51.平和であって
「何か……、最近どうも忙しいっすね……。」
我らがB班の部屋の中には、落ち着いた空気が常時漂っている。偶然にも班員に恵まれたか、辺りの喧騒に班員の興味が向いていないのか。
「アナリーが来て、D班のゴウ・タイルの件でお前が精神やられて、そんでもってトリエミア家の子息の例年より早すぎる襲来、か……。」
いや、めまぐるしいわ!と、楽観的な思考の持ち主メリノ・ジャンヴィールが、世話焼きな彼のお守り役ガドロブ・ボーワと話している最中に叫んだ。いかにも威勢のいい大声だ。今日の彼も健康そうでなにより。
「まあ多少のアクシデントはありはしたが此方はいつでもどこか部外者だな。」
三人目の班員、家庭的な吸血鬼ドークロー・ヨイノが、いつものように早口で、柔らかな布地と向き合いながら言った。
「……お前は何をしてんの?」
「寝間着を新調してやろうかと。」
「え、マジ!?やった!サンキュー!」
メリノとドークローの会話を聞き、ガドロブが「え、俺もできればお願いしたいっす!」と手を挙げる。メリノとガドロブに対し、ドークローが優しい眼差しで「待っていろ」と頷いた。
賑やかだ。それでいて、穏やかだ。この穏やかさを他班に自慢できるほどに。
他の班なら、きっとこうはいかない。
A班のメンバーは四人全員が高い能力を持ち、吸血鬼の幹部集団としていつも気を張っているように見えるし、C班はコルリ・メッセとウィリアン・ネーロの喧嘩が絶えない。D班は『スファラ』唯一の医療班のため常に多忙で、E班は忌み避けられている白マントを匿っていることで他から危険な場所として認識されている。
更に、一部の吸血鬼しか知らないが、D班とE班は集団として対立している節がある。一人一人の関係性は悪くはないのだが、『D班として』『E班として』見たときに、必ず噛み合わせが悪くなるのだ。
……他の班を見ていくと、此処がどれだけ穏やかなのかがよくわかる。大きな争いもなく、平和なまま。
「ハーゲッデも生地の色の希望を言ってくれ」
「この中から選ぶんだってよー!オレこの薄紫にするわ!」
「ハーゲッデには、少し大人しめの色が似合いそうっすけどねぇ……。」
ドークローと、メリノと、ガドロブが俺に明るく声を掛けてくれる。その表情が嬉しくて、それだけでB班のリーダーであることを誇りに思える。
「平和であってくれ、この場所だけは。いつまでも。」
俺が不意に零した言葉に、皆は驚いたように目を見開く。けれど、その次の瞬間には、全てを理解したように微笑んでくれるのだ。
……ああ、平和であってくれ。
そう心からまた望んで、俺は三人の輪のなかに入っていった。




