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66.むかしばなし 後編


 僕たちメルテ家は、とある事情で王宮に呼ばれていた。その帰りに、普段なら絶対に妻子を連れて歩かない違法市場に足を運んだ。深い理由はない。ただ、僕……ボリス・ドル・メルテと妻クララの愛娘アナリーが、売人に連れられた少年を見つけた為だった。

『ご協力、感謝します。』

 取締のため声を掛けていた役人が、僕達に頭を下げる。代表役人の後ろの新人たちも、一斉に頭を下げてきた。

 ちらりと家族を見る。クララは大したことではないと苦笑し、アナリーは僕の足元でどやぁと胸を張っていた。

『……奴隷制を現王が禁じて、もう十年は経っているでしょう。それなのに未だ残っているとは。元来から推進されていた訳で無いにも関わらず。』

 僕の言葉に、新人役人の一人がビクリと肩を震わせる。役人が悪いわけではないが、管理の責任はやはり役人に掛かってしまうので、致し方ない。

『この少年は、僕たちが連れて帰ります。この子の身内が生きているならば、その人が見つかるまで。』

 体内に熱が籠った状態で気を失っていたために、首や脇などに氷を置いた状態で寝かせた少年を一瞥しながら、役人に問うた。

『……よろしいのですか?』

『ええ。』

 普段なら家に連れて帰ることはしないが、アナリーが売人に声を掛けたとき、少年にまだ意識があった。期待をさせた上で、そのまま捨て置くことはできなかった。

『それでは、あとは頼みます。この子の意識が戻り次第、医者に診せますので。』

 クララが、役人に向かって柔く微笑み、そう言った。アナリーも『ありがとうございました!』と勢いよく頭を下げていた。

 役人が、コクリと頷いて去っていく。まだ頬の赤らみが引かない少年の身体には、幾つもの痣や火傷痕が残っていた。


 意識が戻ったあとの少年は、はじめこそ自分をどうする気だ、と僕たちを警戒していたけれど、献身的に看病をされる内に少しずつ安心したようで、僕たちの家に来て一年が経った頃には、少しずつ笑顔を見せてくれるようになった。

 時折トラウマに苦しめられて、恐怖を感じるから名前を呼び捨てにしないでほしいと言われたときには、配慮が出来なかったことを申し訳なく思った。けれど、どんな態度を取り取られようとも、大事なことに変わりはないということは、しっかり伝えた。

 ……僕たちの家にやって来てくれた二人目の我が子は、今では立派に育ってくれた。僕たちの手探りの愛を受け止めてくれたこの子には、受けてきた理不尽以上の幸せを手に入れてほしい。出来ることなら、いなくなってしまったあの子(アナリー)たち(、ユート)の分まで。

 そう願いながら、僕たちは今日も、子供たちの笑顔を楽しみに起床する。


「おはよう、メイナード君。」

「……おはようございます、ボリスさん。」

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