25.憂色を示す
それから三時間ほど経過した後、私とゴウは通りすがりのD班メンバー(つまり、ゴウのルームメイト)、ムーサ・ナリジアに発見された。
彼は、何でもかんでも褒め称える、崇拝癖のある吸血鬼。チャコールグレーの短髪に、パウダーブルーとスカーレットのオッドアイを持っていて、耳には黒い石でできたシンプルなピアスを着けている。
ムーサは、私達二人の姿を見てすぐに状況を理解したらしく、弱ったゴウの背を支えて、私も一緒にD班に戻った。
部屋にいたサムス・マロトもリベリテ・コルトも、ふらふらと揺れるゴウの姿に驚愕していた。
ベッドに座ってボロボロと涙を零すゴウを、リベリテが守るように抱きしめている。本来、他人にはあまり興味がない奴らしいけど、慈悲深いところもあるみたい。
「……もう、我慢の限界。」
サムスが、肩を震わせるゴウの姿を見て一言、ボソリと呟いた。いつもオドオドしている姿とはリンクしないその姿に、リベリテが分かりやすく顔を顰めた。
「さ、サムス〜……。抑えてくださいね?駄目です駄目です、思いっきり怒ったら。いや、確かに勢いのあるサムスはリーダーらしくて尊敬できますけど、目の前で怒ったらゴウが貴方の剣幕に耐えきれませんよ〜……!」
ムーサが、苦笑いのまま、サムスの背中を必死に擦っている。その姿に申し訳なくなったみたいで、サムスはムーサの手を止めさせた。
それにしても、こんな時にすら褒めるとは……。ムーサの崇拝癖、恐るべし。
「会議、しないといけないかな……。一旦、ユーリスに聞いてくる。」
「……ああ。行ってこい。」
リベリテが、ゴウの長い髪を梳いていた手を止めて返事をした。リベリテの指輪は、サムスと全く同じ、緑色の狼の横顔。
その指輪、人と被ることあるんだ……。
サムスが部屋から出ていったのを見届けてから、リベリテはゴウの髪にまた触れ始める。ムーサはその二人を暫く見ていたけど、一つ溜息をつくと、私の方を見た。
「アナリーさん、ゴウを見つけてくれて、ありがとうございました。」
ニッコリと笑うムーサに、私は気にするなと首を振る。
「偶然通りかかっただけだから、大丈夫よ。」
リベリテに寄りかかるゴウは、幼い子供のように見えた。此処の吸血鬼たちの外見年齢は十五〜十七歳くらいだから、当たり前なんだけど。
「こうなる前に、行動を起こしていればよかった。これは、俺たちの落ち度です。エリエさんやスイレイさんの気に触らないようにと生きてきた、俺たちの責任。」
ムーサも、自分の班の仲間を大事に思ってるんだな。だって、視線が温かいんだもの。
「これからは、絶対に同じ思いをさせない。……ゴウは本当に、本当に何も悪くないんですから。」
ゴウは、小さく「ごめんなさい……」と繰り返しながら、絶えず落ちてくる涙を拭っていた。リベリテは、片手に本を持ちながら、ゴウの頭を撫でている。
「ゴウ、貴方は何も悪くないですよ。今は一旦、ゆっくり休んでください。」
ムーサの声に、ゴウは弱々しい笑みを浮かべる。そのままリベリテに体を預け、ゴウは目を閉じた。
どうしてこうなっているのかもわからない。何もしてあげられない私が、とても歯痒かった。
バンっと、大きな音とともに、D班のドアが破られた。その大きな音に、眠っていたゴウも「なにっ!?」と飛び起きてしまった。
「ゴウ……!」
一番初めに入ってきたのは、C班に所属する吸血鬼、コルリ・メッセだった。普段は眠そうになっている目に今日は涙を浮かべて、そのままきゅっとゴウを抱きしめた。
「コルリ……?」
「…………。」
コルリは何も言わないまま、ただそっとゴウを抱きしめている。ゴウもそれを抱きしめ返して、そのうちに目にまた涙を浮かべた。
次いで入ってきたのが、A、B、C、Dのリーダーたち。皆が皆 荒んだ表情で、部屋に入ってきた。
「キリア・トビニッツは?」
帰ってきたサムスに、リベリテが視線を送る。サムスはゆるく首を振ると、私の方を見てきた。
「貧血で動けないらしい。アナリー、申し訳ないんだけど、E班の方に移動してくれる?」
サムスの真剣な表情に、私は頷いて返す。サムスがまた頷き返してくると、そのままリベリテとゴウの隣に腰を下ろした。
「ゴウ。いきなり大人数で押しかけて、本当にごめんね。でも、少しだけ、俺達の話に付き合ってほしい。」
吸血鬼の長と呼ばれているA班リーダー、ユーリス・ビディが、金髪を揺らしてしゃがみ込み、ゴウの顔を見あげた。
ユーリスの顔は、ゴウを安心させるための穏やかな笑顔だったけれど、彼らの周りには、なんだか肌がヒリヒリと痛くなるような空気が流れている気がする。
自分の寿命が縮むのを感じて、私は逃げるように部屋を出た。




