34.小夜嵐
「……結局、魔法が使えないと白マントなの?」
「いや、違うっすよ。まったくもって。」
私の目の前で泣き崩れたゴウ・タイルは、そのまま眠ってしまった。B班のガドロブ・ボーワにゴウを背負ってもらって、メリノ・ジャンヴィールと一緒にD班の部屋へと戻る。
「白マントになる理由は、知って気分のいい話じゃないんで、知らない方が身の為っすよ。アンタが知らないってことは、ユーリスたちが言おうとしてないってことでしょうから。」
ブラウンが一束混じったオールドブルーの髪をお団子にまとめて、ローアンバーの虹彩に柔らかい光を宿しているのがガドロブ。普段から世話焼きな吸血鬼で、同じB班メンバーのドークローと同じように、少し母性を感じることがある。
真剣な今の眼差しも、ゴウを想ってのものなんだろうな。
「なるほどね。それなら、私が踏み込むのはやめておくわ。」
ガドロブは、済まなそうに微苦笑を浮かべながら頷いた。目の前に、ゴウのルームメイトのムーサ・ナリジアを見つけると、ガドロブは彼の方へとゴウを届けに行った。
「おっ、あれ、フュラオじゃね?えらいなー、謝りに来たんかー!」
私の隣で楽しそうに歩いていたメリノが、面白そうに声を上げた。その声に目を凝らすと、サラリと靡く銀髪が、ガドロブに負ぶさって腫れた目を擦るゴウに向かって、深く頭を下げているのが見えた。顔を上げた銀髪は、ライラックの虹彩を涙で濡らしていた。
彼はC班所属のフュラオ・ミオニ。浮世離れの典麗な見目を持つ吸血鬼だけど、演者気質でナルシストだ。
でも、今の彼にはナルシストの影は無く、ただ申し訳なさそうに頭を下げる、素直な青年がみえた。
「えらいなー、ちゃんと謝罪すんの。」
「え……、普通じゃない?」
「普通じゃねーよ。素直に認めて謝れない奴なんて、山ほどいるじゃねーか。……俺だって、責任負うの大っ嫌いだしな!」
メリノは、顔をパッと上げ、一刀両断しつつカラッと笑った。あっけらかんと笑うメリノには、責任感など皆無だ。
「もう……。ガドロブが言ってたわよ?貴方からは到底、目を離せそうにないって。」
私も、わざと巫山戯たように片眉を上げてみる。私の方を見下ろしたメリノは、悪戯を考えるときのE班メンバー、ルカ・ユリィのような目で「ひひっ」と笑った。
「あいつはいーんだよ、面倒ごとに巻き込まれんの大好きな性質だから。暇すると、自分から厄介ごと背負いこみに行くやつだからな。」
「メリノー!?聞こえてるっすよー!」
遠くから、ガドロブの声が通り過ぎていった。その二人に、フュラオもゴウも、そして私も、笑っていた。
ゴウの傷が癒えるにはまだ時間がかかりそうだけど、この一件は明るみに出たことで、一旦の区切りがついた。
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「お疲れ様です、リベリテ。」
全てが有耶無耶になり、形だけの終わりを迎えた。その日の朝、俺……A班所属のスイレイ・クランナは、D班所属のリベリテ・コルトに声を掛けた。
スクエアグラスの奥のミッドナイトブルーの虹彩は、無表情ながらも、俺に対する憎悪を隠さず射影していた。元から人と関わることが得意ではない男だから、他人に対する対応の匙加減も下手なのだろう。
「サムスはいますか?」
ツンと清ました目尻が、嫌悪に歪められたのが僅かに見て取れる。ふいっと外方を向くと、手に持っていた本に目を落とし始めた。
「……今行って、真面に取り合ってもらえると思っているのか。魯鈍だな。」
「魯鈍はどちらです?人の感情汲み取るの苦手ですよね、貴方。言われる筋合いはありません。少なくとも、貴方には。」
俺の言い方に、リベリテは軽く腹を立てたらしい。本を持つ手に力が入った。
「ゴウを傷つけてなお誠意を見せない奴に、サムスは寛容にならない。それくらいは分かる。……話は私がきいてやる。」
読んでいた頁を下にして机に本を置き、その勢いで、自分の椅子に座っていたリベリテが立ち上がる。これに何か口を挟むのも面倒で、俺はそのままリベリテに頼んだ。
「いつもの薬が、切れたので。……頂きに来ました。」
リベリテが、冷たい無表情のまま首を傾げる。俺の言葉が分からないのも当たり前だが、リベリテはくいっと指を曲げ、情報を寄越せと示してきた。
「『パンジーの花を手折るガーデングローブ』を、と伝えてください。」
そこまで言って、漸くリベリテは理解したらしい。そして、リベリテが俺から目を逸らしたのと同時に、部屋の奥からサムス・マロトが出てきた。
「……も、もう、切らしたの?」
心底気色が悪いと言いたげに顔を歪めながら、サムスは棚から小瓶を一つ手に取ると、鑑定するようにそれを眺めた。
「その劣情、どうにか……ならない?本当に。相手が誰なのか知らないけど……。見てもらえないのに、何度も繰り返す、なん、て。はっきり言って、気持ち悪い。」
ベビーピンクの柔らかい髪に、カナリヤイエローの虹彩。普段は意志の弱い男のはずなのに、今日はどうにも当たりが強い。リベリテの忠告通り、不快感を抱かれているのは本当らしい。
「……ベッドに隠した黒百合を、『あの人』は散らしてくれませんから。」
サムスが机にコトリと置いたその薬を、俺は礼を言わずに手に取って、D班の部屋を後にする。二人の小さなため息が、俺にはしっかりと聞こえた。
ドアを閉める直前に、リベリテがさっき読んでいた本が目に入った。『カルファリア・パレスリー』と書いた紙を、リベリテは本の上に被せていた。
……ああ、そう言えば。トリエミア家の子息が、その言葉を口にしていた。
予想もしていなかった収穫に口元を綻ばせつつ、俺はD班の部屋のドアを、しっかりと閉めた。
本作をご覧いただきありがとうございます。水浦です。
さて、ここで一旦、ゴウ編が区切りとなります。初っ端からスポットを浴びたゴウ君ですが、本来は王子様キャラを想定していた青年です……。因みに、アナリーも言っていますが、吸血鬼の中で一番の美形はこの人です。理由は聞かないでください。ただ何となく、コイツだ!と思っただけです。
次からは四章に突入、そしてスイレイ&アナリー編へ参ります。アナリー編も、キラ編と同様に長引きます。ゴウ編のように、ひとまとまりでスパッと終わりません。
長々と書いてしまっていますが、どうぞよろしくお願いします!
※追記となりますが、次章の40は、行為表現が含まれます。苦手意識のある方はお控え下さい。後日、表現を控えた形で、話の流れは分かるように改定した話を投稿いたします。
そのままで大丈夫という場合は、そのままお進み下さい。




