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21.私は、まだ帰れない


 トリエミア家の子息が剣をギラつかせて、スイレイの首元に剣を突こうと足を踏み出す。スイレイも自分の指輪に触れて、目の前の男を警戒した。

 このままじゃ、どっちかが死ぬ!

 キラが間に入ろうとしたとき、シャン、という鮮やかな鈴の音がなった。

 それとほぼ同時に、目の覚めるような薔薇色が、ふわりと舞った。

 あまりにも優雅なその影に、キラもスイレイも目を丸くする。トリエミア家の子息とスイレイの間に影が入ったもんだから、トリエミア家の子息が慌てて身を引いた。

 空から、少女が降りてきた。……と、思った。

「……間に合って良かったわ。」

 アナリーが、アナリーが降ってきたっ!!?

 キラはもう何も信じられなくて、ぽかんとしたまま動けなくなっちゃった。スイレイも、信じられないものを見たって目をして、「はぁ……?」とぼやいている。

 そんな中、トリエミア家の子息とアナリーだけはひどく冷静に、目を見つめ合った。

「……ロード。」

 アナリーの聞いたことも無いような低い声に、トリエミア家の子息が、安心したように目を細める。

「……君が生きていて心底安心したよ。元気そうだね。よかった。」

「ひとまず、その剣を下ろしなさい。」

 アナリーって、トリエミア家の子息とつながりがあったのか……。え、それ、けっこーマズくない?

 トリエミア家の子息は、キラ達を殺そうとしてくる。もし、アナリーが言い包められてこっちを敵視したら……?

 此処にいる吸血鬼の殆どが、絶望するよ。皆、やっと掴んだ希望の光を失うよっ!!

 てか、危ないのはキラたちもなんだけど……。

「アナリー、剣を手に持った男から離れてください。貴女、丸腰なんですから。そもそも、窓から飛び降りてくるなんて危険なこと、しないでください。」

 よく言った、スイレイ・クランナ!

 アナリーは、トリエミア家の子息から目を離さないまま、キラ達を庇うように手を伸ばしてきた。

 だから違うって。危ないのはキミなんだって。キミだけだからね?今この場で武器持ってないの。本当に。

 ほら、トリエミア家の子息も、疑わしそうにキミを見てるじゃん!

「アナリー。迎えに来るのが遅くなってごめんね。……帰ろう。」

 トリエミア家の子息は、小さくため息をつくと、憐れな人でも見るような目でキラたちを見てから、アナリーの手をスッと取った。

「ちょっと、待ちなさいよ……。」

 アナリーの声が、戸惑うように震えている。トリエミア家の子息には、その反応は予想外だったみたいで、哀れな子を見るような目を、より一層困らせた。

「どうして?やっと、待ち望んだ故郷に帰れるんだよ?自分の意志に背いた、化け物だらけの秘境から逃げられるのに?」

 どうして逃げるの、と言いたげな瞳。アナリーの肩が、微かに迷うように震えているのが見て取れる。

 あ、アナリーがさらわれちゃう。

 ……いや、当然なんだけどね。向こうから見たら、悪者はこっちなんだから。

 本来なら、囚われのプリンセスは王子に手を引かれて生還し、物語は幕を閉じる。それが一番美しくて、ラインに引かれたストーリー。

「……ユーリス。止めますよ。」

 さっきまで様子を窺うように彼らを見ていたスイレイが、ボソリと呟き合図を寄越した。

「……そうだね。」

 美しいストーリーがあって、キラたちがそれを阻む存在だとしても。……それでも。

 キラとスイレイで、トリエミア家の子息と見つめ合ったままのアナリーの手を奪う。トリエミア家の子息が、不満げに眉を上げたのがわかった。

 アナリーは、驚いたように「二人とも……」と薄く声を上げている。

 彼女の体温。それをどこにも逃さないように、キラは彼女の手を取って、トリエミア家の子息と視線を合わせた。

「ごめんね。……悪いけど、彼女を渡すわけにはいかない。まだアナリーには、此処にいてもらわなくちゃならないから。」

 アナリーがわざわざ危険を冒してまで、此処に来てくれた理由。それが、キラたち吸血鬼のためだって、わかっているから。

 だからこそ、皆、彼女を放す気は毛頭ないんだ。

 

 アナリーが、きゅっとキラの手を強く握る。温かな彼女の体温と、化け物(キラ)の冷たい手の温度が、じんわりと滲んでいった。

「ロード。私は、まだ帰れない。」

 アナリーは、トリエミア家の子息に向かって、凛とした声でそう言った。強く風が吹いて、首筋がチリと痛む。

「どうして?」

 トリエミア家の子息が、首を傾げる。首の力を脱力させたような首の曲げ方に、得も言えない恐怖を感じ取った気がした。

 アナリーが、髪を揺らす。そしてそのまま、柔く笑った。

「吸血鬼は、悪い人たちじゃなかったわ。私は今、彼らに必要とされてる。だから此処にいたいの。」

 顔色を変えたトリエミア家の子息が、剣を振り上げた音がした。

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