46.博打狂い
〜数百年前〜
相手との立ち位置関係は、こちらがマイナスだ。なら、それがフェアになるように。そうでなくとも、近付けるように。
心の優しいリーダーみたいに、敵に塩を送ってやるような奴には、この仕事は任せられない。悪魔との交易は、ボクの役目だ。
適当な迎合行動に沿わせて貼り付けた、薄っぺらい笑み。簡単に破れそうなそれだけど、のらりくらり躱す精神と根気さえあれば、意外と持ち堪えてくれる。大袈裟なほどに笑って見せて、根拠を持ち出して、悪びれずに言い包める。
……ほら、明日の命は保証された。
「んー?」
悪魔からもらった物の中にあった、半年前に広まったのだという物理学の論文の写しを眺めていると、いくつもの紙束の中に、一回り小さな紙束があることに気付いた。論文の写しではないし、伝承を記したものでもないそれは、理屈とは違うところでなぜか惹かれた。
「なぁに、これ。」
そうやって、埃の舞うそれを、軽い気持ちで開いたのがいけなかった。
集落『スファラ』の吸血鬼の情報が記しあげられたそれは、足の先から上りくる百足の姿を理解するようにじんわりと、でもはっきりと、自分の恐怖を煽った。悪魔に返すべきである、見てはいけないものだと悟り、気付いたときには放り投げていた。
「……っ!」
本人が口を割らないような情報も、ボクは知ってしまった。すべて見てしまった。
ゴウ・タイルが力を使えないことも、コルリがウィリアンを忌む理由も、そして、『呪い』の存在、正体も。
あのとき、ボクが手を差し伸べて、行動をしていたのなら、なにかが変わっていたのかもしれない。
でもボクは、それをしなかった。
……レイネル・ハルマの白いマントを見る度に、彼がボクを荒んだ目で見る度に、自分の過ちを悔いた。
異端というレッテルを貼られて、異質な存在だと可視化された、その白マント。その彼に、寄り添ってあげることができなかった。
レイネルに向けられる冷たい視線を感じて、ボクたった一人を忌むことで彼が満足するなら良いと、受け入れてしまっている。
ボクと、彼にかけられた『呪い』は、きっと解けない。そう理解するのに、時間は掛からなかった。




