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52.伝書蝙蝠の羽撃き

 

「お前、裸で寝るの好きだよな。」

「……言い方。どうにかならんのか。」

 半目でエリエ・マイゼルに覗き込まれながらそう言われ、仕方なくわたし……ディロップ・ファロウは体を起こした。我が城を拠点とする集落『スファラ』の頭領かつA班のリーダーであるユーリス・ビディは、部屋には居ないようだった。

「おはようございます。俺はこれから、少し出ますね。」

「……ああ。」

 見事なシアンの髪が揺れたかと思うと、四人目のA班メンバー、スイレイ・クランナが椅子から立ち上がった。そのまま、彼が部屋を出ていく様子を、ベッドに腰掛けたまま眺めていた。

「顔洗ってこいよ。」

 エリエにそう言われたので、その言葉に従うために立ち上がる。長く伸びた髪が視界で揺れるのに、そろそろ切ろうかと迷うが、まだ耐えられるかと考えを改める。

 近頃は、なんだか騒々しいことが続いた気がした。

 吸血鬼を恐れない少女がやってきて、ゴウ・タイルの件があった。トリエミア家の子息がユーリスを傷つけたことに関しては、未だに許せそうにない。

 輪郭のぼやけた柔らかな視界で、鏡に映る自分を認めた。寝起きのときだけ現れる、普段のわたしとは到底結びつかない優しい目尻に、ずっとこのままであればいいと思った。

 ……なんだか、今日は久々に、よく眠った気がする。


「っあーもー、待て待て、今やるから!」

 濡れた顔を手で拭いつつ振り返ると、エリエが蝙蝠と戯れていた。四方八方に飛び回るそいつは、早く飯をくれとせがんでいるようだった。

 ぐるぐると騒ぎながらピンセットで餌を掴むエリエは、純粋そのものといった顔で笑っていた。

 ……この笑顔を他の奴らにも見せてやることができれば、随分と生きやすくなるだろうに。

「セト!ほら、来い!」

 蝙蝠がエリエに擦り寄る。飯をたかっているだけなのか、それとも主に懐いているのか。それが見分けられるほど世話をしている訳ではないが、蝙蝠もエリエも動作は緩やかだと感じた。

「元気だなぁ、お前は本当……。」

 やはり幼いその顔を見て満足したわたしは、ドアの前に留まる人の気配に構ってやることにした。

 エリエに気付かせずにドアを開けると、ドアの前で屈みこんでいた人影がビクリと肩を震わせた。

 その肩に乗る飾りの石は、綺麗な紫だ。

「……入ってこい。面白いものが見られるぞ。ユーリスはおらんがな。」

「ばれてしまったか。」

 縦に巻いた、ライトブラウンの長い髪。チョコレートのような瞳に、グルマンノート甘い香り。薔薇色の髪を持つ少女は、彼のことを『菓子』の様だと例えていた。

 B班リーダー、ハーゲッデ・リゼ。気高く身勝手な性格故に纏うプライドが高そうな雰囲気とは裏腹に、かなり気さくな、強メンタルのいじられ役とでも言おうか。因みに、本人からも呆れられるユーリス信者、ユーリス狂である。

「楽しそうだな、エリエ。」

「……はあ!?何でお前が入ってきてんだよ!」

 蝙蝠と戯れていた様子から一変し、エリエはハーゲッデを視界に捉えると途端に嫌そうな顔をした。

「わたしが入れた。」

「ディロップめ、余計なことしやがって……。」

 余計なこと、か。

 嫌そうな顔をしつつも、それが拒絶でないことは、はっきりわかる。わたしたちに向けるような、甘える目線とは明らかに異なる、信頼しているからこその、猫のように気紛れなその瞳。

 ハーゲッデもそれをわかっているから、エリエに何と言われようと気にしないのだ。それどころか、反抗される度に愛おしそうにエリエを見つめている。

 ……ああ、女々しい。

 エリエの、わたしたちとハーゲッデとの許容範囲の差を見せつけられて、それでも彼らから目を離せない自分に嫌気が差す。


「……A班は、愛に餓えた奴らばかりだ。」

 

 わたしが零した呟きは、きっと誰にも拾われていないだろう。

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