願い
ファウ目線の話。
「……私を殺して欲しい」
キョウの言葉に、ファウは絶句した。
*
キョウの家にて。
「何を言うの!?」
ファウが否定するように言葉を投げかける。
きっかけは、長老の死だった。
キョウは環境維持ロボを操り、水脈を拓いたのだという。
その際、アンドロイドに襲撃され、長老がかばって亡くなったという。
その場にいたというオズはじめ長老の部下たちは、キョウが気に病むことではないと言ってくれたが、キョウ本人はそうもいかなかった。
それに加えて、環境維持ロボが壊れた際に、精神的に不安定だったのだろうか。
キョウはリゾの魂を喰らおうとしたのだという。
「自分の行いによって、リゾを死に追いやるなんてことがあったら……」
キョウは狼狽えていた。
ファウの本音としては『そうなればいいのに』だった。
そもそも、リゾによってキョウは髪と魔法を奪われたのだ。
そんなキョウがリゾの魂を喰らって、誰に文句を言う権利があると言うんだ?
と、言いたいファウだったが、どういうわけかキョウはリゾを気に入ってる。
恋人である自分が『さっさとリゾの魂を喰ってしまえ』なんて、キョウはショックを受けるだろう……
「もし、私がリゾを傷つけたら、私を殺してほしい」
キョウは絞り出すように言った。
「……落ち着いて」
ファウは言う。
「甘い物好きでしょ?」
ファウは、キョウが好きなパウンドケーキを持参していた。
「お茶は私が淹れるから座ってて」
とキッチンに行く。
キッチンから戻ると、キョウはぼうっとただ座っていた。
いつもなら、自分でパウンドケーキを切り分けたりするのだが、これは相当精神的に参ってるようだ。
ファウはキョウにお茶を差し出す。
自分もテーブルに座り、パウンドケーキを切り分ける。
「……お茶?」
キョウが首を傾げていた。
「お茶のお替りなら、いくらでも」
ファウは、キョウのカップにティーポットからお茶をつぎ足す。
「うん、ありがとう」
キョウがまたお茶を飲んで、「美味しいね」なんて言った。
「でしょう」
実はこっそり練習して来たのだ。
キョウにはその味の違いがわかったのだろう。
「元気出してね」
パウンドケーキを切り分け、自分もお茶を飲んでみる。
かなり、薄味のように感じた。
二人はパウンドケーキを食べ、薄味のお茶を不思議に思っていた。
「茶葉が少なかったかしら?」
ファウがティーポットの蓋を開けてみる。
量的には問題なさそうなのだが……?
「あ!」
と、キョウが口を押さえた。
「え? 何?」
「あ、あの……」
キョウが黙ってしまった。
「どうしたの?」
「えっと、その……えっと~?」
どうも言い難いことらしい。
「キョウが悩む訳が分かったわ。そうやって溜め込むからいけないのよ。思ったことはちゃんと口に出して言って」
キョウは観念したように口を開く。
「それ、ひじき」
「えっ!」
ファウがまたも絶句する。
「え? 嘘、やだ……」
すると、キョウはぷっと笑い出した。
「くっくく……くっ! ……ありがとう、ファウ」
「え? 何が?」
「私を元気づけてくれようとしたんでしょう?」
「えっと…… え? え? まあ、その、そうなの!」
ある意味そうなのだが。
「おかげで今晩のおかずも出来たし、コーヒーを淹れてくるよ」
キョウはティーポットを持って、キッチンへ。
ほどなくして、コーヒーの香りが広がる。
「少し前にコーヒー売りが来てたでしょ。そのコーヒーなんだ」
そういえば、そんな事もあったな、とファウは思った。
「コーヒーの淹れ方なんてわからないけど、これで合ってると思う」
キョウが淹れたコーヒーは美味しかった。
「また、こうして、二人でコーヒーを飲もう」
ファウが言うと、キョウは頷く。
「だから、早まったことはしないで」
もしも、キョウがいなくなったりしたら?
ファウは少し涙ぐんでいた。
それをキョウに悟られないように、パウンドケーキを食べていた。




