56.全集落交流会Ⅲ
「ヨノく~ん!と……、リエくん!?わぁ、久々だ!」
暫く、まだ来ていない人たちを待っていると、遠くから複数の足音と、ふわりと柔い声が聞こえてきた。
大きく手を振っている吸血鬼は、先だけヴァイオレットに染まったストレートの赤髪にシーグリーンの虹彩を持っている。左肩に短いマントを靡かせて、紺色のタキシードと蝶ネクタイという、また『スファラ』と異なる服装。
そんな彼の隣には、ゆったりとまとめた黒い長髪にスプルースの虹彩をもつ、女性的なシルエットの吸血鬼がいる。グレーと黒の長いマントを羽織り、綺麗な花でそれを留めている。臙脂色のリボンで首元を彩り、黒い手袋を着用している様子は、専門職か医療関連なのかという印象を抱いた。
「『ミシュア』も『ワイズラード』も、リーダー様が出向いてきたってわけか。」
「リエくーん、せっかくの再会なのに冷たいよ……。ねぇ、そう思うよね、ソロくん!」
揶揄するようなエリエの視線に、タキシードさんはわざと落ち込んだような声を出し、長髪さんに抱き着いた。長髪さんはそれを気にも留めずに、上空を見上げている。
なんだか、犬と猫みたいな二人だわ……。
犬のようなタキシードさんは、私の存在に気付くと、長髪さんに抱き着いた体勢のままにへらと笑って、私の方へと手を振ってきた。
「どうも初めまして、戦闘狂だらけの激戦区、『ミシュア』リーダーのリュルバレスタ・コールンです~。一言も喋ってないこの無口くんは、革新的な医療技術を持つ鬼才集団、『ワイズラード』のリーダー、ソロウト・シャウンくんだよ~!」
長髪さんも、自分が勝手に紹介されていることに気付いたみたいで、リュルバレスタを背負ったまま、私に向かってぺこりと頭を下げた。
「ソロウトは、此処には暫く来てなかったんだよな、気まぐれか?」
発明大王集落『ボートレーン』のヨノムが、ソロウトに尋ねる。ソロウトは、そろそろ邪魔……と言いたげにリュルバレスタを払い落とすと、私を手で示した。
「……アナリーが気になったのか?」
ソロウトが、エリエの言葉に頷く。それから私に視線を移すと、決して微笑みはしなかったけれども安堵するように目を細めた。
吸血鬼を恐れない人間の噂を、ヨノムと同様にソロウトも聞いたんだ。だからこそ、私と顔を合わせていなかった彼は、何かが不安になったのかもしれない。
私のどこかが、彼のどこか琴線に触れたなら。私を気にする理由が一つでも潰えたなら。
「アナリー……、いや、リーちゃん!リーちゃんが僕たちを受け入れてくれているのは読み取れたよ!だから、僕も嬉しい!」
リュルバレスタが、にっこりと私に微笑む。……って、待て、リーちゃんって私の渾名か。そんな呼び方されるの、初めてなんだけど。
リュルバレスタとソロウト、そして、ヨノムとエリエ。四集落の吸血鬼の視線が、私に注がれた。
人とは違う、化け物の瞳や、纏う空気。この場に連れてこられて、それら全てに怯える少女たちが、遠くに確りと見えている。
だからこそ、私に縋る吸血鬼を、私は此処に来てからの僅かな時間で幾らも見てきた。
どうしても、生きたいと切に願うことが出来る訳では無いけれど。それによる私の心構えの異質さが、彼らにとっての救いになることを願おう。
私の胸の内など、知りたい奴は知ればいいし、知る気がなければ知らねばいい。私はただ、生を願うことも死を願うこともせず、化け物の血肉となるのみだ。
どうせ、一番の化け物は、この私なのだから。
……なんて、この場にいる彼らの中に一人も、私の思いに気付く人はいないんだろうな。
愚かな矛盾を抱えた思いを薄めるように、私は一つ溜息を落とした。




