洞窟へ訪問-1-
「あれは、僕が子どもの頃……。そう、まだ最高位になる前の話……」
――そんなに昔の話!?
と、ツッコミそうになったミフルだが、口には出さず聞くことにした。
「迷子になった事があってね……」
――迷子?
そのワードも引っ掛かったが、口には出さなかった。
――ルウの地の中で迷子になるような場所があるだろうか?
*
そこは暗い洞窟のようだった。
まだ年端もいかない少年のケイは、訳も分からずそこを歩いていた。
灯りを見つけ、そちらへと歩いている。
灯りのそばに人影が見えた。
作業台に座り、何かを作っているようだ。
その人は真摯なまなざしをしていた。
真剣に作業しているその姿を、子どものケイはかっこいいなと見とれていた。
その時、きらりと何かが光った。
ケイの眼前で刃先を向けた状態のナイフが止まっていた。
一瞬のうちに前方から飛んできたのだ。
「いい度胸だな」
その人物が、ケイの方へ歩み寄って来る。
「邪魔したら殺すって言ったよな?」
ケイの眼前のナイフは宙に浮いたまま。
恐怖でケイはへなへなと座り込んでしまった。
声を発したのは栗色の髪の男。
「一切邪魔するなってあれほど言ったのに…… ――きみ、誰?」
ケイは恐怖で喋れず、男はとりあえずナイフをしまった。
「えぇっと、きみのお名前は?」
ケイは返事できずにいると、男はぽつりと頭をかいた。
「……怖がらせてしまったか」
*
「やべえヤツじゃん、ソイツ」
思わず、ミフルは口を挟んだ。
初対面の子どもにナイフを向けるなんて、いい大人のすることではない。
「ふうん? きみがそれ言うんだ?」
とケイが言うのも、かつてのミフルがケイにナイフを向けたからだ。
「ん、まあ……」
ばつが悪そうにミフルは口ごもる。
過去の記憶が曖昧なのだが、ナイフを向けたことは覚えていた。
「まあ、そういう男、嫌いじゃないよ」
――ドMかよ!