ノリ
「そんなにうまいもんじゃなかったぞ」
と、アグは言った。
「食べたの?」
ルウの地の外れに住んでる老人が、たこ焼きを買うためにわざわざルウの地に来てたのだろうか? そんな違和感があった。
「シヴァはパースと仲良しだったらしいから、これとは違う姿でたこ焼き買い食いした」
すると、それまで老人の姿だったアグは、黒髪の女性の姿になった。
アグはウィンクして、ミフルにほほ笑む。
「これは、前に話してたカーラよ」
「姿、変えられるの!?」
ミフルは驚いた。
目の前の老人が美女に変身する――結構なインパクトがあった。
「ふふっ……」
目の前の女性は控えめに笑った。
得意げなのか、何なのか……。
「さっきは、ひひって笑ってなかった。性格とか口調も変わっちゃうの?」
ミフルはさらに驚く。
「たこ焼きの話はもういいの?」
「本当の女性みたい!」
少し前に、変化魔法を使うネードを雇っていたミフルだが、姿だけでなく口調も変わってしまうなんて恐るべき能力だ。
ネードは変化魔法でシヴァをミフルの影武者に仕立て上げたわけだが、相当な苦労もあっただろう。そんな思いで目の前の女性を見てると、にこりとほほ笑んできた。
「奔放な女みたいに思われてるけど、欲望に素直なだけなの」
目の前の女性はたこ焼きに鰹節と青のりたっぷり掛けて、ソースもマヨネーズもこれでもか!と掛けて食べていた。
「そんなに掛けたら、元の味がなくなるんじゃ……」
「これが美味しいのよ」
欲望に素直なんだって言ったでしょ、とその女性はたこ焼きを食べ、口を手で押さえていた。
口の動きを見せない上品な所作に思えた。
「こういうのは好きな調味料を好きなだけ雰囲気とノリでぶっかけて、みんなでわいわいして食べるのが楽しいのよね?」
「きっと、そうなんだね」
それが庶民ぽくて楽しいノリなんだと思った。
少し前に帰って来た行商の一行が露店を開いた。その中にルウの民ではないシヴァがたこ焼き屋を開いていた。
そんな庶民の物なぞ……と自分から遠ざかっていたが、今はその庶民たちからもっと遠い位置に来てしまった……。
「やっぱり、あの時、みんなに紛れてたこ焼き買って食べてみればよかった……」
「今からでも遅くないわよ」
と、カーラの姿でアグは笑う。
「そうかな」
ミフルに、カーラの姿でアグは微笑む。
ミフルは、これでもか!というぐらいにソースをぶっかけて、食べてみた。
ソースの味しかしなかったが、こういうノリも大事かもしれない、そんな気がした。
「カーラって欲望に素直な女って言ってたけど、だから裸でリゾに抱き着いたりしてたの?」
カーラという名前、どうも聞き覚えがあると思ったが、リゾとグレスとそんな会話をしていたからだった。
そう聞いて、アグは戸惑ったような表情になる。
「それは知らなかった」
言いながら、黒髪の美女はまた元の老人の姿に戻っていた。
「そういうのは本人に直接聞いたらいい?」
「え?」
聞ける訳がない。
まあ、仲間だからといって、みんながみんなそんなプライベートなことまで把握してるわけもない。
ミフルはそう納得して、カーラという女性に会ってみたいと思っていた。
ミフルだって承認欲求の赴くまま行動してきたのだ、欲望に素直な女性と何か共通点があるかもしれない。




