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62.兄妹と初雪


 強く吹く風が、マチレ村の草原を撫でて去っていく。昨夜降ってきた初雪に、義弟(おとうと)たちは目を輝かせていた。

「メイナードにいちゃーん、遊びいこ!」

 義弟のミリトが俺の部屋にひょっこりと顔を出し、期待に満ちた目を輝かせて、木刀の手入れをしていた俺の言葉を待っていた。その後ろには、その妹で俺の義妹アンナがミリトの手を繋ぎながら目を擦っていた。昼寝をしていたのでまだ少し眠いのかもしれない。

「外で遊ぶのか?まだ雪は積もってないぞ?」

 寒いが、一晩で雪景色が出来るほどではない。今外に出ても、ただ風邪をひくだけではないのかと聞いてみた。

「いーの!これからおやまができるから!かあさんにも、あそんできていーよっていわれたよ!」

 ……寛容だな、クララさん(義母さん)

 まあ、俺の監督ありきで許可を出したのだろう。それなら、俺が可愛い義弟からの頼みを断る理由はない。

「じゃあ、あったかい格好をして待っていろ。俺もすぐに行くから。」

「やったー!はーい!あったかくするー!」

 不器用なスキップで出ていくミリトと、ミリトに引きずられているアンナを見送りながら、俺も厚手の上着を引っ張り出す。念のため、温かいお茶の用意もしておこう。

 

「メイナードくん、ちょーっと待って?」

「はい、なんでしょう?」

 楽しそうなミリトとアンナが靴を履いている間、俺はご機嫌なクララさんに呼び止められた。

「首元、寒いんじゃない?ほら、これ。」

 クララさんはそう言って、俺に温かそうなマフラーを差し出してくれた。恐らく彼女の手作り。

 気持ちは嬉しかったが、俺はそれをやんわりと断った。

「すみません……、それは、大丈夫です。まだ、首を絞めるものはちょっと怖くて……。」

 思い出したように、クララさんがハッとなった。それから、泣きそうな顔で俺に差し出したマフラーを抱え込んだ。

「そう、よね……。そうだったわ。ごめんなさい。」

「いや……、こちらこそ、すみませ……。」

 弱々しくなったクララさんに言葉を返しながらも、自分の息が上がっていることに気付いて、身体がふらりと傾きはじめる。

 奴隷時代の首輪が脳裏に過ぎるせいで、首に巻き付ける類のものは受け付けなくなっていた。義父のボリスさんや義祖父のオーランドさんにも会話が聞こえたようで、心配そうにこちらを見ているのが分かった。

 俺の言葉がなくても、秋から冬にかけてのこの時期はメルテ家にとって神経質になりやすい時期だ。語学留学に来ていたユートさんというお兄さんも、アナリー義姉(ねえ)さんも、どちらも晩秋にいなくなった。ただでさえリーピリーの祭りが毎年十月の末にあって、村全体の目に光がなくなる時期だというのに。

「……メイナード兄ちゃん?どうしたの?」

「にーちゃ?」

 ふと聞こえた幼い二人の声に、意識が引き戻された。その場に座り込んでしまっていたようで、心配になるほど青い顔をしたクララさんが慌てたように俺の顔を覗き込んでいた。

「……ごめん、ミリト、アンナ。……すみませんクララさん、もう、大丈夫です。」

 義姉さんによく似たミリトが、せっかく履いた靴を脱いで俺の様子を見に来たので、頭を撫でて安心させてやる。嬉しそうに笑ったミリトが玄関に走っていくのを見送ってから、俺は壁を支えに立ち上がった。

 ……思い出すな。昔の話だ。奴隷時代のことも、ユートさんのことも、全て。

 ああ、でもただ一つ希望を持つとするなら、アナリー義姉さんのことか。まだ生きていると、確かにロードさん(隣家の青年)は言っていたのだから。

 まだ、あの人に関しては、希望がある。

「それでは、ミリトたちを遊ばせてきますね。」

 玄関に向かおうとした俺の手を、存外強い力で引っ張られる。見ると、少し焦ったような表情のボリスさん(義父さん)だった。

「……メイナードくん、僕が代わろうか?いまだってふらついていたわけだし……。」

「いえ、大丈夫です。」

 心配そうなクララさんとボリスさん、オーランドさん、そして、義弟妹(きょうだい)

 ……温かい人たちだ。だからこそ、もうこの人たちに、身内を二度も三度も失わせてはいけない。

「俺は平気ですから。……二人のことは、任せてください。」

 しっかりと、俺は大人三人に頷いて見せた。

 大丈夫だと、再度示した。

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