暗殺前夜
それは偶然だった。
長老だった頃、駆除目的で捕獲した毒蛇を部屋で飼育していた。
蛇に生餌のねずみをあたえようとした所、蛇は飼育ケージから抜け出した。
その蛇がたまたま部屋に飾っていた花を丸飲みした。
――肉食の蛇が花を食べるなんて珍しい。
その蛇は次は生餌のねずみをまたたく間に捕獲し、丸飲みにした。
――狂暴性が増した?
いや、まさかとは思った。
本来、食べるはずのない植物を食べて何らかのストレスを感じて、狂暴になる――?
そんな仮説を立てて、蛇に植物を強引に食べさせてみた。
そうして、分かった結論。
ある特定の植物を摂取すると、蛇の毒性が強くなる。
この事実に気づくのに、実に数年の時を費やした。
強くなった毒を少しずつ貯めて、呪いのこもったナイフにたっぷり塗りつける。
そうして、ケイを暗殺しようと画策したわけだが、その計画は失敗に終わったのだった。
*
――オレって、大それたことやらかしてるのな……。
ミフルはため息をついた。
時刻は夕刻。場所はケイの家の中。
ミフルは、ボロボロのテーブルの上、図鑑を広げていた。
リゾとロイの決闘(ミフルの目にはそう見えた)の後、ファウに遭遇し、リゾの意外な女性関係を聞かされ、その後はいつものように家造り。
そうして、またケイの家に帰ってきたわけだ。
帰って来ると、かつての自分の持ち物だった図鑑がどかんと置かれていた。
会見に行ったケイがオズから渡されたらしい。
――よくこの量の図鑑を持って帰ってこれたな。
動物と植物がメインの十冊の図鑑セットだ。
それ、プラス、なぜかミフルが書き溜めたノートもついてきた。
会見で、図鑑を頂戴と提案するのはおかしいがまだ分かる。だがミフルの私物のノートも寄越すだろうか?
まさか、以前話してたように『夜中にでも忍び込んで頂戴して来ようか?』というのを、実行したのだろうか?
――ケイならやりかねないな。
ミフルは苦笑しつつ、ケイのことは頭から放り出し、自分のノートを開いてみた。
毒殺やら呪いなどに関することが書いてたはずだ。だから当時の自分は誰にもわからない暗号で書いていたのだが、それが仇となった。
書いたはずのミフル本人にもまったく読めない。
だが、自分が書いたものには間違いなく、懐かしさもありページを捲った。
一番、最近のページを見ると、そこには呪いのわら人形について書いてあった。
――行商から買ったものの、まだ試してなかったな。
わらで出来た粗末な人形だったが、結構な値段だったように思う。
今にして思えば、ぼったくられただけのような……
*
ミフルは出掛けることにした。
わら人形が気になるし、ケイが言ってた『夜中にでも忍び込んで頂戴して来ようか?』というのが許されるのなら、自分のわら人形を持って帰るくらいいいだろうと思ったのだ。
幸いなことに、ミフル用の環境維持ロボはラテーシア邸のそばを自動操縦で動いていた。
ラテーシア家の庭に入り込み、元自分の部屋のそばへと行ってみる。
幸いなことに窓が開いていた。
しかし、そこまでだった。
窓が開いてたからといって、中に入ることはできない。
しばらく、元自分の部屋の窓を眺めていたが、結局は眺めてるだけだった。
ふと、庭に目をやると、かつて蛇に食べさせたあの赤い花が咲いていた。
それを一本だけ摘んだ。
そのまま帰るわけだが、手ぶらなら環境維持ロボから自分の肉体に戻ればいいだけなのだが、何かを持ち帰る場合は環境維持ロボを操作しその場所まで誘導させなければいけない。
――これも操作の練習。
そう割り切って、ミフルは走り出すのだった。
帰る道中、そういえばケイの虹色水晶はラミア型のアンドロイドが持ってたっけなー、蛇に縁があるなー、とも思っていた。
ケイの暗殺未遂については『月色の砂漠~ロイの憂い~』
わら人形の購入については『月色の砂漠~帰ってきた行商~』
……を、どうぞ。




