かげえ
かげえをみた
とおくからみると
貴婦人と花ばたけと ちょうちょうだったけれど
つくづくみれば
ただの深い黒だった
あの貴婦人がうそつきだったらどうしよう
群れた花がひとくい花だったら
ちょうちょうが剥製だったら
貴婦人がきれいな人じゃなかったら
かのじょが
血染めのどれすを着ていたら
むぞうさに歩くだけで
何千何万のひとの血が
いたずらに したたりおちるだろう
かのじょが
のびた爪みたいな鋭利なくつを履いていたら
幾星霜をへてつくられた土が
いっきょに捥げて
れきしをぜんぶ否定しまうのだろう
わたしはじぶんの指をみた
誰もまちがっていないのに
みんな騙されている
わたしたちは かげえをみている
貴婦人のほそいうでが
チロリと舌をだした蛇だったら
わたしたちは なにを信じよう