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30.示威仕合


 自分の力を見せたいというのも嘘ではないだろうが、本音はむしろこちらの力量を計りたいということだろう。

 ヴィーラグアにも異存はない。


「どうする、場所を変えるか?」

「いや、ここでいい。皆も神龍の戦いぶりを見たいだろうからな」


 二体のやりとりに聞き耳を立てていた他の灰色狼や赤猴たちが、大きく場所を空ける。

 グランの言葉通り、みな期待に眼を輝かせていた。


「では、行くぞ」


 群灰色の身体から、ゴウラの光がほとばしる。

 こちらが構えるよりも速く、一瞬で間合いを詰め放ってきた爪撃を、ヴィーラグアは左腕でいなすと同時に右の拳を撃ち放った。

 グランもまた絶妙な間合いでかわす。しかも逃げるのではなく、さらに踏み込んで右腕の下をかいくぐり、背後に回り込んだ。

 だがヴィーラグアにとって、そこは死角ではない。第三の脚ともいえる太い尾をふるって、打ち据えようとする。

 さすがのグランも、これには退がらざるを得ない。

 間合いを取り、振り返ったヴィーラグアとふたたび向かい合った。


「さすがだな」

「そちらこそ」


 短い賛辞を交わし、ふたたび激突する。

 撃ち合いは互角のように見受けられたが、よく見れば攻めているのはグランだけで、ヴィーラグアは防戦一方だ。

 牽制程度の蹴りや打撃を放つのみで、とても本気で相手を倒すつもりとは思えない。

 その余裕が、相手にも伝わったのだろう。

 荒い息を吐きながら再び距離を取ったグランは、敵意をむき出しにした視線を、ヴィーラグアに投げつける。


「オオ……ウオオオオグルルウォーオー!」


 咆哮と共に、内なるゴウラが沸騰し、グランの肉体が膨張していくと同時に形状も変化し始めた。

 ほとばしる灼光の中に浮かび上がったのは、大角鹿の倍にも及ぶ体躯と長い牙を振りかざす、巨狼の姿だった。


(黒牙狼! いや、姿は似ているが中身は全然別物だな。こちらの方が数段手強そうだ)


 黒牙狼とは、人間であった頃に何度も戦ったことがある。

 強敵ではあるが所詮は獣に過ぎず、スノルウィーグで魔獣狩りを生業としていた当時は、むしろ良き獲物だった。

 だがいま目の前にいるのは、まさに種族を代表する戦士だ。

 こちらも本気で立ち向かわなくては、後れを取ることになるだろう。


(かといって、こんな場所で巨龍変化するわけにもいかないし。さてどうするか)


 変化を終えたグランも、すぐには襲っては来ずに、唸り声を上げつつも間合いを保ったまま様子をうかがっている。

 どうやら、こちらの対応を待っている、というよりも期待しているようだ。


(ならば、応えぬわけにもいくまい)


 考えたすえ、ヴィーラグアは手慣れた戦法をとることにした。

 呼吸を整え、内なるゴウラを燃え立たせる。

 光鎧。だが単に身体を覆うだけでなく、より硬質の、実体を備えた重装をまとった。

 しかもその形状は、あろうことかロスコア重騎兵の一級正装だ。


 無骨な意匠と右手に掲げる長槍、それらの凶相にそぐわぬクリスタルの煌きが、不気味な圧力を醸し出す。

 実を言えば、この形状は華燭に過ぎ、実戦向きではない。

 ただ今回は、相手よりもむしろ観客に楽しんでもらうために、あえてこの装備を選んだ。

 期待通り、周囲からどよめきが沸き起こる。


「グルルルル……」


 グランもまた、警戒心をあらわにして唸り声をあげる。

 巨狼変化により体格は倍化しているが、四つ脚形態のため体高の変化はさほどではない。正面から相対すると、重装をまとったヴィーラグアとほぼ互角に見えた。


 ヴィーラグアは鎧面の奥でニヤリと笑い、石火の踏み込みで一気に詰め寄った。

 避ける隙を与えず、長槍を横殴りに叩き付ける。

 鈍重そうな見た目とは裏腹の、俊敏な身のこなし。それもそのはず、ゴウラで錬成した鎧に重さなど皆無なのだ。

 不意を突いた一撃は、たしかに頬面をとらえた。

 が、相手もまた光鎧で身を守っている。龍の膂力で打ち飛ばされはしたものの、地に伏すことなく強靭な四肢で大地をとらえると、一蹴りで反撃に転じ、黒曜のごとき牙を閃かせて飛びかかって来た。

 ヴィーラグアは必殺の咬撃に臆することなく、長槍を捨て両手で二本の牙を掴み取ると、押さえ付けるのではなく引き込むようにして体勢を入れ替え、背負いの要領で大きく投げ飛ばした。


「ガウッ!」


 グランは空中で身体をひねり、見事に着地する。

 すかさず長槍の鋭い突きが追撃する。

 尖端をかすめるように懐に飛び込み、体当たりを喰らわせる。

 拳で弾き返す。

 牙を振るう。

 蹴り飛ばす。

 それから数合、ぶつかり合ったが両者ともに決め手を欠き、また一歩も引かぬ互角の戦いが繰り広げられた。


「あはは、楽しいな」


 ヴィーラグアが思わず漏らすと、グランはなぜか動きを止め、後ろに下がり獣化も解いて、元の姿に戻ってしまった。


「ん? どうしたんだ?」

「どうしたじゃない、何だその言い草は」

「ああすまん、つい。でも馬鹿にしたわけじゃないぞ」

「こっちは死に物狂いだというのに。まあいい、貴様の力はよく分かった」

「もういいのか?」

「ああ、貴様に勝てるなんて(はな)から思っていなかったからな。気の抜けた笑い声を聞いたら、やる気も失せてしまった」

「そうか。俺はもう少しやっても良かったんだが」

「ならば、他の者とやってくれ。おおい! 誰か神龍様と力較べをしたい奴はいないか!」


 すると、我も我もと名乗りを上げる者が殺到し、収拾がつかなくなってしまった。


「おお、待て待て。仕方がないな、おいヤーゴ、お前が半分受け持ってくれ」

「いいけど、私は手加減が苦手だぞ」

「ああ……うん、そうか。出来れば、死なない程度にたのむ」



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