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67.純粋な青年のグロテスクな指輪


 ふわりと上がる湯気、野菜の甘みを運んでくる調理室で、私……アナリー・メルテはのんびりと、料理を作ってくれているB班のドークロー・ヨイノを待っていた。

「いつもありがとう、ドークロー。」

「好きでやっていることだ。気にするな。」

 いつものように早口で、冷静な無表情のまま。逆立ったポピーレッドの髪や筋骨隆々な身体とは少しアンバランスなファンシーエプロンを纏って、時々小さく鼻歌を口遊んでいる。ラベンダー色の瞳も、楽しそうに輝いていた。

「ソースはどうする?」

「美味しそう!なんでも合いそう。あるものでお願いするわ。」

 ドークローお手製の、野菜たっぷりのオムレツ。迷った末に、彼はまろやかなクリームソースを手に取った。

「クリームの残りはスープにでもするか……。」

 ドークローが小さく呟くと、ガチャリとドアを開ける音と同時に、「わわっ……!」と慌てるような声が聞こえた。ひょこりと、ロイヤルパープルのアホ毛が揺れているのが目に映ると同時に、E班のニコ・ワーナードが顔を出した。

「新鮮なお野菜お届けだよ〜!いーっぱい採れた!」

 太陽みたいな笑顔で、大きな籠を持ってきたニコは、純粋さと素直さを持ち合わせた吸血鬼だ。同室の最年少ルカ・ユリィにすら「弟みたいだ」と言われるレベルの天然で、その姿には毒気を抜かれる。

「助かる。」

「美味しそう!ありがとう、ニコ!」

 ドークローと私の声に、ニコはえっへん!と胸を張った。絵に描いたようなドヤ顔。かわいい。

 ドークローも私と同じことを考えたみたいで、心なしか癒されている顔をしているような気がする。

「こんなに新鮮なものがあるのならキャロットシチューにするか。」

 にこやかな雰囲気のまま、籠の中身の鮮やかな人参を手に取ったドークローを見て、ニコは満足そうに私の隣に座った。ひょんと撥ねる小さな頭が可愛くて、思わず撫でてしまう。ニコは目を細めて、気持ちよさそうに左右に揺れた。

「アナリー、二月(ふたつき)ほど経つけど、此処での生活はどう?不満な所はある?」

 頭を撫でられているから上目遣いで、ニコが私に尋ねてきた。アプリコットに光る瞳に微笑むと、ニコがコテンと首を傾げた。

「全然?充実しているわ。よくしてもらっているし。」

「本当?それなら良かった!」

 純情な子どものような目を向けられると、返答にちょっと困るけど。言えないなぁ、死ぬつもりでここに来ましたなんて。

 私に撫でられていたニコは、自分の指に嵌められている指輪を眺めて取り外しいじっていた。

 緑色の石飾りの、目玉をモチーフにした指輪。穏やかで純粋な彼のイメージとはかけ離れたグロテスクなそれに、なんでもない顔で触れていた。

 指輪の『呪い』に言わせれば、同じ形の指輪を持つ人が彼の『呪い』で結ばれた相手。緑色ということだから、恐らく相手はD班の誰か。D班のうち、リーダーのサムス・マロトと他人に興味がない読書好きリベリテ・コルトの二人は、共に横を向いた狼の飾りの指輪を着けていた『呪い』のバディ同士で、しかも二人の『呪い』は解けている。

 つまり、彼の『呪い』の相手は、魔法の力を持たない紳士ゴウ・タイルか、崇拝癖持ちのムーサ・ナリジアのいずれか。このどちらかが、心身共に支え合えるバディとして運命づけられているらしい。

 ……いやー、本当に?ニコとこの二人のどっちかが?

「想像つかないわね……。」

「なにが?」

「何の話だ。」

 あ、ごめんニコ、ドークロー。独り言です。気にしないでください。

 『呪い』に関しての話は表立ってするなと言われているのでしませんが。気になってしまうのも事実で。

 そう言えば、ドークローの指輪ってどんなんだったっけと思って、お鍋を見ているドークローの手を見てみると、指輪は見事に外されていた。

 料理中は指輪を外すタイプかぁ。衛生観念、素晴らしい。しかし、誰なのか気付くタイミングは見失ってしまった。

 私も、全員の指輪を覚えているわけじゃない。真面目に見たことがないひともいるかもしれないくらいで。そんな私が、確かこんな指輪!バディはこの人!と言えるはずもなく。

 集落『スファラ』のリーダー、ユーリス・ビディが嵌めていた無色透明の飾りがついた指輪は他の人で見たことない気がするけど。まぁ、私にはお会いしたことのない吸血鬼もいらっしゃるので、何とも言えないわけで。

 別に探偵でも鑑定屋でもないので、目についたときに考えればいいか。


○○○○○○○○○○○○○


 それからしばらく、くつくつと煮込む音だけが静かに聞こえる部屋の中、のんびりと過ごしていた。時々、ニコやドークローと言葉を交わしたりなんかもした。

 ドークローが作ってくれたシチューが完成する頃、バッと部屋のドアが開けられた。

「落としてんぞ、ニコ!」

「あわてんぼうっすねぇ。拾ってきましたよ!」

 ドークローと同じB班所属の吸血鬼、メリノ・ジャンヴィールとガドロブ・ボーワが、野菜を腕に抱えてやってきた。

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