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31.白マント候補


「逃げた。」

 コルリが、おれをしっかりと抱きしめながら、ついさっきエリエが出ていったばかりのドアを睨んで呟いた。

 エリエに何があったのかは知らないけど、A班に所属するユーリス、スイレイ、ディロップ以外を嫌っている彼が、おれに向かって謝った。

 別に謝ってほしいなんて思っていないし、むしろ謝られる方が反応に困るけど、おれに向かって頭を下げた彼に、今まで見たことのなかったエリエの『本来の顔』が、チラリと見えた気がした。

 リーダー・ユーリスは、エリエを追うことはせず、端の方で楽しそうに見物をしていたスイレイ・クランナの方へ視線を投げた。

「……で、スイレイ。お前の言い訳も一応聞くけど?」

 ユーリスの声は怒気を孕んでいた。スイレイの動きを待ったけど、彼は静かに笑ったままだった。

「別に、ここまで来てまで、自分を弁護する気はありませんよ。俺が悪いということにしたいなら、そうすればいい。ですが……。」

 その発言から、反省など全くしていないのが著しく伺える。チラリとおれを一瞥してきた桃色の虹彩に、生き物らしい光はない。身体が痛みを伴って固まった。

「白マント候補を野放しにしておく……というのは、いただけませんね。」

 スイレイはそれに付け加えるように「白マントの条件を満たす者など、本来居てはいけないのですから」と呟く。その言葉に、いかに自分がスイレイに認められていないのかを理解した。

 白マントの、条件。それはつまり『普通から外れること』。

 吸血鬼は、それぞれが持つ特別な指輪の力で、特別な力を使うことができる。その魔力の強さでリーダーが決まったり、班の部屋割りもわけられたりする。

 でも、おれにはその力が殆どない。怪我を治す以外、自分専用の固定魔法が使えないのだ。

 もう、おれに口を開く権利は何もなくなった。 無意識な体の震えに気付いてくれたコルリが、そっと手を握ってくれた。

 スイレイの余裕綽々の笑みに、ユーリスが顔を顰めた。

「あまり調子に乗るようなら、こっちも色々考えるからね、スイレイ。」

 彼の表情が、馬鹿にするなと言いたげに少し歪んだ。それに気付いてはいないようで、ユーリスはノリスの方へと振り返った。

「ノリス、フュラオとウィリアンに伝えておいてよ。『今出てくれば、咎めはしない。だが逃げるようなら、問答無用で抑える』ってね。」

「フュラオは反省してるし、呼んだらすぐ来てくれるよぉ。だから、あの子は大丈夫。……でも、そうだね、ウィリアンには伝えておくよ。」

 ノリスの微笑みに、微かに影が落ちる。おれを抱き締めているコルリの力が分かる程度に強まって、大して苦しくないはずなのに、喉の奥に酸素を落とし込む方法がわからなくなった。

「……ユーリス。貴方に、俺をどうこうすることが可能ですか?」

 折角(せっかく)自分から話題が逸れたというのに、また自分に意識を向かせたスイレイは、ユーリスとノリスの間に割って入っていった。

 スイレイが、ユーリスの肩を自分に引き寄せて、何かを囁いた。その仕草がなぜか、粘着質で淫猥(いんわい)な触れ方に見えたのは、周りの反応を見るかぎり、おれだけじゃないらしい。

 スイレイが何かを耳打ちした直後、ユーリスの顔色が一気に悪くなった。唇は震え、瞳に宿していた光が弱まり、今にも倒れそうにふらふらと身体が傾いでいる。

「……ね?ですから、俺の言うようにしていれば良いんです。白マントは要監視、不審な動きがあったら即刻処罰。これで良いでしょう。」

 スイレイの顔が、勝利を確信した笑みになる。自分の身を守るようにマントを引き寄せたユーリスに、ディロップが焦った顔で駆け寄ろうとしていた。

 でも、ユーリスがそれを目だけで制した。勢いよくマントを払ったユーリスは、今までにない目の強さでスイレイに噛みついた。

「馬鹿げたことを言わないで。」

「本当のことでしょう?常識から外れた奴をそのままにしたから、『スファラ』には二人も白マントが存在している。」

 強気で歯向かったユーリスは、スイレイの冷徹な目から顔を背けた。さっきよりも顔色が悪い。どうしてユーリスがああなったのか、おれにはわからなかった。

「おれがしたことは、間違いではないと思うんですがね。」

 キィ……と、扉が開いた音がする。おれとサムスだけが、それに気づいた。

 スイレイはその音に気付かず、言ってはいけないことを口にした。


「『無能』を、そのまま生かしておくだなんて。吸血鬼の面汚しも良いところですよ。」


 早く、逃げ出したくなった。

 ドアを開けたのは、アナリーだった。

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