?」

「届ける。けど、ルートは風が決める。軽いものは、風が案内役だ」

「風任せ、だね」

「だいたいそうだ」


 短く息を吐き、ルイは合図を送る。霊体馬の足元に光が網のように広がり、扉の縁が向こうの町へ繋がり始める。

 風が吹き込み、車体が小さく揺れた。


「準備いい?」

「できる範囲でな」


 少年が紙飛行機を差し出す。ミナが笑みで受け取る。


「任せて」


 扉の内側が風を吸い込み、白く光る。紙飛行機がふっと浮いた。


「待って、飛んでいっちゃう!」


 ミナがドアノブごと縁を押さえる。風が唸る。ルイは手綱を引き、車体を支えた。


「離れるな」

「分かってる!」


 紙飛行機は一度旋回し、丘の向こうへ。光の筋がその軌跡をなぞる。

 少年の頬がほどけ、表情がやわらぐ。体が薄い光に包まれた。


「呼ばれてる」


 ルイの胸で小さく警鐘が鳴る――依頼主の“姿”が、道案内の記憶へ移る合図だ。ここからは紙飛行機が先導役になる。


「ありがとう」


 少年はその一言だけ残し、細かな光にほどけた。


 ルイは手綱を強く握り直す。


「行くぞ」

「了解、発進!」


 霊体馬が踏み出す。草が逆巻き、光の道が前方に伸びる。

 紙飛行機の消えた方角――風待ちの丘を越えた空が、次の目的地だ。


   ★   ★   ★   ★


 風がさらに強まる。斜面を下るほど、光は濃くなる。霊体馬のたてがみが立ち、車輪が草を噛んだ。


 ルイは体を前へ傾ける。

 風圧が頬を叩く。視界が揺れる。前方の光の筋を、紙飛行機が滑っていく。


「見えるか!」

「見える! でも、風の層が変わる!」

「合わせる!」


 手綱で角度を調整。霊体馬が首を振り、光帯を追う。

 丘の上の空が割れ、遠くに町。紙飛行機は意志を持つみたいに舵を切り、山裾へ降りていく。


 霧の向こうに小さな家。窓がふわりと開き、紙飛行機が吸い込まれた。

 机に向かっていた少女が顔を上げる。


 ルイは手綱をゆるめ、息を落とした。


「……届いたな」


 ミナが扉の縁を握ったまま、目尻を和らげる。


「今、読んでる」


 風が少女の髪を揺らす。紙の白が陽の光を跳ね返した。


「“約束、また遊ぼう”って、書いてた」

「見えたのか?」

「ううん。風が教えてくれた」


 ミナの視線が細くなる。ルイの口元に、わずかな笑み。


「風はおしゃべりじゃない。正直なだけだ」


 光の筋が薄れ、丘の上に静けさが戻る。霊体馬が鼻を鳴らし、前足で地面を軽く叩いた。

 ルイは姿勢を戻し、手綱を整える。


「帰るか」

「うん」


 ミナが外へ目をやる。


「風、あったかい。夏の終わりの匂い」


 ルイはひと呼吸、空気を吸い込んだ。


「ほんとだ」


 霊体馬が歩き出す。草を踏み、丘をゆっくり下る。

 背後で小さな光が一度だけ瞬き、風が穏やかに流れた。


「今回の依頼、何点?」


 ミナが笑いを含ませる。ルイは少し考え、口の端を上げた。


「九十点」


「お、高い! 減点十点は?」


「紅茶が冷めた」


「そこ!?」


 ミナが肩をすくめ、ルイの頬が緩む。

 丘を渡る風が、紙飛行機の残り香を運ぶ。光が薄れ、扉が静かに閉じた。


 空には、最後の一枚が浮かんでいた。風がそれを高く押し上げ、青へ連れていく。

 ルイは目で追い、息をひとつ。


「……また、誰かの約束を拾うんだろうな」


 霊体馬が短く嘶く。ミナが笑って頷いた。


「風待ち完了。次の配車お願いしまーす」


「はいはい、仕事熱心」


 馬車が光を帯び、走り出す。

 丘を抜ける風が、二人の笑い声を遠くまで運んでいった。

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