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19.肩代わり 後編


 怒りに任せて、キラは倉庫のドアを腕づくで開ける。

 自分の身代わりを他人に任せて、なおかつ指示を怠る男に、キラは心底腹を立てている。

 大きな籠が積み上がった影に、ユーリスは屈み込んでいた。体調が悪いわけではなさそうだけど、彼は壁に体を預け、力のない目をしていた。

 心優しいドークロー・ヨイノやサムス・マロト、ガドロブ・ボーワなんかが此処にいたら、穏やかな笑顔で彼に近づき、抱きしめるのだろうけど。でも、完全に怒りに溺れたキラに、そんなことは到底出来そうになかった。

 性格が悪いことは、重々承知したうえで。こじ開けたドアを、大きく三回叩いてみる。ドアを開けた音にも気づかなかったユーリスが、ノックの音にやっと肩を震わせた。

「何してんノ?さっきからずっと、話しかけてるんだケド。」

 ユーリスの目が、キラの顔を捉える。本当に気づいていなかったみたいで、悪い夢から醒めたような影が落ちている。

「え……、キラ……?」

 いつもより数段低いその声に、キラは気づかない振りをした。自分の視界の端で輝く、赤色の石飾りが煩わしい。

「……ユーリス。キミ、今何歳?」

 え、と、輪郭のない声がユーリスから聞こえる。その態度が、キラの怒りを助長する気配がした。

 あー、これ、キレる寸前だ。そう、冷静に理解している自分がいた。

「少なく見積もっても、キラの1.5倍は生きてるよネ、ユーリス。生きる長さがそのまま現れるものじゃないと分かってはいるケド、そんなに何度も一日を繰り返していタラ、自分が今何をすべきかくらい、わかるよネ。」

 これでは、どちらが年上か分からない。こんなことは、実は今までにも何度もあった。

 彼一人の匙加減で、一体何人の吸血鬼が死に晒されると思ってるんだ。皆を蔑ろにしているその態度が、ひどく虚しくなるんだ。

 こんなやつが、リーダーか。キラたちは、こんな男についていかなきゃならないのか。

「何、その顔。」

 何かに魂を抜き取られたような顔。これでは、『容れ物』なのか『肉体』なのか、分かったものじゃない。何度も繰り返された光景。大した驚きも、もうない。

 エリエにもディロップにもスイレイにも守られて、それで他に望むものって、何?

 死にたくないとでも、思ってるの?

「ねぇ、ユーリス。わかってル?」

 キラは、じっとユーリスの目を見る。一つ溜息を吐いてから、吐き捨てるように言った。

「仮に、キミが死ぬことがあるとすれば、そのときには“俺”はとっくに死んでるんだよ。……キミの、身代わりとして。」

 ユーリスの頬と、キラの背筋に冷や汗が伝うのがわかる。想像したくない未来。けれど、これが何より容易に想像できる未来だ。

 ねぇ、何をどう思おうがキミの自由だけど、俺の前にいても尚、キミは死にたくないと願うの?自分の代わりに死ぬ男が、目の前にいるっていうのに。

 ……途轍もない悍ましさに吐き気がする。体の一部を千切ったら、痛みで誤魔化せるだろうか。

 ユーリスは、キラと目を合わせずに口を引き結んでいる。その態度に、もうキラは真面にやり合うのを辞めた。

「もう、いいや。キラがその場の判断で動くネ。相当危ないと思ったら口入れて。」

 まあ、こっちを見る気も無いんだろうけど、という嫌味はなんとか飲み込んだ。

 物置のドアに手をかける前に、仕方ないから指輪に触れる。このままこの男を放置していくのは、なんとなく後味が悪い。

 吸血鬼は、全員がそれぞれ異なる指輪を嵌めている。これは取り外しは可能だけど、この指輪がないと力を使えないので、外すヤツは殆どいない。

「【具現化せよ(エンバディ)】」

 そっと呪文を唱え、小さな砂猫のぬいぐるみを生み出す。仄かな温かさを纏うそれの首を掴み、キラに背を向けた体勢に戻っていたユーリス目掛けて投げつけた。

 ぬいぐるみは、見事にユーリスの背に当たった。驚いて後ろを振り向いたユーリスに、敢えて怒りを隠さずに言う。

「……人に自分の命を肩代わりさせてるんだから、他の所はちゃんとやってよ。」

 ぬいぐるみとキラを交互に見つめてくるユーリスに、突き放すようにそう言って、ドアを静かに閉める。何度も似たような問答を繰り返して、最早罪悪感すら浮かばなくなった。

 閉ざされたドアの奥、誰に聞かせる気も無かったであろう「ありがとう……」の言葉を受け取るのはキラではないと、聞かなかった振りをして靴を鳴らす。

 悪魔からも吸血鬼からも、ユーリスに似ていると言われ続けてきた。

 目の色、顔立ち、背丈、性格、声色。十人に聞けば十通りの答えが返ってくるくらいに、キラとユーリスの類似点は多いらしい。

 それだけの理由でユーリスの替え玉にさせられて、もう何百年経ったんだっけ。何度も何度も、ユーリスの代わりに自分の身が脅かされることに絶望したし、ユーリスより優先度の低い、【入れ替わって死んでも問題はない命】という扱いを受けていることに憤った。

 それをユーリスが察して、入れ替わりは辞めようと言い出した時は、流石にキレた。

 替え玉になったのは悪魔の指示だ。それに従わなかったら、罰を受けるのはキラになるのに。そんなことにすら思考が及ばないリーダーに、あの時は全力で呆れた。

 ……いや、埒が明かない。考えるの、もうやめよう。今のキラは、ユーリスなんだから。他の吸血鬼を危険に晒さないことだけ考えよう。

 しばらく歩くと、焦りに揺れる、シアンの髪が目に入った。

本作をご覧頂きありがとうございます。水浦です。


吸血鬼一人一人にスポットを当てる……かなり難しくなりました。はじめはキリア編でございます。楽しんで頂けておりますでしょうか!


そして、アナリーを救い出そうとやってきた人間たち。これからどうなってしまうのでしょうか?


次回は、また十日後あたりを予定しています!

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