3-1.彼と私の必死な攻防戦
館についてからも、私はフリードを避けに避けた。フリードはジルの馬に乗せてもらった私に対して何か言いたそうだったが、結局いつもの無表情で去っていった。
そんなフリードの後ろ姿を見ながら、私は何しているのだろうと改めて思う。聖女以前に、あの怪我だって私を守る時にやられたのかもしれない。ちゃんとフリードの礼を言いたい。それなのに、嫉妬心が邪魔話をして言えないのだ。
館を歩いていると、時々傷ついた騎士とすれ違った。みんな聖女のところに行くのだろうか。聖女って、どんな人なんだろう。
聖女に対して興味のありすぎる私は、とうとうその部屋を覗いていた。
その小さな部屋には、傷ついた騎士たちがいる。館の使用人が怪我の手当てをしたり、飲み物を配っている。その一番手前に、フリードはいた。そしてフリードの前に、とても美しい女性が座っているのだ。
金色の長いウェーブがかった髪に、上品で優しそうな顔。白いふわふわのドレスを着ている。まさしく、聖女という言葉がぴったりだ。
「俺は一番最後でいい。先に騎士たちから手当てしてやれ」
顔こそ見えないが、フリードの声が聞こえる。だが、フリードの前にいる女性は、頬を染めてフリードを見るのだ。
「私は、フリード様を一番先に治したいのです。
……私の心は、フリード様とともにあります」
それで分かってしまった。この聖女は、フリード様が好きなのだろうと。そして、私は聖女に完全に負けているのだと。
聖女は美人でおしとやかで、治癒のスキルだってある。かたや私は『野蛮人』だ。野蛮人には自分から成り下がったが、フリードの前の聖女を見て後悔した。私は素なんて出さず、令嬢を演じていれば良かったのかもしれない。
……いや、そんなことはない!
私はぶんぶん首を振った。
もとはと言えば、婚約破棄される身だ。私は婚約破棄されて、武闘家として自由に暮らしていくのだ。
フリードは頭が狂って思考が停止している。そのため、私に婚約破棄を言い渡すことすら出来ない。フリードがいつまで経っても動かないようなら、私から婚約破棄に向けて動かなければならないだろう。
聖女はフリードの手をそっと掴んだ。そして、愛しそうにそれを見つめ、力を送る。ほわっと腕が優しく光り、傷がみるみるうちに閉じていった。
フリードは、私なんかではなく、聖女と結婚したらいいのに!!
◆◆◆◆◆
翌朝、朝食の席で、
「……は? 」
フリードが顔を歪めて私を見ていた。そんなフリードを、私は睨んでいる。フリードは頭が狂いすぎて、私が何を言ったのか理解出来ていないようだ。だから私は、もう一度その言葉を告げていた。
「婚約を、解消しようと思います」
するとフリードは、また顔を歪めて吐き出した。
「はァ!? 」
やっぱり、フリードは思考が停止しているらしい。私が婚約破棄を言い渡しても、意味を理解出来ていないのだ。
三度目の宣告をしようと私が息を吸った時、フリードがようやく別の言葉を吐いた。
「待て。……どうしてそうなる? 」
私はフリードを睨んだまま、最もらしい言葉を告げた。
「私はつまらない女なんでしょう?
私じゃなくて、聖女と結婚すれば!? 」
我ながら愚かだ。どうして今、聖女の名を告げてしまったのだろう。こんな言い方をすると、嫉妬していると思われてしまう。
だがフリードは、無表情のまま少し考えた。狂って思考力が低下した頭で、必死に考えているのだろう。
そして、やがて告げた。
「悪かった」
「……え? 」
予想外の言葉に、フリードを二度見した。プライドが高いフリードのことだ、例の発言に関して謝ることはないと思っていたのだが……どうしてしまったのだろう。
「やっぱり頭狂った? 」
思わず口にしてしまい、
「は? 」
またフリードに睨まれる。どっちにしても、私は婚約破棄する気でいるのだから、謝罪なんて不用だ。そしてフリードも、聖女と楽しくやればいい。
フリードは相変わらず無表情で、腕を組んで私を見ている。きっと回らない頭で考えているのだろうが、無表情ゆえに何を思っているのか全く分からない。
「とにかく、俺は婚約破棄をするつもりはない」
「なんで? フリードも嫌でしょう? 婚約者が野蛮人だなんて言われたら」
「俺は噂など気にしない。俺だって悪魔辺境伯と言われている」
「えっ、知ってるんだ!! 」
思わず声を上げ、口を押さえる。まさか自分からその言葉を言い出すだなんて思ってもいなかった。
だが、はっきりしたことは、フリードの頭はまだ治っていないということだ。私はよっぽど強烈な一撃をお見舞いしてしまったのかもしれない。
そして、この日からフリードがさらにアタックしてくるようになったのだ。
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