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57. 全集落交流会 Ⅳ


「あとは、『フィッセル』だけだな。」

 ヨノムの言葉に、エリエが頷きながらも渋い顔をした。

「悪魔共に媚び売ってばかりの、あの腹黒集団な。まったく、気に喰わない奴らだよ。」

「お前は誰に対しても気を許してないんだろ。」

「最近、『フィッセル』リーダーのブライスせんせー、出てこなくなったんだよなぁ。忙しいのかもしれないね。僕ら『ミシュア』はただひたすらにボカスカやってるだけだから、いつでも暇だけど。」

 二人の会話に、リュルバレスタが入っていく。戦闘に優れた集落と聞いたけれど、優しそうでかつ儚げな彼の様子からも、力で押し切るタイプではない人が多いのかしら。

「そう言えば、他の皆は見たことないよな、新しく『フィッセル』に入ってきた男のこと。」

 ヨノムが、思い出したように問う。エリエが素直に頷き、「三年前くらいに、うちにもルカ・ユリィってのが入ってきたけど」とぼんやり口にした。

 ルカ・ユリィは、私が普段過ごしている集落『スファラ』の吸血鬼の一人で、人をからかったり悪戯したりするのが好きな青年だ。存在の謎が多い”白マント”と同じE班に所属している。……というか、ルカが『スファラ』に来たの、そんなに最近なんだ。まあ私より年下だと考えると、妥当なんだろうけれど。

「ブライス・ドガルダンが、前に言ってたんだよ。……“セドリック”が帰ってきた、って。」

 ヨノムの言葉に、彼以外の吸血鬼全員が体の動きを止めた。エリエは一気に顔を歪めて、医療に優れた集落だという『ワイズラード』のソロウトは訳が分からないというように目を瞠っていた。

「セドリックが帰ってきた、って……。どういうこと?」

「まさか『フィッセル』の奴ら、皆イカれちまったんじゃねぇよな!?」

 リュルバレスタとエリエが、動揺を隠せない声色のままヨノムに詰め寄る。落ち着けと、ヨノムとソロウトが2人を抑えた。

「“セドリック”って……?」

「『フィッセル』のメンバー……いや、元メンバーと言うべきだな。」

 私が零してしまった問いに、ヨノムが目を合わせて答えてくれた。彼の瞳は、悔やむように揺らいでいる。

「……死んでいるんだよ、何十年も前に。彼のあの事件は、『フィッセル』のメンバーは勿論、俺たち他集落の吸血鬼にも相当なショックを与えたものさ。」

 事件、か。事故とは言わないのね。

 輪郭を失ったぼやけた声に、私は静かに気掛かりを憶えた。けれどそれは口には出さないことに決めた。

「その“セドリック”とやらを俺は『フィッセル』に行ったときに見たんだが、やはり本人ではなかったよ。似ていると思わないこともなかったが、まあその程度だった。」

「ブライスの野郎、ついに頭もイカれたか。」

 まるで哀れな者に向けるかのような声で呟いたヨノムと、それに吠えて噛みつくように言葉を重ねたエリエ。リュルバレスタとソロウトは、ヨノムの言葉に納得するように数回頷くと、すぐに視線をずらしてしまった。

「……あ。もしかして、あれ?」

 リュルバレスタの声に、全員が彼の指さした一点に目線をずらした。そこにいたのはローブを纏った、黒髪に黒い瞳の、冷たい無表情の男だった。

 黒髪に黒い瞳。そして、冷静な面立ち。不器用で反抗したがりの少年のような目の輝き。

 私、この人、知ってる。

「どうして、貴方が……。」

 当然ともいえようか、上擦った私の声は、誰にも拾われず溶けていった。

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