59.全集落交流会Ⅵ
「……まあ、ざっと確認事項はこんなもんかな〜?」
剣術馬鹿ばかりの脳筋集落『ミシュア』のリュルバレスタの呑気な声で、他の吸血鬼達が一斉に身動ぎをし始める。そんな中、セドリックの名を偽り名乗る男のみ、ほうと一つ息を吐いただけだった。
「エリエ、終わった?」
オレたち集落『スファラ』に囲われた少女・アナリーが、オレの様子を見計らって声を掛けてきた。その少女に、オレは軽く頷いて返事をしてやった。
艶のあるローズレッドの長い髪、長い睫毛に縁取られたエメラルドに輝く虹彩、そして透明感のある白い肌。ほっそりとして、でも丁度よく柔そうな体躯。
明るく見える性格で、苦労を知らない生娘に見えるというのに、時折歴戦の軍人のような荒々しい目をする。
他の娘とは大違いだと、感覚ながらにそう思う。現にオレの目を見ても、恐怖など欠片も見当たらないんだから。
「ああ。終わったよ。」
「そう。お疲れ様。」
アナリーが、オレに向かって柔く微笑む。そして、そんな少女の背後に、無言で立つ男が一人いる。長い髪を緩くまとめて、微睡んでいるような目を向ける男。
「なんだよ。何か言えよ、ソロウト。」
コイツは絶対に言葉を発しないと理解した上で敢えて言ってやる。予想した通り、集落『ワイズラード』頭領のソロウトはオレを華麗にスルーすると、アナリーの方へと近付いた。
「……これを、サムスに渡せばいいの?」
ソロウトが、綺麗な便箋を一つ、アナリーに手渡したらしい。目を凝らしてよく見ると、そこには『サムス・マロトへ ダリアノ・ウィンドより』と書かれていた。
サムス・マロトは、オレたちの集落『スファラ』の吸血鬼で、D 班のリーダーだ。気が弱くはっきり喋らないくせに、怒るときには喧しいから、コイツと話すとかなり苛々する。医療関連に強いのがD班くらいしかいないから、何かあったら頼る他ないんだけど、正直あまり関わりたくない。
というか、サムスと仲良くないからいいけど、なんでサムスに渡す手紙をオレじゃなくアナリーに託すんだよ。別にいいけど。
そして、サムスに手紙を寄越してきたというダリアノ・ウィンドも健気なものだ。
「ダリアノ……って、『ワイズラード』の人なの?」
アナリーの疑問に、ダリアノは小さく頷く。よろしくね、とでも言いたげに、ソロウトは首を傾げた。
ダリアノ・ウィンドのことは細かくは知らないが、サムスがずっと『師匠』と慕っている吸血鬼だ。昔はよく『ワイズラード』に行っていたみたいだけど、最近はめっきり訪ねに行かなくなって、手紙の返事もまともに書いていないらしい。
「任せてちょうだい。必ず届けるわ。」
アナリーが、ソロウトに笑顔で応える。ソロウトも安心したように、コクリと頷いた。
ソロウトが離れていくと同時に、アナリーが『フィッセル』の男を視界に捉えた。
何か懐かしいものを見るような、少し物悲しいような表情で。
結局最後まで、あのセドリックもどきは自分の名も身元も明らかにしなかった。オレは哀れだなとは思いつつも、関わりたくもなかったからほぼ踏み込まなかった。
「……それじゃ、エリエ。私たちも帰りましょう。」
いつの間にか、複数人が散っていた。挨拶はされたはずなのに、それが意識に上っていなかったみたいで、謎に少しだけ戸惑ってしまう。
「……ああ。帰るか。」
オレはアナリーに言われるままに、帰路へと体を向けた。
セドリックもどきを見遣るアナリーの目が、恐怖と困惑を同時に映していたことに、オレは気付いていなかった。




