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20.懐かしい顔 


「……金髪赤目の吸血鬼を出せ。」

 ユーリスに扮したキラが移動してから、私は自分の部屋に戻って、また皆の様子を見ていた。

 馬に乗った一人の男が、金髪に赤い目……ユーリスを差し出すように要求している。

 遠目でしか見られないけれど、細身の華奢な体を、鮮やかなセレストの衣裳で包んでいるその男は、重々しくそう言った。

 聞いたことのあるような声がするけど、思い出せない。……誰だっけ?

 顔はよくわからない。ピアスを着けていて視界が鮮やかでも、遠くまで見通す力はないみたい。

 下には行けないし、どうしたものかな……と首をひねっていると、風に揺れるシアンの髪が目に入った。

 吸血鬼スイレイ・クランナは、まるで一本の細い線に沿って歩いているのかと思うほど乱れなく、馬に乗った男の元へ真っ直ぐ歩き寄った。男が、面白くなさそうにしているのが何となく分かる。

「どうも、お久しぶりですね。」

「久々だろうが初対面だろうが、どうでもいい。……青髪じゃなくて、金髪赤目を呼んだつもりなんだけどな。」

 低く、噛み付くような言い方。遠慮も何も無い、ただ悪意だけを剥き出しにした物言いに、なんだかもやもやする。

 スイレイは、両手を体の後ろで組むと、笑顔のまま、男の顔を覗き込んだ。

「人の城に、爆弾投げつけないで頂けますか?直すの大変なんですよ。」

 スイレイの態度が気に障ったのか、男は明白あからさまに身をよじった。

「幾度も人を攫っている化け物の分際で、それを言うのか?」

 男の声に、冷たい棘が混じっている。優しさの欠片もないその声が、私にも敵に思えてしまうほどだった。

「はてさて、何のことでしょう?」

「……とぼけやがって。善悪の決まり儀礼(テンプレート)だ。人に害を与えた者ほど、何も知らない振りをする。」

「それは貴方の方ではないですか?俺達がやったという証は?」

「その台詞、本物の悪事を働いた奴だけが吐く物だ。」

 スイレイと、男の口論。それは落ち着く様子を見せず、寧ろヒートアップさえしている。

 えー……なんか、悪い方向に行ってない?いや、いい方向に行くわけないのはわかってたけど。でも、これ、口論で収まる……?

 と、思っていたら、案の定。男のほうが、鋭い金属音を立てて、剣を抜いた。

 ……ですよね!そうなりますよね、普通に!

 殺すのは、殺すのは一旦待って?話し合えると、言葉が通じるとわかっているんだから、一旦待って?

 と、私のそんな言葉が通じるはずもなく。そもそも、言葉に出していない祈りなんだから、通じることなどあるわけもなく。

 本当に、あの男、誰!?私がどうにか抑えられないのかしら……。

 身の危険を察知したのか、スイレイが表情を変えて、自分の首筋からナイフを取り出した。その様子を目の当たりにした男は、当然だけど驚くはずなく「へぇ……。」と、背筋を凍らせるような笑みを浮かべた。

 ……ん?ちょっと待って、その笑顔。

 常人とは違う異質感はありつつも、色白の顔に浮かべる、儚げなその笑い方。風になびく、ペッシュのその髪。そして、純粋に輝くロイヤルブルー……。

 あ、分かった。”彼”だ。

 彼なら、リーピリーの祭りじゃない今日に此処にいるのも納得できる。彼の実家は、悪魔に目をつけられた一族。アスレタルト森林の鏡を、好きなときに通ってこられるのだから。

 って、ちょっと待って。本当に彼なら、絶対にこのまま放っておいてはいけない。

 あの男は、絶対にスイレイを、殺る!

 私は、キラの静止を記憶から消して、思いっきり窓を開けた。

 此処は二階。砂の香りを運ぶ夜風が、私のローズレッドの長髪に絡みついてくる。

 私は、窓辺に足を掛けると、そのまま……二階の窓から、闇に向かって身を放った。

 ユーリスに扮したキラとスイレイが、焦った顔をしていたのは分かった。


 

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