順応
* * *
ケイの家は雑然としていた。
その中でも異彩を放つのが、ひび割れた花瓶に生けられた花。
それと真新しいベッド。
――なんだ、オレのこと、泊めてくれる気満々じゃん。
というのはミフルの誤解なのだが、それに気づくことはあるのだろうか。
花瓶を見ていて、ミフルはあることに気づく。
「この花、ルウの地に生えてる花……」
花の名前は何だったか?
行商あたりが買って来た珍しい花なら生けるのも分かるが、その辺の花を引っこ抜いて花瓶に生けてる……?
変わり者だと思ったが、やはりケイという男は変わり者だ。
「ルウの民といえば、あまり花に関する知識がないだろう? だから、花に関して知りたいと思ったんだけどね」
ケイは頭をかく。
「何からすればいいかわからなくてね、とりあえず近くにある花でも飾ってみたんだ」
「それなら、オレの図鑑でも貸すよ」
といって、ミフルは口をつぐむ。
最高位になったからには、苗字を捨て、家族に名乗り出るのは禁止な身の上。かつての自分の持ち物も捨てる覚悟が強いられるのだろう、と思ったのだが――
「そう? じゃあ、取り合えず会見の時にきみの図鑑を持ってくるよう頼もう」
会見ってなんだっけ?と一瞬、ミフルは考える。
会見というのは、最高位と民の代表が定期的に会い話し合いをすること。
最高位側からは会見といい、民側からは謁見という言い方をしていた。子どもになったミフルにはさらに難しく感じられる。
頭を抱えつつ、ミフルは脱力した。
「最高位ってそれまでのすべてを捨て、民に尽くすんじゃないのかよ」
「誰がそんなこと言ったの? せっかくの経験を無にすることもないだろう?」
「きみの荷物は会見の時にでも持ってこさせようか? いや、会見で荷物持って来させるのも限界がありそうだね。夜中にでも忍び込んで頂戴して来ようか?」
「それって、泥棒……?」
「人聞きの悪い。元はきみの荷物だから問題ないだろう?」
「そうかぁ?」
ミフルは首をひねってしまう。
そんなわけで、ミフルは最高位の生活に順応しつつあった……?