忘れる
――きれいだな。
と、ミフルは思った。
その黒い水晶は、時折、虹色に光る。
黒い水晶の環境維持ロボをはきびきび動いていた。
その水晶をきれいだなと思いつつ、どこかで見たことあるような気がする。
ミフルはどうにも色んなことを忘れてるようだ。
(どうしたの? 疲れた?)
そんなミフルに、黒い水晶の環境維持ロボが話しかけてきた。
環境維持ロボは声を出して喋れるわけではないが、こうして意思を伝えることができる。
いや、環境維持ロボ自体に自我はないので意思を伝えることは基本的にない。
話しかけてくるのは、誰かが操ってる場合の話だ。
今、このロボを操ってるのは、ケイだった。
(いや、別に。その水晶、見覚えがあるような気がしたんだ)
と言うミフルも今は環境維持ロボを操ってる状態だった。
(ふうん? 覚えてないんだ……)
なんだか、含みのある言い方だ。
辛気臭いにもほどがある。言いたいことがあるなら言えばいいのにと、ミフルは思った。
思えば、このケイという男は以前からこんなだった。
偉ぶっているように見えて、無理難題を言う割には何か奥に思惑があるような含みのあるような言い方をしたり、煙に巻くような態度を取ってみたり、何か願望があるようでそれを名言しないから若干面倒くさくもあったり。
ケイが最高位という地位があるから、かつてのミフルは媚びへつらってもいたのだが――。
ミフルはそんな自分が情けなかった。
(昔のことは思い出したくないや)
かつてのミフルはルウ族長老でありながら承認欲求をこじらせとんでもないことをやらかしてしまった。
最高位となった今ではその時のことを無くしたいと思う時があるほどだ。
幸か不幸か、ミフルは子どもになってしまったため、その時の記憶が遠い過去のように感じてしまうのだ。そのまま本当に忘れてしまうかもしれない。
メリークリスマス♪