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18.肩代わり 前編


「ごめん、遅くなった。」

 爆発音がした場所の近くには既に、A班の吸血鬼が三人そろっていた。

 黒髪にクリーム色の虹彩、A班以外の吸血鬼を嫌っているエリエ・マイゼルと、シアンの髪に桃色の虹彩、常にユーリスの傍をうろついているスイレイ・クランナ、そして、黒髪の長髪に鉛色の虹彩、冷静な常識人のディロップ・ファロウ。

 キラの考える、A班のイメージはこんな感じ。キラは生きてきた時間も長くて、A班の奴らとの絡みも多いから、この理解でも大きく相違はないと思う。

 此処にいるのがキラだと分かったら、A班の奴らはどう思うんだろう。E班の吸血鬼が混じっていると分かれば、まずエリエは不快感を示すだろう。朴訥としているディロップは驚くだろうか。スイレイは……予想がつかないな。

「今、どんな状況?」

「あれを見ろ。」

 ディロップ・ファロウが指した場所を見ると、弓や剣を持って、馬に跨った数十人が、城の前に来ていた。その中に一人、爆薬を持っている人もいて、それが爆発音の原因なのだと分かった。

「思慮の浅い者達ですね。あの場所にアナリーが居たら、どうするつもりだったのでしょう。」

 スイレイ・クランナが、下の人影を鼻で笑う。エリエ・マイゼルは、嫌なものを見るように、目を細めてジトリと彼らを睨んでいた。

 視界の端に、今走ってきたらしいB班リーダーのハーゲッデ・リゼが見えた。

「ユーリス、大丈夫か?怪我はしていないか?」

「あー、大丈夫大丈夫。無傷。」

「本当か……?」

 ……何も、わざわざキミ(ハーゲッデ)が此処に来なくてもよかったのに。

 ハーゲッデはユーリスを信奉しているから、たまに入れ替わると分かる。こいつは、かなり暑苦しい。本物のユーリスは、よく耐えていると思う。悪い奴では、無いんだけど。

 城の前にいた奴らが、揃って馬を降りる。先導していた若い男が、剣を肩に担いで声を張り上げた。

「金髪赤目の吸血鬼を出せ。」

 ……ユーリスのことだ。面倒なことに、ユーリスは人間に外見の特徴を覚えられてしまっている。

 あの男は……、トリエミア家の子息か。道理で、近頃何度も見かけるわけだ。

「俺、呼ばれてるね。行ってくるよ。」

「待て、ユーリス。貴方が行ってしまったら、彼らにとって思う壺だ。他の者に任せてくれ。」

 城を降りようとした俺の肩を、グイッとハーゲッデが掴んだ。縦ロールにセットしたライトブラウンの髪にチョコレートブラウンのアーモンドアイ、仄かに香るキャラメルに似たグルマンノートの香水と、印象はそうでもなさそうなのに、力は意外とあるようで、肩を掴まれただけなのに身動きが取れない。

「俺が行きます。」

 スイレイが立ち上がる。こういうとき、ユーリスならばどんな反応をするのだろう、と考えてみる。そして、非情で身勝手なアイツのことだから、きっとスイレイをそのまま行かせるだろう、と、スイレイに一つ頷いた。

「……スイレイ、気を付けて。」

「はい。」

 ……飄々としているスイレイも、ユーリス相手には素直なんだな。

 窓から下を眺めていると、スイレイの青髪が見えたところで、ユーリスの声が聞こえた。魔法を使って、指示を出してきているのだ。

【スイレイが出た?】

【そう。アイツが行っタ。】

 ユーリスが、考え込むように暫く唸る。その後、ユーリスは冷静に言い放った。

【とりあえず、アナリーは渡さないで。そして、キラ。もう一度、アイツらが俺を呼んだら、次は前に出て欲しい。】

……自分キミが行かないからって、随分と呑気なことを言うんだな。

 そう言いそうになって、ぐっと堪える。今この場で、コイツに言うべきセリフじゃない。

【……リョーカイ。】

 短く返して止めて、また窓に意識を流す。エリエに続いてディロップとハーゲッデも、窓を睨みつけていた。

「どうも、お久しぶりですね。」

「久々だろうが初対面だろうが、どうでもいい。……青髪じゃなくて、金髪赤目を呼んだつもりなんだけどな。」

 トリエミア家の子息が、スイレイに噛みつく。今にも斬り掛からんばかりの眼力で、スイレイと城を睨んだ。

「人の城に、爆弾投げつけないで頂けますか?直すの大変なんですよ。」

「何千人もの人を殺しておいて、それを言うのか?」

 ……殺してなんかいない。少なくとも、数千人なんて狂った数字が出るほどなんて、ありえない。

 ユーリスから、此処にきた人間は全員、人間界に戻っていないということを聞いた。信じたくなんてなかったけど、本当のことだったらしい。

 暫く様子を見ていると、まともな口論にもなっていない口論が激しさを増してきた。流石に焦っていると、鋭く響く金属音に気付いた。

トリエミア家の子息が、鞘から勢いよく、空を切るのを厭わず剣を抜いた。

 ……まずい。  

 吸血鬼は、寿命で死ぬことはない。多少の怪我であれば、すぐに治すこともできる。

 でも、過剰失血や血液以外の物の摂取、聖光(太陽光)に当たることなどが原因で、死んでしまう事がある。

 失血死は、吸血鬼の死因として考えられる一つだ。喉元を切られたら、あっけなくそこで終わるはず。

 スイレイもそれを察し、自分の手首に触れた。シャツの袖をたくし上げると、黒い蛇の刺青……の模様に触れて、そこから彼が愛用するハンティングナイフを引っ張り出した。

 あのタトゥーシールは、吸血鬼の集落『ボートレーン』の吸血鬼たちが作ったモノ。人間界にも売り回し、人気が高いらしい。

 スイレイは威嚇をするようにナイフを片手で回すと、普段の笑みを消して、トリエミア家の子息を睨みつけた。

「へぇ……。」

 笑顔が消えたスイレイとは逆に、トリエミア家の子息は一線を越えた笑顔を浮かべていた。

 遠目から見ても分かる。これは、ダメなやつだ。

【ねぇ、ユーリス。キラ、今から下に行こうと思うんだケド。いいヨネ?】

 急いで、ユーリスに連絡する。スイレイが殺されないかとひやひやしながら次の返答を待ってみる。……けれど、どれだけ経っても返事は返ってこなかった。

【……ユーリス?聞こえてるなら返して?ユーリス?】

 何も聞こえない。返事をしようとする意思も、この沈黙からは感じられない。

「あの野郎……っ。」

 周りにいる奴らに聞こえないように小声で、それでも抑えられなくなったから声にして、一言愚痴をこぼす。

「ちょっと、城に警戒の合図出してから、向こうを見てくるね。」

 他の奴らに適当に誤魔化し、その場を離れる。自分の苛立ちが靴音に現れているなんて、もう分かり切ったこと。

 ユーリスがいるであろう置物のドアを、怒りに任せてこじ開けた。

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