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65.むかしばなし 中編


『……何言ってんだ嬢ちゃん?あんたがこの子供を買おうってのか?』

 俺に値札をつけた売人男が、馬鹿にするように鼻で笑った気配が感じ取れた。もう目を開けることもできなくなったに俺は、少女の側に複数人の足音が聞こえたことくらいしか分からなかった。

『ええ。この値札の通りでいい?』

『……おい、男。あんた、この嬢ちゃんの保護者だろ?何言ってるんだ、あんたのガキは?』

 相手にされていないと分かった少女が不満げに声を漏らす横で、若い男の声が唸るような声を上げた。

『僕の娘が申した通りさ。そこの少年を僕たちに譲ってほしいんだ。対価はこの場でしっかり渡すよ。ねぇ、クララ?』

 けけっと、嘲るような笑い声が聞こえる。その直後、俺の髪に手が触れた。髪を引き千切られるような力で、痛みにそのまま呻いてしまう。

『コイツが欲しいだぁ?あんたら、ここらの不正市場(交易地)に来る身成りじゃねぇよなぁ?歩いてきたのも都の(がわ)か。お役人なら、今此処で死んでもらうぜ。』

『おい、待て。幼い子供に乱暴するのは()さないか。その少年が、何か盗みでもしたというのかい?』

 (しわが)れた売人の声と、若い男の声が頭上で響く。その声が頭痛に侵された頭には辛くて、微かな体力を振り絞って耳を塞いだけど、あまり意味はなかった。

『まあ、どうでもいい話だけれどね。僕たち家族は好きじゃないんだよ、何の実績もなしに偉ぶる人間が。金は払うが、その後はどうしようと、僕らの勝手だろう。』

 商品の使い道への文句は受け付ける気はないよ、と若い男が言った。その声が妙に冷たくて、暑い身体の内側が悪寒で冷えた気がした。

『……あんたら、お役人じゃねえのか。』

 売人が、恐る恐るといった様子で若い男に尋ねる。すると、若い男の近くから、また一人、身を乗り出してきた気配を感じた。

『お役人?とんでもない!私たちは古い田舎の金物(かなもの)屋よ。……私たち、は。』

 少女とは違う、若い女の声だった。なんだか楽しそうに、弾んだ声で朗らかに笑っている。

『お役人じゃねえなら、本当にこの子供を買いに来た、ってことかよ。……分かった。その値札分の銅貨を寄越してくれ。』

 まさか性欲持て余した猿じゃなく、美形な家族にこのガキを売ることになるとは……と、呟く声が、俺の耳元で聞こえる。すると、俺の頭上で、ひっっ!と引き攣った、二人目の売人の声が聞こえた。

 それと同時に、『子供を売ったなぁ!』と怒鳴り込む、複数人の……取締役人の声がした。

『役人じゃねぇと言ったろ!騙しやがったな!』

『だから、私たちはお役人じゃないわよーだ!』

 役人の声が近付いてきたことに怒りを顕にした売人へ、先程の少女の声が応える。段々と売人の声が遠ざかっていく中、そのうちの片方の絶望したような声が聞こえた。

『お、思い出した!こいつら、王宮……の……!』

 何を言っているのか、俺はこの当時には聞き取れなかった。数年後に、俺はそのときの売人が恐怖した理由を理解する。

 とにかく、売人がいなくなったことだけを俺は理解した。ゆっくりと俺の頭に手が載せられたことだけは分かった中、俺はもう限界で、そのまま意識を失ってしまった。

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