54.全集落交流会Ⅰ
乾いた砂丘の上に広がる、星屑が散りばめられた夜空。この空を日常と捉えるようになったのはつい最近のはずなのに、慣れ親しんだ世界のようだ。
「ここら辺だと思ったんだけど……。まだ来てねぇのか。」
砂地に降り立ったエリエの横で、私は蹲っていた。何も言えずに。
「いきなり飛ぶなんて聞いてないわよ……。ちょっと酔ったんだけど……。」
私の震えた声に、心底驚いたと言いたげな声がぶつかってきた。
「高い所からは自分から跳ぶくせに、空を飛ぶことには耐性ないのかよ。」
「あるわけないでしょう!!」
いや、まさかね、横抱きにされたまま、剛速球で空中散歩するなんて思わないじゃない。誰が慣れるか。横抱きにされるくらいなら、私がエリエを持ち上げた方がよっぽどましだわ。
「まあ、体調落ち着いたら移動するか……って、ん?」
耐え切れず座り込んだ私の隣で、エリエが遠くに目を凝らしたのが分かった。そのまま「うわ……」と、いかにも嫌そうな声が聞こえた。
「あれは……、『ボートレーン』か。ヨノムだな。」
目を凝らしてみてみると、脛のあたりまである長いマントが靡いているのが目に見えた。そのマントの下には、肩に金のモールがある上着に、ぴったりとした黒の長ズボン、そしてダークブラウンのロングブーツを身に着けている。
それを着ている男は、コーラルレッドに染まっている髪をゆったりと一つにまとめていた。
「彼が、集落『ボートレーン』の人?」
「ああ。……リーダーのヨノム・トルトだよ。『ボートレーン』と言えば、様々な発明品を生み出した研究家たちの巣窟だ。」
エリエは、本当にイヤそうな顔で向こうを見た。
「そんなに嫌悪感を露わにするなんて、本当に人が嫌いなのね……。」
私が呆れると、エリエはパッと私の方を向いてきた。
「違ぇよ。……いや違わねぇけど、そうじゃなくて。ほら、アイツの足元、見てみろよ。」
足元?……あ、なんだか緩慢に動く、黒い影が見える。よく耳を澄ますと、小さくて高い声も聞こえた。
「無理やり連れてきたんだろうな。」
その影が、ゆらりと身体をもたげる。すると、涙に濡れた、少女の顔が見えた。
田舎の村娘といったところだろうか。小さくまとめた髪に、そばかすの散らばった顔が愛らしい少女だった。私よりも幾分か幼いだろう。
「どうして、無理やり。」
「……というか、アナリー。お前が異常なんだよ。普通はああいう反応になる。」
困ったように溜息を吐かれ、私は納得する。
忘れていたけれど、私はあくまで吸血鬼に捧げられた贄だ。その立ち位置は変わることはないし、私も生け贄としての役割を果たしている。
だからこそ、怯えることなく冷静に生き、寧ろ楽しんでさえいる私は、吸血鬼たちから見ても異質な存在。普通なら、あんな風に、怯えて叫び、誰にも届かぬ許しを請うだろう。
改めて、思う。……私が、いかに壊れているのかを。




