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53.急でわりぃけど、今からだから。


 ゲシゲシと、エリエ・マイゼルが飼っているらしい蝙蝠ちゃんに髪を荒らされる。

 二十年近く生きてきて今まで、こんな経験したことないんだけど。

「蝙蝠ちゃん、ちょーっと退いてくれないかしら……?」

「っえ、あ、わり!……セト、こっち!」

 蝙蝠ちゃんが、ピューッとエリエの方に向かって飛んでいく。ご主人様が大好きなようで、直ぐに彼の頭に擦り寄った。

「アナリー、ごめん。せっかくの綺麗な髪に……。」

「いいわよ、どうせそんなこと気にする歳でも無くなるんだから。」

 ……そういえば、乙女って、何歳までなら許されるんだろう。まだ許容範囲だと思いたいんだけど。

「……で、ごはんの時間もそこそこに、話したいことって?」

 およそひと月ぶりであろう今日の吸血をまさかのマッハで終えたエリエは、蝙蝠ちゃんに指示をして、自分の方に一通の手紙を持ってこさせた。

「全集落の交流会。今までは『スファラ』だけだったろ?毎年、鏡の奥の全部の集落で交流すんだよ。」

 ……へぇー。

「貴方、そういうの嫌いそうなのにね。」

 他の班の吸血鬼すら嫌だと言っているのなら、他の集落なんて尚のこと嫌じゃないの?

 蝙蝠ちゃんを撫でたエリエは、しっかりと頷いた。蝙蝠ちゃんは満足したようで、ぴゅいと部屋中を旋回し始めた。

「勿論、オレは嫌だよ。でも毎年ユーリスに任せちまってるから、そろそろ負担かなって。スイレイとアナリーを二人にさせんのも心許(こころもと)ないし、オレかディロップのどっちかで行こうって話になったから。」

 ……スイレイ、大丈夫か?どんどん信用なくしてるみたいだけど。いや、相手が私だから、そうしてくれてるだけかもだけど。

「……で、今年はエリエ、と。」

「そ。苦手なこともやってみろってさー。」

 それ、誰が指示したんだろう。ディロップ?家庭的スキルプロレベルのドークロー?それとも厄介ごと背負い込みがち世話焼きのガドロブ?この集落には一体、ママが何人いるのかしら。

 彼は手紙をぺらぺらと揺らしながら、私が座っていた場所の隣のベッドに寝そべった。反動で体が浮いて沈んで、ふかふかのベッドに呑み込まれている。

「アナリーも、他の集落の奴らには会ったことないだろ?そっちに呼ばれた人たちも来られるから、人間同士の交流もできるかも。」

「……私と同じように、連れてこられた子がいるってこと?」

 エリエは、黒くて暗い天井を見上げながら頷く。その顔に笑みは無かった。

「まあ、そいつらは、きっと顔面蒼白だろうけど。」

 ……なんで?

 私が首を傾げたのを見ていなかったようで、エリエは勢いよく起き上がる。それから、クリーム色の目を煌めかせて、綺麗に笑った。

「出られるか?」

「いや、いけるけど……。」

 今からって……急すぎるだろ。

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