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68.女の子に不慣れなだけです。


「あら、沢山の落とし物(野菜たち)……。」

「わあっ!?ごめん二人とも……!」

 私の驚く声の横で、申し訳なさそうに狼狽えるニコが二人に声を掛けた。

 そんなニコに、ガドロブは安心させるように微笑み、メリノはノリ軽く手をひらひらさせた。

「ドジることなんて誰にでもあんだろ、気にすんな!お、美味そう~!」

 ドークローの真横の籠にドン!と人参(ニンジン)馬鈴薯(ジャガイモ)を置いたメリノは、その流れのまま鍋を一瞥し、ニコに抱きつきに行った。……美味そうって言ったな、コイツ(吸血鬼)

「ニコ、ルカがさっき、部屋(E班)で叫んでましたよ。アンタの画材を倒したって。」

 ガドロブが、未だメリノにホールドされて苦笑しているニコに言った。ニコは絵を描くことが好きなようで、今日も農作業に出る前、ベッドサイドのテーブルに画材を置きっぱなしにしてきたらしい。

「えぇ~、倒されたか……。まあ片付けなかった俺が悪いね。部屋に戻るよ。」

 ぴょんっとメリノのホールドから抜け出したニコは、「じゃあまたねー!」とこの場を後にした。ひょこんと飛び出た頭頂部の髪の毛が、挨拶の余韻を残すように揺れながら陰に消えていった。

「ニコはずっと、天真爛漫で元気っすねぇ。」

「全くだ。」

「子供みてーだよな。俺より年上だった気がするけど。」

 ガドロブが愛おしそうな笑顔を浮かべ、ドークローは分かると言いたげに頷きながらシチューをお皿に映してくれていて、閉じる瞬間のドアを捕まえて廊下を覗き込みながらメリノが言った。

 此処にリーダーのハーゲッデ・リゼが居たら、B班勢揃いだな……。あ、そうだ。

「ねぇメリノ、確か約束は今日の十三時で問題なかったかしら……え?」

 今日の吸血は彼だったような、とメリノの手に触れた。

 すると、メリノの肩が跳ねた。バッと手を退かれて、「おわっ!」と声にならない吐息が聞こえた。

「え……、なに?」

 綺麗なレモンイエローと漆黒のオッドアイが、ぱっちりと見開かれている。錆び着いたかのように微動だにしないし。というか……顔、赤い?

「具合でも悪いの?」

「え、えっ!?いやぁ、何にも!?」

 いきなりどうした……?声も強張ったし。まるで、私に照れてでもいるみたいなその反応……。

「メリノー?」

「や、その、えっと……。」

 耳まで赤くなったわね。うん。照れてる。……え、人間(食べ物)に?

「……その辺にしておいてやってくれアナリー。こいつは初心だ。」

 困ったような表情を浮かべたドークローが、早口で私を止めた。私から目を逸らしたメリノは、手の甲で自分の口元を隠している。

「私、人間よ?」

「まぁ~……、そうなんすけど……。」

 様子を見ていたらしいガドロブが、どう説明すればいいモンっすかねぇ……と天井を仰いだ。

 真っ赤なままのメリノと目が合う。ふいっと逸らされて、そのまま震えた口を開いた。

「……喋るのは、良いけど……。触られんのはびっくりすんだよ。俺、元々、人間だし……。」

 …………?

「元々……人間?」

 あまりに唐突な告白に、今度は私の頭が止まった。お皿を持ってきてくれたドークローは目を点にしてメリノを見てるし、ガドロブは額に手を付いた。

「サラッと言いますね、アンタ。」

「ここまで過剰反応する気なんて、俺だってなかったよ!」

 困ったように私へ笑うと、メリノは私の目の前の席へ腰を下ろした。

「嫌な気分にさせたらごめんな、変に意識してるわけじゃなくて……。ほんと、そう……。俺が女の子に不慣れなだけですゴメンナサイ……。」

「……。」

 両手で顔を覆って頭を下げられても……。別に気にしないのに……。イケメンが初心な反応すると可愛く見えるからイケメンってずるい。

「話すと長くなるし理解できないと思うから、なんで吸血鬼になったのかは置いとくんだけど……、昔から歳近い女の子と話すことなんてなかったからびっくりするだけで……。いや、こんなこと思われてんのも気味(わり)いか……?」

「別にいいわよ。というか、吸血鬼になる段階で、見た目って変えられてるの?」

「は?」

 急に話変わるな……、と呟くドークローの声が聞こえるけど、反応するほどでもない声量だったから無視しよ。

「体のつくりは変えられてるから吸血鬼の体質だけど、外見は何一つも……。」

「なるほど?」

 ……つまり人間時代からずっとイケメンってことじゃねぇか。

「そのオッドアイも、シナモンの髪も生まれたときから?」

「え、はい、そうです……。」

 ……つまり人間時代からずっとイケメンってことじゃねぇか。

「外見つよすぎるでしょ……。ずるいわよなにその美貌……。」

 ドークローとガドロブが私の外見を褒めるような言葉を言ってくれている気がするけど、私は信じない。絶対に信じない。

 吸血鬼たちは!悪魔の好みにカスタマイズされた存在だから美人なんだって自分を納得させてきたのに!

「天然ものには勝てない……。」

 正直、どうして吸血鬼になったのかなんて本人が言わない限り聞かないけど。その美貌が強すぎて、気遣うどうこうの話どころじゃなくなっちゃったじゃない。

「初心な反応する天然美貌のイケメンは……ずるい……。」

 テーブルに突っ伏したあと、頭上から不満げな唸り声が聞こえてきた。

「……言っとくけど、自分で触れにいく分には、こうはならないんだからな。」

 メリノの、いつもの華やかな声とは違う落ち着いた声に、ゆっくり頭をもたげる。

 彼の手が、私の頬にそっと触れた。そしてそのまま、小さなテーブル越しに顔を近づけられ……、首筋を噛まれた。

「ちょっと!?」

「おい!」

 ガドロブとドークローの制止の声が入ったけれど、そんなものを気にも留めない様子で、熱い吐息が耳にかかる中、メリノの喉が上下したのが見えた。

「今日は部屋来なくてだいじょーぶ。ごちそーさん!」

 ペロッと赤く染まった唇を舐め、にやりと笑うその仕草。先ほどの初心な反応とは打って変わったその変貌ぶりに、私は何も言い返せなくなった。

「ほんじゃ、またな~!」

「あっ、こら!滅茶苦茶やるんじゃねぇっすよこのド変態野郎!」

 手を振って逃げていくメリノを、ガドロブの大声が追いかける。その様子がなんだかおかしくて、私はドークローと目を合わせた後、思いっきり吹き出してしまった。

本作をご覧いただきありがとうございます。水浦です。


元来スケジュールでの投稿をしたかったのですが、私の実力不足により投稿ができないという判断に至りました。楽しみにしてくださっている方がいたら、本当にすみません。


これからは、本来の十日間隔で一話、という構成を目処にしたいと考えています。いずれ不定期になるかもしれませんが、しばらくはこのスケジュールで挑みたい……。


気が向いたら覗いてみるか、それくらいのスタンスで読んでいただけると嬉しいです。


最後になりますが、いつもありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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