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63.分かっているさ、嫉妬だと。


 家の庭に回っても、やはり雪は積もっていない。けれど、俺……メイナード・メルテの義弟妹は楽しそうに目を輝かせ、安っぽいスコップ(家にあったもの)を小さい手に確りと握りしめていた。

「すなのおしろをつくるのだー!」

「だぁ!」

 俺は近くの椅子に座りながら、義弟妹二人を眺めていた。ローズレッドの髪にエメラルドの虹彩。アナリー義姉さんに容姿が似ている二人は、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいる。

 砂の城を作り、トンネルを作り、それに飽きたら木の枝を探して床に絵を描き始める。純粋に楽しむ二人を、ただひたすらに眺めていた。

「……やあ、どうも。」

 突然、頭上から声が降ってきた。ひどく優しそうな、けれども何か裏がありそうな声。

「ロード、さん。」

「寒いのに元気だねぇ、ミリト君もアンナちゃんも。……メイナード君も、ちゃんとお兄ちゃんしてるんだね。」

 何の用だ、この人。

 突如現れた隣人に、自然と眉根が寄った。ロードさん本人は飄々と、彼を見つけて走り寄ってきたミリトたちと手遊びをしている。

「その節はどうも。……あの、ロードさん、約束。」

 遊び飽きたミリトたちが再度砂遊びに取り掛かり始めると俺は、ちゃっかり家の敷地に侵入して隣に座ったロードさんにぼそりと問いかけた。ロードさんも、分かっていると言いたげに軽く微笑み返してくる。

 先日、俺が体調を崩したときに部屋へ乗り込んできたロードさんは、寝込んでいる俺に向かって開口一番「次は君にも来てもらうよ、頼りたくなかったけど」と皮肉めいた言い方をしてきた。

 詳しく話を聞いたところ、ロードさんはやはり、義姉さんを連れ戻すのに失敗したらしい。だからこそ、俺を呼び出せば連れ戻せると踏んだ、とも。

 ……正直、どうしてこの人が俺を頼ろ(そんなこと)うとしている(を理解している)のかが気に障ったが、ロードさんとアナリー義姉さんの仲は良かった。義姉さんはそうは見えなかったけどロードさんが義姉さんに恋慕を抱いているのは確かだろうし、力になりたいから、とでも言っていたんだろうと、案外すぐに予想がついた。

 ロードさんは、期待をさせてはいけないからと、ボリスさん達に義姉さんの無事を伝えていないらしく、俺も同じ理由で口止めをされている。それが優しさなのか、伝えてやったほうが優しさなのではないかという考えは、口には出せない雰囲気を醸し出していた。

「まだ鏡の奥に向かう準備は済んでいないから、もうしばらく待ってよ。あ、この前みたいに風邪ひかないでね。そうなったらもう連れて行かないから。」

「……分かってますよ。」

 俺は、元々少しこの人が苦手だ。気付いたら義姉さんの隣にいたこの人は、何度も何度も、俺と義姉さんの時間を奪っていった。唯一、俺が義姉さんにだけは呼び捨てで呼ばれることを受け入れていることが気に食わないらしく、義姉さんの隣に自分が居るのは当然だと、お前は部外者だとでも言うような目が、苦手だった。

 ……分かっているさ、嫉妬だと。でもそれを義姉さんの前で分かりやすく表に出すほど、俺もこの人(ロードさん)も子供じゃない。ロードさんにとっては、血の繋がらない弟が気に入らないだろう。お互いさまというやつだ。

 義理の姉に焦がれてしまった俺は、その感情が行き着く先もちゃんと見据えていた。ロードさんと結婚でもするのなら、心から祝福したいと、そうなるべきだとすら思っていた。

 だからこそ、急に彼女が違う要因で目の前から消えてしまって、恐ろしかったし、焦ったんだ。ロードさんは無事だったと言ったけれど、いつ義姉さんが殺されるか分からない。今のんびりしているこの時間に、義姉さんは化け物に食いつくされて骨すら残らず消えているかもしれないんだ。

 悔しいけれど、俺に化け物をどうにかする術は力しかない。その力すら、役に立たないとなってしまっては、もう俺はどうしようも無かった。

「次は、必ず、義姉さんをこの村へ引き戻します。」

「……そうだね。協力戦といこうか。」

 僕も早く、温かく笑う彼女に会いたい。そう呟いたロードさんの目には、ただ一人に焦がれる純情な恋心が映っていた。

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